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11.リュカのお留守番
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午後は魔力の訓練で、魔術の訓練場に行った。
すぐに、アルドが陽気に登場。
「お、リュカ~! ゼファ様と離れ離れでションボリしてるって聞いたぞ~?」
「してない!」
リュカの返事を聞いてるのか、聞いてないのか、アルドは話をすすめる。
「はいはい。じゃ、魔力の制御いくぞ。今日は“感情で暴走しない訓練”」
「できるし!」
しかし――リュカが言ってるそばから、感情が揺れるたびに、
ふっと風圧が起きて、
尻尾の先が火花みたいに光って、
耳がぴこぴこ揺れるたびに魔力が漏れている。
「よーしよし、落ち着けリュカ。吸って~吐いて~」
「むぅ……」
リュカはうまくいかなくて、いじける。
アルドは冗談を交えながら、真剣に指導する。
しんどくなってくるとリュカはアルドに甘えるように寄ってくる。
「今日は……疲れた……」
「はは、がんばったじゃん。ゼファ様見たら褒めてくれるぞ?」
その言葉に、リュカのしっぽが元気を取り戻してふりふり。
気分が高ぶると暴発してしまうし、集中が切れるとすぐ煙になる。
それでも少しずつ、魔力の“形”を掴めていく。
「ほら、手のひらに意識を集中して……」
「えい……!」
小さな光が、リュカの掌にぽっと灯った。
「あっ、できた!」
「それは“光球”という初級魔法だ。立派な魔術だぞ」
リュカは目を輝かせて跳びはねた。
その顔を見て、アルドは思った。
――ゼファ陛下が甘やかすのも分かる、と。
「まほう、もっとやる! おしえて」
俄然やる気になったリュカはいろんな魔法が使いたくなった。
アルドも簡単な魔法を教えながら、楽しく過ごした。
日が沈む頃。
魔力の訓練を終えて、部屋に戻ったリュカ。
勉強机の上には、ぐちゃぐちゃになった紙。
何度も練習した「ゼファ」「リュカ」の文字。
灯りの魔法を何度も出しては消し、手が真っ黒になる。
それでも、リュカには少しも諦めがない。
「ゼファに……みせたい。
ぼく、がんばったよって……。
いっぱい、いいこにしてるから……はやく、かえってきてね……」
小さくつぶやいて、窓の外の夜空を見上げていた。
遠い遠い場所で、ゼファールもきっと戦っている。
とてつもなく強く、誰よりも美しく。
みんなを守りながら。
だからリュカも――ここで頑張るんだ。
「てがみ……ゼファにかきたい」
カリオンに言うと、意外そうに目を瞬き、すぐに上質な便箋を持ってきてくれた。
「リュカ、たくさん字はまだ書けないだろから、短くていい。心を込めて書いてみなさい」
渡された便箋を前に、リュカはうんうん唸った。
書ける字が少なすぎて、伝えたい気持ちが書けない。
「……むずかしい……」
リュカが頭はかかえてる。
「なら、絵という手もありますよ。
伝えたい気持ちは文字だけじゃない」
その一言で目がぱっと輝いて、
クレヨンを両手で抱えて、便箋の上にゼファの絵を描き始める。
大きな黒マント。長い髪。鋭い金の目。
線はガタガタだが、拙い絵だが、これがゼファールだと分かる“迫力”はちゃんとあった。
「……これは、なかなか……本人に似ているな」
カリオンが見て、苦笑するレベル。
それから手紙も書けた。
文字は震えて、ところどころ逆向き。
でも気持ちは真っ直ぐ。
ぜふぁ
けが しないでね
はやく かえってきて
りゅか
最後に書いてある「りゅか」だけ妙に大きくてかわいい、カリオンはそう考えていた。
またこの手紙をどうやって届けるのか、思案する。
魔王軍の規定で、遠征中の魔王への連絡は禁止。
それは、極力、魔王陛下の集中を乱さないようにするためで、必要な情報は参謀経由で共有している。
しかし今回だけは――
リュカが便箋をぎゅっと抱えて言う。
「……ゼファに、これ……とどけたい……」
カリオンは迷っていた。
だが、便箋の裏に魔力の痕跡を感じる。
リュカの魔力が、ゼファの魔力に呼応しているのか?
……この子の魔力なら、陛下の結界に弾かれず届くかもしれない?
ゼファール陛下は、リュカ殿のものなら……きっと受け取るかもしれない
「明日、魔導師たちに手紙を送ってもらうよう、頼んでみよう」
カリオンはリュカにそう言うと、もう遅いから早く寝るよう伝えた。
すぐに、アルドが陽気に登場。
「お、リュカ~! ゼファ様と離れ離れでションボリしてるって聞いたぞ~?」
「してない!」
リュカの返事を聞いてるのか、聞いてないのか、アルドは話をすすめる。
「はいはい。じゃ、魔力の制御いくぞ。今日は“感情で暴走しない訓練”」
「できるし!」
しかし――リュカが言ってるそばから、感情が揺れるたびに、
ふっと風圧が起きて、
尻尾の先が火花みたいに光って、
耳がぴこぴこ揺れるたびに魔力が漏れている。
「よーしよし、落ち着けリュカ。吸って~吐いて~」
「むぅ……」
リュカはうまくいかなくて、いじける。
アルドは冗談を交えながら、真剣に指導する。
しんどくなってくるとリュカはアルドに甘えるように寄ってくる。
「今日は……疲れた……」
「はは、がんばったじゃん。ゼファ様見たら褒めてくれるぞ?」
その言葉に、リュカのしっぽが元気を取り戻してふりふり。
気分が高ぶると暴発してしまうし、集中が切れるとすぐ煙になる。
それでも少しずつ、魔力の“形”を掴めていく。
「ほら、手のひらに意識を集中して……」
「えい……!」
小さな光が、リュカの掌にぽっと灯った。
「あっ、できた!」
「それは“光球”という初級魔法だ。立派な魔術だぞ」
リュカは目を輝かせて跳びはねた。
その顔を見て、アルドは思った。
――ゼファ陛下が甘やかすのも分かる、と。
「まほう、もっとやる! おしえて」
俄然やる気になったリュカはいろんな魔法が使いたくなった。
アルドも簡単な魔法を教えながら、楽しく過ごした。
日が沈む頃。
魔力の訓練を終えて、部屋に戻ったリュカ。
勉強机の上には、ぐちゃぐちゃになった紙。
何度も練習した「ゼファ」「リュカ」の文字。
灯りの魔法を何度も出しては消し、手が真っ黒になる。
それでも、リュカには少しも諦めがない。
「ゼファに……みせたい。
ぼく、がんばったよって……。
いっぱい、いいこにしてるから……はやく、かえってきてね……」
小さくつぶやいて、窓の外の夜空を見上げていた。
遠い遠い場所で、ゼファールもきっと戦っている。
とてつもなく強く、誰よりも美しく。
みんなを守りながら。
だからリュカも――ここで頑張るんだ。
「てがみ……ゼファにかきたい」
カリオンに言うと、意外そうに目を瞬き、すぐに上質な便箋を持ってきてくれた。
「リュカ、たくさん字はまだ書けないだろから、短くていい。心を込めて書いてみなさい」
渡された便箋を前に、リュカはうんうん唸った。
書ける字が少なすぎて、伝えたい気持ちが書けない。
「……むずかしい……」
リュカが頭はかかえてる。
「なら、絵という手もありますよ。
伝えたい気持ちは文字だけじゃない」
その一言で目がぱっと輝いて、
クレヨンを両手で抱えて、便箋の上にゼファの絵を描き始める。
大きな黒マント。長い髪。鋭い金の目。
線はガタガタだが、拙い絵だが、これがゼファールだと分かる“迫力”はちゃんとあった。
「……これは、なかなか……本人に似ているな」
カリオンが見て、苦笑するレベル。
それから手紙も書けた。
文字は震えて、ところどころ逆向き。
でも気持ちは真っ直ぐ。
ぜふぁ
けが しないでね
はやく かえってきて
りゅか
最後に書いてある「りゅか」だけ妙に大きくてかわいい、カリオンはそう考えていた。
またこの手紙をどうやって届けるのか、思案する。
魔王軍の規定で、遠征中の魔王への連絡は禁止。
それは、極力、魔王陛下の集中を乱さないようにするためで、必要な情報は参謀経由で共有している。
しかし今回だけは――
リュカが便箋をぎゅっと抱えて言う。
「……ゼファに、これ……とどけたい……」
カリオンは迷っていた。
だが、便箋の裏に魔力の痕跡を感じる。
リュカの魔力が、ゼファの魔力に呼応しているのか?
……この子の魔力なら、陛下の結界に弾かれず届くかもしれない?
ゼファール陛下は、リュカ殿のものなら……きっと受け取るかもしれない
「明日、魔導師たちに手紙を送ってもらうよう、頼んでみよう」
カリオンはリュカにそう言うと、もう遅いから早く寝るよう伝えた。
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