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4.紋様
しおりを挟む寮の部屋で着替えをしながら、フィンリーは深いため息をついた。大人になるまでは性欲とは無縁だと思っていた自分に、あんなことが起こるなんて思ってもみなかった。
けれど、あの行為で確かに自分の中に眠る魔力を感じることが出来た。さらにあれをコントロールし、扱えるようにならなければ意味がない。
しかし、魔族はあんな熱を常に感じているのか。気がおかしくならないのだろうか。今度レストに聞いてみよう、なんて思いながらクローゼットを閉じた。
今日は初めての感覚を体験し、なんだか身体が倦怠感に包まれている気がしたから、早く寝ようとベッドへと潜りこんだ。
寮の部屋割りは基本二人一組だ。共同生活の体験とやらで、王族だからと特別扱いはされない。その代わり部屋は十分すぎるほど広く、相部屋の相手も身元のしっかりした貴族の令息だ。同室のナットは少し気が弱そうだが、相部屋の相手としては穏やかな性格で申し分がなかった。
そういえば、今日はまだ顔を見ていない。真面目な奴だから、もしかしたら図書室で遅くまで勉強しているのかもしれないな、なんてまどろみながら思う。
そうして、心地よい眠りがフィンリーを包み込み始めた時分、ぎし、とベッドが軋む音がした。自分の足元が沈んだ気がして、夢うつつの中、相部屋の男子生徒が暗闇の中自分のベッドと間違えてしまったのだろうか、と思った。
けれど、次の瞬間。
「!!」
足を撫で上げた人の手の感触に目を見開く。
慌てて身体を起こそうとしたら、上から硬い何かがおしつけられて動けなかった。
「な……っ」
見上げたそこには、獅子獣人が自分の上に乗っている光景が見えた。
「おっと、静かにしろよ」
そのまま、口元を覆われる。ぞわり、と身体が拒否反応で嫌悪感を示す。硬い、と思ったのは獅子獣人に身体全体で上から抑え込まれているからだ。自分よりも遥かに重い重量に、身動き一つとれない。
「へへ……っ、馬鹿だなぁ少し考えりゃわかるだろ」
熱の籠った獣臭い吐息が、顔にかかり気持ちが悪い。
何……?こいつは何を……言って……
とにかく危険だということはわかっているのに、身体は言うことをきかない。フィンリーの耳元で、ねっとりと獅子獣人が囁く。
「お前とクインの顔は一緒だ。それなら、どっちだろうが同じだよなぁ?」
「……!!」
そうだ。どんなにフィンリーが男性体に憧れて、強くあろうと男のようにふるまったところで、可憐で見る者の目を奪う美しさをもったクインと自分は同じ顔なのだ。双子本人たちはわずかな違いを認識しているが、他者から見れば大した違いではないだろう。
悔しくて、歯ぎしりをする。自分達の一族は、宝石の王族と呼ばれた。それが、この外見にあることを、わかっていたはずなのに、わかっていなかった。
べろり、とざらついた舌がフィンリーの頬を舐める。
「……っ」
嫌悪感で鳥肌が立つ。
同時に、自分の素足を獣人の手が這っている感触を感じる。
どうして……レスト先生に触られる時は、こんな気持ち悪いと感じないのに……っ
跳ねのけて逃げなければと頭ではわかっているのに、体格差はどうしようもない。王族でありながら自身を守る力さえない己に腹が立つ。
「やめ……っ」
「はは、抵抗しているつもりかよ」
嘲るような声音に苛立つが、足をばたつかせてもびくりとも相手は動かない。なんとか抵抗を試みようとしても、レストとの一件で身体に疲労がたまっていて力が入りにくい。
これが、これがもしクインだったら……
想像するだけで血の気が引く。
そう考えたら、自分でよかったのかもしれない。
クインが傷つくよりずっと……
「性別がないって身体がどんなものか興味あったし、入れる穴はあるだろ」
下卑た笑い声と共に、かぶっていた布団をはぎ取られる。薄い夜着一枚のフィンリーを、簡単に上から抑えつけてくる。
……っ
獣人の顔が近づいてきて、首筋をざらざらとした大きな舌で舐められた。
嫌だ……気持ち悪い……っ
こんなにも違うなんて。レストに触れられて心地よかったものが、何か汚いものに書き換えられている感覚がして、フィンリーは唇を嚙み締めた。
がぱり、と開けた口の中には鋭い牙があり、そのまま喉元を噛むかのように近づいてきた、その時。
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