魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

文字の大きさ
11 / 32

11.リュカのお留守番

しおりを挟む
午後は魔力の訓練で、魔術の訓練場に行った。

すぐに、アルドが陽気に登場。
「お、リュカ~! ゼファ様と離れ離れでションボリしてるって聞いたぞ~?」
「してない!」

リュカの返事を聞いてるのか、聞いてないのか、アルドは話をすすめる。
「はいはい。じゃ、魔力の制御いくぞ。今日は“感情で暴走しない訓練”」

「できるし!」

しかし――リュカが言ってるそばから、感情が揺れるたびに、

ふっと風圧が起きて、
尻尾の先が火花みたいに光って、
耳がぴこぴこ揺れるたびに魔力が漏れている。

「よーしよし、落ち着けリュカ。吸って~吐いて~」

「むぅ……」
リュカはうまくいかなくて、いじける。

アルドは冗談を交えながら、真剣に指導する。
しんどくなってくるとリュカはアルドに甘えるように寄ってくる。
「今日は……疲れた……」

「はは、がんばったじゃん。ゼファ様見たら褒めてくれるぞ?」
その言葉に、リュカのしっぽが元気を取り戻してふりふり。 

気分が高ぶると暴発してしまうし、集中が切れるとすぐ煙になる。
それでも少しずつ、魔力の“形”を掴めていく。
「ほら、手のひらに意識を集中して……」

「えい……!」
小さな光が、リュカの掌にぽっと灯った。

「あっ、できた!」

「それは“光球”という初級魔法だ。立派な魔術だぞ」

リュカは目を輝かせて跳びはねた。
その顔を見て、アルドは思った。 
――ゼファ陛下が甘やかすのも分かる、と。

「まほう、もっとやる! おしえて」
俄然やる気になったリュカはいろんな魔法が使いたくなった。
アルドも簡単な魔法を教えながら、楽しく過ごした。


日が沈む頃。
魔力の訓練を終えて、部屋に戻ったリュカ。
勉強机の上には、ぐちゃぐちゃになった紙。
何度も練習した「ゼファ」「リュカ」の文字。

灯りの魔法を何度も出しては消し、手が真っ黒になる。
それでも、リュカには少しも諦めがない。

「ゼファに……みせたい。
ぼく、がんばったよって……。
いっぱい、いいこにしてるから……はやく、かえってきてね……」

小さくつぶやいて、窓の外の夜空を見上げていた。

遠い遠い場所で、ゼファールもきっと戦っている。
とてつもなく強く、誰よりも美しく。
みんなを守りながら。

だからリュカも――ここで頑張るんだ。



「てがみ……ゼファにかきたい」
カリオンに言うと、意外そうに目を瞬き、すぐに上質な便箋を持ってきてくれた。

「リュカ、たくさん字はまだ書けないだろから、短くていい。心を込めて書いてみなさい」

渡された便箋を前に、リュカはうんうん唸った。
書ける字が少なすぎて、伝えたい気持ちが書けない。

「……むずかしい……」
リュカが頭はかかえてる。

「なら、絵という手もありますよ。
伝えたい気持ちは文字だけじゃない」

その一言で目がぱっと輝いて、
クレヨンを両手で抱えて、便箋の上にゼファの絵を描き始める。

大きな黒マント。長い髪。鋭い金の目。
線はガタガタだが、拙い絵だが、これがゼファールだと分かる“迫力”はちゃんとあった。

「……これは、なかなか……本人に似ているな」
カリオンが見て、苦笑するレベル。

それから手紙も書けた。
文字は震えて、ところどころ逆向き。
でも気持ちは真っ直ぐ。

ぜふぁ
けが しないでね
はやく かえってきて
りゅか

最後に書いてある「りゅか」だけ妙に大きくてかわいい、カリオンはそう考えていた。

またこの手紙をどうやって届けるのか、思案する。
魔王軍の規定で、遠征中の魔王への連絡は禁止。
それは、極力、魔王陛下の集中を乱さないようにするためで、必要な情報は参謀経由で共有している。

しかし今回だけは――

リュカが便箋をぎゅっと抱えて言う。
「……ゼファに、これ……とどけたい……」

カリオンは迷っていた。
だが、便箋の裏に魔力の痕跡を感じる。

リュカの魔力が、ゼファの魔力に呼応しているのか?
……この子の魔力なら、陛下の結界に弾かれず届くかもしれない?

ゼファール陛下は、リュカ殿のものなら……きっと受け取るかもしれない

「明日、魔導師たちに手紙を送ってもらうよう、頼んでみよう」
カリオンはリュカにそう言うと、もう遅いから早く寝るよう伝えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...