10 / 33
4-2.
しおりを挟むどぉおおおおん―――っ
と凄まじい音と共に、文字通り獅子獣人が吹っ飛んでいた。
自室の壁に、めり込むような形で打ち付けられている。あ然とその様子を見つめていると。
「……ちっ、手加減間違えた」
舌打ちと、地を這うような低い声。ゆっくりと声のした方を見ると、空中に黒いコウモリのような大きな翼を出した男が一人、浮かんでいた。
その頭には黒光りする大きな牡牛型の角が生えている。一点の曇りもない白い髪に、アッシュグレーの瞳。
「せん……せ…」
信じられなくて、呆然と、唇が動く。空中に浮いていた男……レストは一度床に足をつけると、吹っ飛んだ獅子獣人の元へすたすたと歩み寄っていく。
そのまま生きているか死んでいるかわからない獅子獣人を遠慮なくその長い脚で踏みつけると、ぐぇ、と声がした。
よかった、生きているらしい。
いや、よくないか?
あまりのことに毒気を抜かれていると。
「お前みたいなカスが触っていいもんじゃねぇんだよ、あれは」
普段の胡散臭い喋り方とはかけ離れた口調で、レストが踏みつけた脚に力を籠める。その瞳はらんらんと輝き、痛めつけることを楽しんでいる顔をしていた。
「次同じことやってみろ。お前の粗末なもん、肉塊にして犬に食わせるからな」
確実に脅しではない。先ほど獅子獣人を吹っ飛ばしたのは魔力でもなんでもなく、単純なレストの蹴りであった。
身体能力ですら、足元に及ばないのではないだろうか。足の下で痛みに呻く獅子獣人に、レストは口角を上げて、その鋭い牙を見せる。
「返事は?」
「……は……ぃ……」
苦しい息の下聞こえてきたうめき声のような返事に満足したのか、レストはひょい、と片手で巨躯である獅子の獣人の足を持って持ち上げると、そのまま扉を開けて部屋の外に放り出した。
先ほどの爆音と地響きで何事かと入口に集まっていた野次馬たちがいきなり飛んできた獅子獣人の下敷きになって悲鳴を上げている。
ものすごくやり方が雑……!
なんとなく研究室が毎回荒れてしまう原因を見てしまった気がする。
「レスト先生……何故ここに……」
ひとまず野次馬から視線を遮るために部屋の扉を閉じたレストが振り返る。同時に、翼と角が掻き消えて、いつもの胡散臭い笑顔が顔に張り付いていた。
「今日、貴方の魔力を私がいただいたでしょう?」
口調まで戻っていることにどぎまぎしながら、小さく頷く。レストが近づいてくると、びくり、とまだ恐怖に震えるフィンリーの頬をそっと撫でた。
「大量の魔力を移すと時に体調を崩すことがあるので、貴方に異変があったら私に知らせがくるように少し、印をつけていたんです」
そういって、つつ、と指先をフィンリーの下腹に動かす。フィンリーがおそるおそる上着の裾をめくれば、臍の下あたりに青白く光る小さな紋様があった。一回使い切りらしく、そのまますぅ、と光が消えると同時に紋様も消えた。
あなたの魔力を移す際に私の魔力を少しだけ流し込んで施しました、と悪びれる様子もなく報告してくる。
勝手に何をしているんだ
とか
そもそも体調を崩すなら魔力を移さなければよかったのでは
とか
色々思うところはあったけれど。
「先生、また、助けてもらって……ありがとう…ございます」
以前の時のようなレストに対する不信感は何故か感じない。それよりも、自分の体調を心配して、異変にすっ飛んできてくれたことの方が、なんだかむずがゆく感じた。
しおらしいフィンリーに毒気をぬかれたのか、レストの表情が一瞬固まったが、すぐにいつものにこにこ笑顔に戻った。
「……まぁ、でも……いい機会かもしれませんね」
「……?」
うっそりと笑いながら呟いたレストに、フィンリーは首を傾げたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる