無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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白鷹迅①

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俺はオメガが嫌いだ。


学生時代、特に努力をした訳ではないのに、俺は何についても一目置かれる存在だった。
それがアルファだから、なのか。
常に周りから注目されているのは気苦労が絶えない。


中学の頃、事件に巻き込まれた。

生徒会の仕事で遅くなり、鍵を返しに職員室に歩いていると、空き教室に具合の悪そうな生徒がいることに気づいた。

呼吸も荒く、顔も赤い。
近づこうとした途端に、甘ったるい香りが漂ってきた。
気づくと同時に、それがオメガのフェロモンとわかる。
すると、そのオメガの生徒は俺の方に近づいてきた。
「…私を抱いて」
俺に手を伸ばす。
強いオメガのフェロモンにむせ込みそうになる。
こんなとこでラットを起こしたら大変だ…

俺はその手を振り払うと、たまたま通った教師に助けを求めた。

後から聞いたとこによると、あのオメガの女子生徒は、放課後、俺が生徒会室に残ってるのを知っていて誘発剤を飲んだらしい。
…立派な犯罪だ。

まだ自分も中学生で幼かったこともあるのだろう。
その一件が俺のトラウマとなり、
俺はオメガを警戒するようになった。


さらに、
大学時代になると、オメガのクラスメイトがフェロモンを利用して恋愛を楽しんでいる姿を見て、拍車をかけた。
ますますオメガへの嫌悪感を高めていった。


そんな時出会ったのが、高畠夕菜だ。
彼女とは大学で同じゼミをとっていた。
オメガであったが、俺が今までに会ったことのないタイプで、彼女は自分を厳しく律していて、抑制剤を内服し、自己管理を徹底していた。
わずかに漏れ出るフェロモンを恐れてか、常に香水を纏っていた。

その頃、オメガやベータ問わず、常に注目されていた俺は、自分の意思とは関係なく寄せられる好意に辟易していた。
加えて、親友がやりたいことを見つけて、海外へ出かけて行ったりする姿を見て、焦燥感もあった。
かなり自暴自棄になっていた自覚はある。
そんな俺に手を差し伸べたのが、夕菜だった。

夕菜は下心なく、相談に乗ってくれたり励ましてくれたり、当時の俺を救ってくれた。
就職に悩んでいたときに、自分の父親の会社を紹介してくれた。
就職してからもことあるごとに助けてくれた。

夕菜に恋愛感情を抱いたことはない。
もちろん彼女もそうだと思っている。
 
しかし、周りから「婚約者」とか言われていることも知っている。
自分がオメガ嫌いと言いながら、彼女だけは特別扱いしている自覚はある。
仕事中に押しかけてくる彼女を世話になっているからと、追い返せない自分もいる。

中途半端な状態なのはわかっている。

そろそろ彼女も解放しなければならない、と思っている。
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