無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

朝の会議室。
大きなプロジェクトの進行表が壁に貼られ、あちこちで社員が慌ただしく資料を準備している。
俺はパソコンを前に、舟形先輩と並んで座っていた。

「舟形先輩、この部分、仕様変更に合わせて直しておきました」
「お、助かる! 相変わらず仕事早いな、直樹」
「いえ、白鷹課長に叩き込まれましたから……」
そう言って、少し照れ笑いを浮かべた。

舟形先輩は俺を見て、ふっと優しく笑った。
「真面目で助かるよ。お前がいると現場の空気がやわらぐんだよな」
「そうですか? 自分ではそんなつもりないんですけど……」
「そこがいいんだって。まぁ、でも、無自覚なのが一番たち悪いけどな」

舟形先輩が肩をすくめると、周りのスタッフが小さく笑う。
俺は顔が赤くなってって、慌てて資料をまとめ直した。
「す、すみません、ちょっとお茶いれてきますね!」
そう言って、コーヒーメーカーに向かう俺を見送りながら、舟形先輩はぼそっと呟いた。
「……ほんと、放っとけねぇな」

俺は給湯室でコーヒーをいれながら、心の中でスケジュールを整理していた。
(舟形先輩に迷惑かけないようにしなきゃ……)

そのとき、背後から桐島課長の声がした。
「お、舟形の相方君、今日も頑張ってるねぇ」
「……あ、桐島課長。お疲れさまです」
「そんなに緊張しなくていいって。俺は味方だからさ」
俺は曖昧に笑いながら、カップを手に席に戻っていく。

デスクに戻ると舟形先輩が小声で囁いた。
「……桐島課長、また声かけてきた?」
「え、ええ、まあ……」
舟形先輩は少し眉をひそめて、ため息をつく。
「気をつけろよ。お前、変に優しいから、つけこまれやすい」
「だ、大丈夫だよ」
「……ほんとかよ」

俺は笑ってごまかしながらも、心の中では少しだけ、迅さんの顔が浮かんでいた。
(……迅さんに話したら、怒るだろうな)

昼休み。オフィスの片隅、窓際のテーブルで俺は舟形先輩と並んで弁当を広げていた。
外は秋晴れで、窓の外の銀杏並木が少しずつ色づいている。
今日はデスクを離れて、昼ごはん。

「……それ、今日も白鷹課長の手作り?」
舟形先輩が、箸を動かしながらからかうように言う。
直樹は慌てて弁当箱を少し閉じ気味にする。
「ちょ、ちょっと! 声大きいですよ、舟形先輩!」
「はいはい。誰も聞いちゃいねぇよ」
舟形先輩はニヤリと笑って、弁当の中を覗き込む。

「わ、卵焼き完璧じゃん。しかもこの照り焼き、見ただけでわかる、手慣れてるやつだ」
「……おいしいです」
「でしょーね。愛情たっぷりだもんな」
「ち、違いますよ! 愛情とか、そんなんじゃ……」
「はいはい、“そんなんじゃない”ねぇ~。顔が真っ赤だぞ」

俺はぷいと横を向いて、少し頬を膨らませた。
その様子に舟形先輩は肩を震わせて笑う。

「お前さ、隠したいなら、もうちょい隠す気出せ。みんなだいたい察してるから」
「えっ……! うそ、ほんとですか!?」
「見りゃわかるよ。朝、会社の前を一緒に歩いてるの、見られてんぞ」
「……っ!」
俺は手が止まって、耳まで真っ赤になる。

舟形先輩はフォローするように笑って言った。
「でもさ、いいことだと思うよ。ちゃんと大事にされてるって伝わるから」
「……そんな風に見えます?」
「うん。お前、最近いい顔してる。昔よりずっとな」

俺は少し照れくさそうに笑って、
「……ありがとうございます」
とだけ答えた。

舟形先輩はその笑顔を見て、ふと、
(……あーあ。こんなの、誰だって惚れるわけだ)
と心の中で苦笑していた……。

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