よろず恋花（こいばな）

醜悪な出会い

　熊谷城に来て七日が過ぎようとしていた。
　客人扱いではあるものの、居候の身である紫苑が少しでも茜への力になりたい一心で、城の掃除を申し出た。

　よろず屋でも何かと皆の足を引っ張る紫苑が、持ち前の不器用さで、城のあちこちを細かく破壊していた。
　その様子を見るたびに、一豊が目を細め、「やはり兄弟じゃ、そそっかしい所は一緒じゃ」と嬉しそうに笑うばかりであった。
　役に立つどころか、迷惑をかけている自覚のある紫苑が、逆に落ち込みを露にした。

　そんなある日、城に客人が来た。
　相変わらず不器用な箒捌きを披露していた紫苑が、偶然にもその客人と出くわした。
　年のころは五十路。落ち窪んだ目は薄気味悪く、その目で紫苑の体を上から下まで舐めるように見定められ、蛇に睨まれた蛙のように紫苑が固まっていた。

　「お主、名はなんと申す」

　威圧的な態度に身をすくませながら、紫苑が名を名乗った。
　気を失いそうなほどの居心地の悪さを感じていたとき、紫苑にとっての助け舟が現れた。

　「堤様、こちらへおいででしたか。一豊様がお待ちでございます」
　兄の茜であった。

　「兄さん」
　その言葉を聞いた茜がしまった、という表情を浮かべた。
　同じくして、金次郎がニヤリ、と蛇の舌が見えそうな薄笑いを浮かべた。
　茜が紫苑から金次郎を引き離すように一豊のもとに案内した。
　振り向きざまに紫苑を見た金次郎が、獲物を狙い済ませるように見つめていたが、茜が現れた事で安心した紫苑が気づく事はなかった。