無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

俺は、盲腸で手術して、一週間ほど入院した。 
迅さんは面会時間にいつも来てくれた。

退院の日は迅さんが迎えに来てくれた。
一週間ぶりの我が家は、やっぱり安心した。

その日の夜、俺はソファにふんわりと腰掛け、まだ少し顔が疲れていたけど、笑顔を浮かべていた。

「ただいま……迅さん」
「おかえり、無事でよかった」
迅さんはそっと俺を抱き寄せ、頭を撫でる。
手を握り、柔らかい時間が二人を包む。


その後も、俺たちいつもの日常を送った。
相変わらず、仲良く、ラブラブっていうのかな。

朝は俺が眠そうな顔で迅さんのとこに行って、
「おはようございます……」とキスするし、
そしたら迅さんが、「早く支度しろ」と笑いながら促すし。
一緒に会社まで歩いていくし。
昼は迅さんの作ったおいしいお弁当を食べるし。

帰ったら、一緒に料理をしたり、
俺が迅さんに甘えてると、いつも「お前、反則だろ……」と困った顔を見せてくるし。

夜はソファでお酒も飲まないで俺を膝に乗せて今日の出来事を聞いてくれるし。
これからの未来の話をまったり語り合ったりするし。
寝るときはいつも一緒だし。

とにかく、迅さんはいつも優しい。


そんな中、橘さんと啓さんの赤ちゃんが生まれた。
「赤ちゃん、無事に生まれたって!」 
啓さんから連絡もらって、つい大きな声を出してしまうと、迅さんは優しい顔で俺を見ていた。

迅さんと一緒に、病院に駆けつけ、小さな赤ちゃんを見て目を輝かせる。
「かわいい……! おめでとう、啓さん!」
啓さんは愛おしそうに赤ちゃんを抱っこしていて、傍にいる橘さんが啓さんと赤ちゃんをしっかり支えている。

迅さんは微笑みながら、俺の頭を撫でる。
「お前もいつかこうやって守る存在ができるといいな……」
俺はちょっと照れながらも、笑顔で頷く。

その日は家に帰っても、なんだか胸がほわほわしていた。
「ねぇ、迅さん」
隣に座ってる迅さんにもたれかかる。
なんだよ、て迅さんが俺の肩を抱いてくれる。
「俺とずっと一緒にいてくださいね」
俺は、胸の奥がふわふわして、幸せな気持ちを口にする。
「俺だけの迅さんでいてくださいね。
俺の特別でいてくださいね」

「ばか」
その瞬間、肩越しに柔らかい力が伝わる。
迅さんが静かに俺の腕を抱き寄せる。
「直樹……」
低く、穏やかで、でも揺るがない声。
俺は顔を上げる。
そこには、普段の笑顔と、奥にある決意が見えた。

「俺も、ずっと直樹と一緒にいたい。
これからの未来も、全部――君の隣で見たい」

ぽわぽわした俺の意識が、ハッと跳ねた。
胸の奥がぎゅっと熱くなる。
「……え、えっと……?」

迅さんは手を伸ばし、俺の指をそっと握った。
その手が、確かな温かさで、まっすぐ心に届く。

「俺だけの直樹でいろよな。
だから……直樹、俺と結婚しよう」

ぽわぽわの世界から、急に光が差し込むような衝撃。
思わず「……え?」と開く。

「直樹、お前が“俺の特別でいて”って言っただろう。
その意味、俺が全部引き受ける」

柔らかく微笑み、けれど瞳は真剣そのもの。

「俺の特別は、直樹だけだ。
これから先も、ずっと、隣にいてほしい」

体が小さく震え、ぽろりと涙が頬を伝う。
夢心地の世界から現実へ戻されてしまった。
自分の胸の奥で確かに感じる、幸福の重み。

「……はい……っ!」

涙で言葉が詰まりながらも、精一杯頷いた。

迅さんの胸に僕の言葉が響く。
迅さんはそっと僕の頬を両手で包む。
指先がやさしく涙を拭う。

「泣くなよ、直樹。……幸せなときは、ちゃんと笑え」

「……だって……っ
なんか……すごく、うれしくて……」
鼻声になりながら、ぎゅっと迅さんの胸に顔を埋めた。
迅さんの胸元に涙の滲みがじんわり広がる。

迅さんの腕が包むように回され、抱きしめられる。
「うん。泣き虫でも、甘えんぼでもいい。
直樹は全部かわいいから」

耳元で落とされた低い声に、直樹の体がぞくりと震えた。
ぎゅっと掴んだシャツの布が、少ししわになる。

「……迅さんのせい、ですよ……こんな……」
「俺のせいでいい」

囁きながら、迅さんは額にそっと唇を落とす。
そのまま、涙で濡れた目尻。頬。
最後に、唇へ──触れるだけのやわらかいキス。

俺の息がふるふる震える。
「……すごく……幸せです」

顔をあげた俺の目は、涙で潤んでキラキラしているはず。
子犬みたいって、愛おしさしかない表情だって。

迅さんは、俺に微笑みながらもう一度抱き寄せた。
「これから毎日言わせてやるよ。“幸せです”って」

「な、なんですかそれ……」
照れながら、でも嬉しそうに笑う。

それを見て満足そうに目を細めて、迅さんはもう一度キスをした。
今度は、ゆっくり、確かめるように。

優しい息と胸の鼓動がまじり合い、
静かなリビングに、二人だけの温かい世界が満ちていった。




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