無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

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創作料理屋のカジュアルな木目調の個室。

橘さんとその番の啓さんがすでに席に座っており、
窓から差し込む午後の光がテーブルを柔らかく照らしていた。

「おお、迅、直樹くん」
橘さんがにこやかに手を振る。
「橘さん、お久しぶりです」
俺は少し緊張した声で返す。

「直樹くん、同棲始めてどうよ?」
橘さんが楽しそうに話しかける。
「えっと……はい、順調です」
俺は顔を赤らめながらも、嬉しい気持ちが隠せない。
橘さんがにやりと笑う。
「ふむ、幸せそうな顔してんじゃねぇか」

料理が運ばれてくる間、四人は和やかに会話を始める。

「えっと、去年結婚した、俺の番の啓」
橘さんが隣にいる大人しい男性を紹介してくれた。

啓さんはオメガで、歳は26才。
今は和菓子工場でアルバイトをしているらしい。

「……僕はお饅頭や大福詰めてる方が気が楽だからいいんですよ」

橘さんは相変わらずテンポよく話すけど、啓さんが時々そっとフォローしている。
「翔ちゃん、ちょっと落ち着いて。直樹くんも聞いてるんだから」
「おお、すまんすまん」
そんなやり取りを見て、俺はなんだかほっとする。

「で、直樹くん、セクハラ課長は最近はどう?」
橘さんが鋭く訊ねる。
俺は少し慌てて、
「あ、はい、大丈夫です。夕菜さんていう迅さんの友人がサポートしてくれてます」
「ふん、安心した。迅の大事なオメガが傷つくのは見たくないからな。てか、夕菜ってあの子?」
迅さんがちょっと困った顔で頭を掻く。
「……まぁな」
「今は自分の彼氏の監視役にねぇ」
橘さんはケラケラ笑い、啓さんと俺はきょとんとした顔。
「夕菜は今はただの友人、直樹が仕事で困らないようにフォローしてもらってるだけだから!」
迅さんが必死。

「そういえば、直樹くん、うちに来るって話はどうなった? うちなら楽しく働けるぞ」
「え……転職ですか?」
「まぁ、桐島課長のことも気にせずに済むしな」
「……俺、今のプロジェクトが一区切りつくまでは、頑張らないとって思ってるんです」
少し照れくさそうに言うその声に、迅さんは小さく頷く。
「……わかってる。無理はするなよ」

橘さんは興味津々に前のめりになる。
「ふーん、なるほどな。責任感あるな、直樹くん」
直樹は照れ笑いで、
「まあ……そのつもりです」と答えた。

隣に座る啓さんが穏やかに微笑む。
「直樹くん、頑張ってるんだね。僕も応援するよ」
その声は自然で柔らかく、僕は思わず顔を赤らめる。
「ありがとうございます……」

そのとき、橘さんがふと啓さんの顔を見て、軽く首を傾げる。
「……あれ? 啓、体調よくない?……」
啓さんは少し笑って、軽く手を添えたお腹をさする。

「……ううん。でもちょっと報告させてください。
実は赤ちゃんができました」

橘さんが目を丸くして、思わず声を上げる。
「え、なにそれ!? おい啓、聞いてないぞ!」
橘さんは驚きながらもにやりと笑う。
「翔ちゃん、びっくりさせちゃってごめんね。話したら今日、食事会やめるとか言いそうだったから黙ってたの」
啓さんは橘さんに申し訳なさそうに言う。
「いや、びっくりだわ。本当か?本当なんだな!」
橘さんは興奮している。

僕も思わず目を丸くして、
「わ、わぁ……おめでとうございます!」と口走って、向かいのテーブルの先に見える啓さんの下腹部を見つめる。
まだぺったんこで、赤ちゃんがいるなんでわからない。
でも啓さんはそこを優しく優しく撫でていた。
橘さんも優しく優しく撫でていた。

啓さんは穏やかに微笑み、
「ありがとう。これからも翔ちゃんと二人で頑張ります」と言う。
俺は自然と頷き、
「僕も……応援させてください」と付け加えた。

その瞬間、空気が一気に柔らかくなる。
迅さんも小さく笑って、俺の肩を軽く叩いた。
俺は少し照れくさそうに笑った。

四人の空間には、
なんでもない日常のようで、でも特別な“安心感”が漂っていた。

「じゃあ、みんなでこれからも仲良くやっていこうな」
橘さんの言葉に、全員が頷く。


こうして、
俺と啓さんと自然と友達となり、
橘夫妻の幸せなニュースもみんなで分かち合えた。
ほっこりとした週末のひとときが過ぎていった。
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