22 / 53
第二部
Ⅴ
しおりを挟む
朝の会議室。
大きなプロジェクトの進行表が壁に貼られ、あちこちで社員が慌ただしく資料を準備している。
俺はパソコンを前に、舟形先輩と並んで座っていた。
「舟形先輩、この部分、仕様変更に合わせて直しておきました」
「お、助かる! 相変わらず仕事早いな、直樹」
「いえ、白鷹課長に叩き込まれましたから……」
そう言って、少し照れ笑いを浮かべた。
舟形先輩は俺を見て、ふっと優しく笑った。
「真面目で助かるよ。お前がいると現場の空気がやわらぐんだよな」
「そうですか? 自分ではそんなつもりないんですけど……」
「そこがいいんだって。まぁ、でも、無自覚なのが一番たち悪いけどな」
舟形先輩が肩をすくめると、周りのスタッフが小さく笑う。
俺は顔が赤くなってって、慌てて資料をまとめ直した。
「す、すみません、ちょっとお茶いれてきますね!」
そう言って、コーヒーメーカーに向かう俺を見送りながら、舟形先輩はぼそっと呟いた。
「……ほんと、放っとけねぇな」
俺は給湯室でコーヒーをいれながら、心の中でスケジュールを整理していた。
(舟形先輩に迷惑かけないようにしなきゃ……)
そのとき、背後から桐島課長の声がした。
「お、舟形の相方君、今日も頑張ってるねぇ」
「……あ、桐島課長。お疲れさまです」
「そんなに緊張しなくていいって。俺は味方だからさ」
俺は曖昧に笑いながら、カップを手に席に戻っていく。
デスクに戻ると舟形先輩が小声で囁いた。
「……桐島課長、また声かけてきた?」
「え、ええ、まあ……」
舟形先輩は少し眉をひそめて、ため息をつく。
「気をつけろよ。お前、変に優しいから、つけこまれやすい」
「だ、大丈夫だよ」
「……ほんとかよ」
俺は笑ってごまかしながらも、心の中では少しだけ、迅さんの顔が浮かんでいた。
(……迅さんに話したら、怒るだろうな)
昼休み。オフィスの片隅、窓際のテーブルで俺は舟形先輩と並んで弁当を広げていた。
外は秋晴れで、窓の外の銀杏並木が少しずつ色づいている。
今日はデスクを離れて、昼ごはん。
「……それ、今日も白鷹課長の手作り?」
舟形先輩が、箸を動かしながらからかうように言う。
直樹は慌てて弁当箱を少し閉じ気味にする。
「ちょ、ちょっと! 声大きいですよ、舟形先輩!」
「はいはい。誰も聞いちゃいねぇよ」
舟形先輩はニヤリと笑って、弁当の中を覗き込む。
「わ、卵焼き完璧じゃん。しかもこの照り焼き、見ただけでわかる、手慣れてるやつだ」
「……おいしいです」
「でしょーね。愛情たっぷりだもんな」
「ち、違いますよ! 愛情とか、そんなんじゃ……」
「はいはい、“そんなんじゃない”ねぇ~。顔が真っ赤だぞ」
俺はぷいと横を向いて、少し頬を膨らませた。
その様子に舟形先輩は肩を震わせて笑う。
「お前さ、隠したいなら、もうちょい隠す気出せ。みんなだいたい察してるから」
「えっ……! うそ、ほんとですか!?」
「見りゃわかるよ。朝、会社の前を一緒に歩いてるの、見られてんぞ」
「……っ!」
俺は手が止まって、耳まで真っ赤になる。
舟形先輩はフォローするように笑って言った。
「でもさ、いいことだと思うよ。ちゃんと大事にされてるって伝わるから」
「……そんな風に見えます?」
「うん。お前、最近いい顔してる。昔よりずっとな」
俺は少し照れくさそうに笑って、
「……ありがとうございます」
とだけ答えた。
舟形先輩はその笑顔を見て、ふと、
(……あーあ。こんなの、誰だって惚れるわけだ)
と心の中で苦笑していた……。
大きなプロジェクトの進行表が壁に貼られ、あちこちで社員が慌ただしく資料を準備している。
俺はパソコンを前に、舟形先輩と並んで座っていた。
「舟形先輩、この部分、仕様変更に合わせて直しておきました」
「お、助かる! 相変わらず仕事早いな、直樹」
「いえ、白鷹課長に叩き込まれましたから……」
そう言って、少し照れ笑いを浮かべた。
舟形先輩は俺を見て、ふっと優しく笑った。
「真面目で助かるよ。お前がいると現場の空気がやわらぐんだよな」
「そうですか? 自分ではそんなつもりないんですけど……」
「そこがいいんだって。まぁ、でも、無自覚なのが一番たち悪いけどな」
舟形先輩が肩をすくめると、周りのスタッフが小さく笑う。
俺は顔が赤くなってって、慌てて資料をまとめ直した。
「す、すみません、ちょっとお茶いれてきますね!」
そう言って、コーヒーメーカーに向かう俺を見送りながら、舟形先輩はぼそっと呟いた。
「……ほんと、放っとけねぇな」
俺は給湯室でコーヒーをいれながら、心の中でスケジュールを整理していた。
(舟形先輩に迷惑かけないようにしなきゃ……)
そのとき、背後から桐島課長の声がした。
「お、舟形の相方君、今日も頑張ってるねぇ」
「……あ、桐島課長。お疲れさまです」
「そんなに緊張しなくていいって。俺は味方だからさ」
俺は曖昧に笑いながら、カップを手に席に戻っていく。
デスクに戻ると舟形先輩が小声で囁いた。
「……桐島課長、また声かけてきた?」
「え、ええ、まあ……」
舟形先輩は少し眉をひそめて、ため息をつく。
「気をつけろよ。お前、変に優しいから、つけこまれやすい」
「だ、大丈夫だよ」
「……ほんとかよ」
俺は笑ってごまかしながらも、心の中では少しだけ、迅さんの顔が浮かんでいた。
(……迅さんに話したら、怒るだろうな)
昼休み。オフィスの片隅、窓際のテーブルで俺は舟形先輩と並んで弁当を広げていた。
外は秋晴れで、窓の外の銀杏並木が少しずつ色づいている。
今日はデスクを離れて、昼ごはん。
「……それ、今日も白鷹課長の手作り?」
舟形先輩が、箸を動かしながらからかうように言う。
直樹は慌てて弁当箱を少し閉じ気味にする。
「ちょ、ちょっと! 声大きいですよ、舟形先輩!」
「はいはい。誰も聞いちゃいねぇよ」
舟形先輩はニヤリと笑って、弁当の中を覗き込む。
「わ、卵焼き完璧じゃん。しかもこの照り焼き、見ただけでわかる、手慣れてるやつだ」
「……おいしいです」
「でしょーね。愛情たっぷりだもんな」
「ち、違いますよ! 愛情とか、そんなんじゃ……」
「はいはい、“そんなんじゃない”ねぇ~。顔が真っ赤だぞ」
俺はぷいと横を向いて、少し頬を膨らませた。
その様子に舟形先輩は肩を震わせて笑う。
「お前さ、隠したいなら、もうちょい隠す気出せ。みんなだいたい察してるから」
「えっ……! うそ、ほんとですか!?」
「見りゃわかるよ。朝、会社の前を一緒に歩いてるの、見られてんぞ」
「……っ!」
俺は手が止まって、耳まで真っ赤になる。
舟形先輩はフォローするように笑って言った。
「でもさ、いいことだと思うよ。ちゃんと大事にされてるって伝わるから」
「……そんな風に見えます?」
「うん。お前、最近いい顔してる。昔よりずっとな」
俺は少し照れくさそうに笑って、
「……ありがとうございます」
とだけ答えた。
舟形先輩はその笑顔を見て、ふと、
(……あーあ。こんなの、誰だって惚れるわけだ)
と心の中で苦笑していた……。
35
あなたにおすすめの小説
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた
星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。
美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。
強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。
ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。
実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。
α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。
勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳
一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳
アルファポリス初投稿です。
※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。
それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。
幸せごはんの作り方
コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。
しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。
そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。
仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる