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1-2.
フィンリーの言葉を奪うように、のほほん、とした声が割って入った。それから横合いから出てきた腕が、獅子の腕を掴みひねり上げる。
「いだだだだだ!先生!痛い!」
獅子の獣人がわめくが、力を一向に緩める気配がないまま、涼しい顔をして、その先生と呼ばれた長身の男が細い目をさらに細めた。
「貴方の論理でいけば、私の言うことを聞くことが正義になりますねぇ」
「痛い……っ離せって……っわかったよ……!」
獅子獣人が言う強さが全てであれば、確かにそうだ。この学園の教師の一人であるレスト・グリッツは、ビジューライト王国でも珍しい上級魔族だ。
ビジューライト王国には様々な種族が住んでいるが、一番多いのが獣人や亜人だ。そしてその次に魔族。ただし、魔族は基本的に団体行動を好まない特性があるため、その数は極端に少ない。特に上級魔族ともなると、いくら国王が大精霊を従えていても、国に属するということはほとんどないのだ。
それなのにこの男、レストは何故か酔狂で学園の講師を務めている。国王……フィンリーの父親の知人だとは聞いたことはあるが。
スタイルのいい長身に加えて切れ長のアッシュグレーの瞳、混じりけのない真っ白い髪とシャープな顎のライン、通った鼻筋、薄い唇と、膨大な魔力を兼ね備えたそいつは、その見た目の優秀さも相まって、男子生徒からも女子生徒からも異常にモテる。
ビジューライト王国は強者と美しい者が正義の王国でもあるので、当然といえば当然だが。フィンリーからしてみたら胡散臭いことこの上ない男である。
常に口元に薄ら笑いを浮かべ、細い目を弧に描き、周りを己がままに操っているようにすら見える。
父上の知人だから、出来るだけ不興は買いたくないが……かといって近づきたい存在でもない。本能的に危険を感じ取ってか、フィンリーは入学からこちら、できるだけレストには関わらないようにしてきた。
解放された獅子獣人が逃げていくのを見送ってから、フィンリーはそれでも助けられたのだから、とレストに向きなおった。
「レスト先生、ありがとうございます」
「あ……ありがとうございます」
フィンリーに倣うようにクインもぺこり、と頭を下げた。レストは二人を見下ろして、うーん、と少し考えるように小首を傾げた。
「どういたしまして?姫様方」
苛立ちが、一気に押し寄せてくる。
「僕は、姫じゃない」
じろり、と睨んでそう告げると、少しだけレストは目を見開いた。アッシュグレーの瞳が、意外そうな色を映す。
「それは失礼を。フィンリー様、クイン様」
やはり、この男は気に食わない。フィンリーは一つ頭を下げるとクインの手を掴んでその場を速足で離れた。しばらく進んだところで、クインが足を止めて訴える。
「フィンリー……手、痛いよ」
「あ、ごめん」
慌てて手を離して、クインの手首に跡がついてないか確認する。どこにも跡は残っていないようで、ほっとする。とりあえずあの場から離れたい一心で、どこに行くかは決めてなかった。渡り廊下の真ん中で、教室に戻ろうか、今日は早退したほうがいいか悩む。
変に騒ぎになって目立ってしまった。この後教室に戻って興味本位で囲まれたくはない。そうでなくても自分達は異質な存在で回りから色んな感情がこもった目で見られるのだ。
「フィンリー、助けてくれてありがとう。でも……大丈夫?」
心配そうなクインの問いかけに、フィンリーはなんとか笑って見せる。
大丈夫。こんな不安、すぐになくなる。大人になればきっと、性別がないというまるで薄氷の上に立たされているような、頼りなさなど、消える。それよりも今はクインを安心させないと。
「大丈夫だよ。それよりも、出来るだけ移動の時は僕と一緒に行こう」
「うん」
安心させるようにそう言い聞かせると、クインも笑顔になって頷いた。
素直で可愛いクイン。案の定、学園に入ったら変な輩に付きまとわれるようになってしまった。教師陣も、よほどのことがなければ生徒同士の解決すべき事案として入ってはこない。
今回レストがあそこで割り込んできたのは、珍しい部類なのだ。
クインは元々争いを好まない。昔から国王にはフィンリーがなって欲しい。自分はそれを支えたいと言ってくれていた。好きなものは音楽や芸術と女性らしい好みだ。
クインには幸せになってもらいたいから、できるだけよい縁談を見つけてあげたいとフィンリーは考えていた。
けれどもし、その前に悪漢などに襲われたらと思うと気が気じゃない。もちろん、王族に手を出すことは許されていない。
けれど、それが有力な貴族令息の場合、時に力関係からそのまま輿入れとなる場合もある。非常に不愉快だが、力を重んじる国としての性質から、自分の身は自分で守れという不文律も存在していた。
平和な王国ではあるが、国民全てが仲良しこよしというわけでもない。
本音を言えば、学園など……入りたくなかった。
勉学だけで言えば、王宮に家庭教師を呼べば事足りた。しかし国王となる身で、処世術を学ばないなどあり得ない。集団生活の中でしか得られないこと。帝王学を学ぶ者として避けて通ることは出来ない。
クインだけ置いていくことも考えたが、それはクインが許さないだろう。フィンリーと離れて暮らすのを極端に嫌がるのだ。
クインだっていざという時のために護身術くらいは習ってはいるが、それでも……フィンリーにとっては守りたい可愛い妹なのだ。
「あ、フィンリー、次の授業の鐘だよ」
戻らないと、とクインに促されて、フィンリーも笑顔で頷いた。考え事をしているうちに早退する機会を逸したので、このまま教室へ戻る。
……今日のことは楽観視できない。一人だけでも厄介な肉食系獣人が、もし複数で襲ってきたらどうする?
自分が大精霊と契約できるのは成人する十八歳の時だ。
それまでは、己の力だけで自分とクインを守るしかない。
何か、対策を考えねば……
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