祭り上げられた勇者

ゆん

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第1章

戦場の空気は、火薬と焼け焦げた鉄の匂いが混じっていた。
何もかもが大袈裟で、叫び声だけがやけに響く。
「突撃ィィィ!! 勇者様を援護しろォ!!」
「うおおおおお!! 魔王軍を倒せェェェ!!」
――などと、勝手に盛り上がる人間軍を横目に、勇者は布団から顔を出した。
「おうちかえるぅぅぅ~~~~~~~!!!!!」
涙と鼻水を撒き散らしながら全力のギャン泣き。
お布団の外は激戦区。間違えた。とても間違えた。こんなところでは安心して眠れない。
魔王軍はというと、かなりの損害を出しながらも奮戦。
恐るべきは――この戦に一切参加していないはずの勇者が、「勇者である」というだけで猛威を振るっているという事実だった。
できる限り穏便に帰っていただこうとしていた魔王軍だがこのまま暴れられてはたまらないので魔王直々に超火力で焼き払ってみせた。

「……撤退だ!」

唐突に戦意喪失する勇者の仲間(仮)

「えっ勇者様は!?」
「知らん! あいつ囮にして逃げるぞ!!」

しんがり(笑)として取り残される勇者。
渡る世間は鬼ばかり。
この世に信頼できる人なんてどこにもいないんだ…とシクシクふとんの中で泣いていたら魔王軍に取り囲まれはしたものの敵意も殺気もなく、むしろちょっと同情的なまなざしで見られた。

「……お前が勇者で間違いないのか? こちらは何もしてないのに、随分暴れてくれたな」
「正直すまんかったと思うけど冤罪! ボクも家で寝てただけだもん!!」

見ていた限り正直ごもっともなんだよなぁ…なんて思いながら、泣いて布団を被る勇者に、魔王は少しだけ同情した。同時にほんの少しの警戒。
勇者の体を布団――いや、聖剣がぐるりとその身を守るように巻きついていた。
あれは確か、人間側が誇る伝説の武具。魔を滅ぼす力を持つはずの――
(……ただの布団、じゃないか……??)
触れても何も起こらない。むしろ肌ざわりがいい。
あたたかいし、ちょっとフローラルな香りまでした。
「……泣くな。とりあえず、落ち着け」
ぽんぽんと、布団の上から勇者の背を叩いてやると、
ぐずっていた勇者はようやく少しだけ静かになった。
そして、魔王の腕の中で丸くなり――そのまま、寝た。
すー。すー。
(……世界って平和だな)
その夜、勇者は魔王の寝室の片隅に設置された。
“最も安全な場所”として。
聖剣は安心を感じ取ったのか、着る毛布へと変化していた。
それを見た魔王は再び困惑したが、もう何も考えたくなかった。
「……ここに住むの?」と問えば、
布団の奥から「うん…」と返事があった。
こうして、勇者は勇者を辞め、魔王城に居候することになった。
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