無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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オメガといえば、中性的な見かけをして庇護される存在なイメージが浮かぶけど、俺はその真逆をいくオメガ。

背もオメガとしては高くて、中高と学生時代は体育会系の中で生きてきた。オメガ特有のヒートとかも軽い方で、抑制剤飲んでるからかフェロモンも感じたことがなかった。
それでも過去3回受けたバース判定では紛うことなく「オメガ」と判定されてて、やっぱりオメガなんだと思う。

だからか、就職するときに一般職を希望してたけど、オメガ枠での採用になってしまった。
学生時代は「ベータ」として生きてきたつもりだったし、俺はオメガじゃなくて、普通のベータとして生きていきたかったんだけどなぁ。
 

オメガ枠の職員が配属される部署は備品管理みたいな事務仕事みたいなことをしていて、実際に会社の中を周ったりすることはほとんどない。
部署の中でパソコンをカチカチしたりする事務作業ばかり。
大事な仕事ではあるんだろうけど、替えがきくというか、当たり障りない作業ばかりで楽しいというかやりがいがあるとは言えない。 
まぁ楽っちゃ楽なんだけど。
このままずっとこの仕事をやり続けるかといえば、首を縦に振るのは難しい。
それでもせっかく入れた有名企業なので、自分のできる範囲で頑張ってるんだけど。

 
そんな時、会社のトップが変わった。
社内のいろいろが変化していって、慌しく過ぎていった。
そして、俺にも変化が起きた。
働き方改革とかいうやつで、オメガの職員も希望すれば備品管理じゃない仕事ができるようになるらしい。
そして、そのトップバッターとして、なぜか俺に白羽の矢が刺さった。
元々俺が一般職希望だったことや
あとは日頃の仕事振りが認められる形となり転属されることになった。


そうして、今日から新しい部署での仕事が始まった。
正直、少し緊張している。
馬鹿みたいに考えすぎて、朝の電車でも何度も深呼吸した。
オメガ専用部署にずっといたから、普通の業務ってどんな感じなんだろう、と。

俺が行くことになった部署に行くと、概ね好意的に迎えられているようで安心した。
俺のお世話係というかペアを組んだ相手は、二歳上の面倒見の良さそうな体育会系の男性だった。
「俺は舟形弘、よろしくな。ベータだから」
普通は話すことじゃないけど、自己紹介でわざわざバース性まで明かしたのは俺がオメガだからかな。
俺も中高は体育会系だったし、頼りになりそうな先輩だ。
「小国直樹です。よろしくお願いします」
舟形先輩に差し出された手を握る。
今までが当たり障りない仕事ばかりで、二年目ではあるが、まるで新卒の新入社員みたいな俺は、午前中はオリエンテーションみたいな案内で、場所の説明から業務内容まで説明を受けた。
昼食を共にして、午後になり漸く仕事らしいことに取り掛かった。 

仕事内容の説明は思ったより具体的で、資料整理や数字のチェック、会議で使う資料の作成など、初めて見る単語や手順が多くて少し戸惑った。
でも舟形先輩は手取り足取り教えてくれる。
焦らなくていい、と言われると、少し気持ちが落ち着いた。
終業の時間になり、キリがいいとこで今日の業務は終わる。
 

「本当は小国くんの歓迎会をやりたいとこなんだけど、今うちの課は大きいプロジェクト抱えてるから、時間ある人だけでちょっとした食事会でも」
と、帰りは近くの割烹居酒屋に誘われた。
メンバーは舟形先輩の他に二十代から三十代くらいの三人と俺の五人で、会社近くの店に歩いて向かった。

「カンパーイ」

食事会に参加したメンバーから無礼講ということで、課内のメンバーについていろいろ教わった。

「白鷹課長は注意した方がいいぞ」
一人がそう話すと、
「オメガ嫌いで有名だからな」
「番じゃないようなんだけど、婚約者なのかな、専務の娘さんがいるからなぁ」
「そうそう。彼女以外のオメガを毛嫌いしてるようだよ」
「今回の人事だって、なんでうちの課にオメガが来るんだって、思ってるみたいだよ」
課長の白鷹迅についてのことをいろいろ話してくれた。

オメガをあまり好意的に思ってないアルファは少なくない。
特にハイスペックなアルファはオメガからフェロモン攻撃を受けるっていうのは珍しくないようだ。
白鷹課長くらいイケメンで、優秀なアルファなら苦労してきたんだろうな、という思いに至るのは容易い。 

「小国君、最初はちょっと怖く感じるかもしれないけど、仕事をきちんとやれば大丈夫だよ」
と舟形先輩。
どきりとしたけれど、先輩の笑顔で少し勇気が出る。
白鷹課長にはあんまり近付かないように気をつけようって思った。
俺もこれから大きいプロジェクトに舟形先輩と関わることになるんだから、気をつけないとな。
 
 



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