無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

マンションの玄関で靴を脱ぎながら、僕はふと口を開いた。
「……今日は楽しかったですね」
「ああ。翔真も啓さんも楽しそうだったな。に、しても啓さんの報告もびっくりだったな」
「うん……びっくりしました。橘さん嬉しそうでしたね」

二人でリビングに入ると、迅さんがソファに腰掛け、俺に微笑みかける。
「直樹、どうだった? 啓さんと話せて」
「えっと……なんだか、自然に話せてよかった……かな」
俺は少し照れながら腰を下ろす。

しばらくして、俺がぽつりと呟く。
「……あの、俺も、赤ちゃんほしいなぁ、なんて思っちゃいました」
迅さんは一瞬フリーズし、目を丸くする。
「……は?」
「いや、だから、啓さんの話聞いてて……なんとなく」
俺は顔を赤くして、視線を逸らす。
「……お前、無自覚すぎるだろ」
「え? なんの話ですか?」
「……反則だ、ほんとに」

でも、迅さんの口元には自然と笑みがこぼれていた。
「……しょうがないな、俺が全部受け止めてやるか」
俺はなんだかよくわからなかったけど、ソファにもたれかかった。
「……お願いします」
「……仕方ねぇな」

静かな夜、二人だけの空間。
俺のおねだり(?)に、迅さんは少し困りつつも、心の底から嬉しさを噛みしめていた。


朝の光がカーテン越しに差し込み、静かに部屋を照らす。
直樹はまだ髪をぼさっとさせ、寝ぼけ眼でソファに座っていた。
目を半分しか開けず、ふにゃっとした声で呟く。

「…おはようございます…」

そのままそっと、迅さんの元へ近づき、手を伸ばす。
「ねぇぇ……。迅さん」
迅さんは眉をひそめ、少し困ったように肩をすくめる。
「……お前、朝から反則だろ」

俺はまだ寝ぼけ眼で、にこっと笑って、顔を近づける。
「だって、迅さんのこと。大好きなんだ、もん」
「……しゃーねぇな」
迅さんは小さく息を吐いて、仕方なさそうにキスをしてくれた。

迅さんは真面目な顔に戻って、
「さっさと支度しろ、飯作ったから」
「は、はい……」
俺ははもぞもぞ動き出して、まだ少し眠そうな顔で服を着替える。

キッチンに向かうと、迅さんが用意した朝ごはんがテーブルに並んでいる。
「いただきます」
「お前、ちゃんと食べろよ」
「はい……でも、迅さんと一緒だと、なんだか元気出ます」

ソファから見守る迅さんは、心の中で小さく笑っていた。

そんな朝の、ほのかに甘いひととき。


朝の街路樹に陽の光が差し込む中、俺と迅さんは並んで歩いていた。
俺はまだ少し眠そうな顔で、肩を少し震わせながらも、時々顔を上げて微笑む。

「……迅さん、今日もお弁当作ってくれてありがとうございます」
「当然だろ。俺も自分の分持ってくから、同じもん食べようと思ってな」
俺は嬉しそうに頷く。
「うん。同じもの食べてるの嬉しい。……あ、歩くの遅くてすみません」
「……お前、ほんとに無自覚に可愛いな」
迅さんは少し照れた顔で笑い、直樹の頭を軽く撫でる。

二人の歩幅を揃えて、通りを歩く。
俺は時々、ほんの少し手を迅さんの腕に触れながら、距離感を確かめるように歩いていた。
「……直樹、今日はプレゼンの準備、忘れるなよ」
「はい……でも、迅さんが応援してくれてるっておもうから、きっと大丈夫です」
その言葉に、迅さんは小さく息を吐いて、目の端で俺を見つめる。
そのまま迅さんは俺の頭をポンポンてした。

会社の建物が見えてくると、俺は少し背筋を伸ばして、ジャケットを直す。
「じゃあ、ここで……」
「おう。行ってこい」
迅さんは自分のお弁当をバッグにしまって、俺の背中に軽く手を添える。

「……いってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて帰ってこいよ」
「はい……ありがとうございます」

俺は小さく手を振って、ビルの中へ歩いていく。
迅さんは僕の背中を見送りながら、自分も仕事のために駅まで歩き出す。

心の中で、今日も無事に一日が終わりますように、とそっと願う。

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