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17.消せない熱
しおりを挟む無事フィグルドによって助け出されたリナリアは、宿に戻るなりイサラに抱き着かれた。何度も謝るイサラを慰めていると、フィグルドとエカルラートが二人で真剣な表情で話し合っているのが見える。
リナリアは無意識にフィグルドの唇を思わず目で追いかけてしまい、恥ずかしくなって視線を逸らした。
部屋には、浄化地点を探りに行っていたディーとノエスも戻ってきていた。踊り子姿で泥まみれになっているリナリアの姿を見て、ディーが声をかける。
「汗と土埃でボロボロだろ。まずは湯を浴びて着替えたらどうだ?」
ありがたい申し出に、そうさせてもらいたい、と答えた。イサラがしきりに「大丈夫?一緒に入ろうか?」と心配そうに気遣ってくれたが、さすがに丁重に断った。おそらく、また目を離して攫われるというのを避けたいのだろう。でも、気持ちだけで十分だ。今は一人になりたかった。
着替えとタオルを持って浴室へ向かうリナリアの背後で、「お前は自分の年齢を把握しろ」と言いながら、ディーがイサラをごつんとげんこつしている音が聞こえてきて、思わずくすくすと笑ってしまう。
浴室までの道に、ノエスが立っていた。
「ノエスさん、心配おかけして……」
頭を下げて謝ろうとしたら、大きな手がリナリアの頭を撫でる。ふんわりと、優しい力加減だ。
「無事……問題ない」
いつも口数が少ないのに、どうしてだろう、ノエスの声や雰囲気はすごく安心する。にこ、と微笑むと、ノエスもにっこりと笑ってくれる。それからノエスは、くん、と鼻を鳴らした。
「リナリア、団長の匂い……」
ぽそりと呟かれて、リナリアは飛び上がらんばかりに驚いた。一気に顔が熱くなる。密着していたことがバレたのかな?そんなわけないよね、と思いながら内心、心臓がバクバクする。
「おおおお、お風呂いただいてきます!」
これ以上追及されることを避けるため、慌てたようにそう宣言すると、ノエスの前を通って浴室へと急いだ。コテージ型の宿なので、部屋は広く、浴室も独立しているのがありがたい。
だ……団長の匂いって何……?
ノエスの呟きを思い出して、脱衣所で思わず自分の身体の匂いを嗅いでみるが、よくわからない。あえていえば、土臭い。こんなどろどろの汚れた状態でフィグルドに密着していたのかと思うと、申し訳なさが先にたつ。それに。
あの……キスはなんだったんだろう……
考えても考えてもリナリアにはわからない。あの場面で、口づける必要なんてなかったはずだ。だけどどうしてか、身体が自分の意思とは違うところにあった。身動きがとれないほど狭くて暗くて息苦しい空間で、あの金褐色の瞳に見つめられたら、身体の奥が熱くなっていた。無意識にそっと自分の唇を指先で撫でる。だけど、わかるのは一つだけ。
嫌じゃなかった……
「……あ~!イケメン爆モテ男の考えることなんてわからないよぅ~」
思わず声に出して、リナリアはしゃがみこんだ。膝を折って、腕で足を抱えて、顔を埋める。
大人の男の人には、何てことないのかな?私が子供だからわからないのかな?
結局攫われる前よりもフィグルドのことがよくわからなくなってしまった。あの初めての夜からずっと、触れあうことなんてなかったのに……。
ひとまずさっぱりしようと立ち上がって下着を脱いだところで、リナリアはぎょっとした。下着が、濡れていた。
十中八九、フィグルドからのあの濃厚な口づけに身体が反応したのだとわかる。羞恥が頬に熱を集める。リナリアは自分のつるつるの恥丘を見て、眉を顰める。昔から、体毛が薄かった。生えるといっても、産毛のようなものだけ。半端に産毛だけならと親に頼んで永久脱毛したせいで、まさに幼子と同じ秘部になっている。
人に見られるのが恥ずかしくて、修学旅行でも一人でお風呂に入ったのを覚えている。コンプレックスだったから、本当は初めて「無の力」を行使しなければならないと知った時、すごくすごく嫌だった。
フィグルドに見られて、引かれてしまうんじゃないか。気持ち悪いと思われちゃうんじゃないか、とか。
そういう意味でもリナリアにとっての初めてはすごく怖いものだった。
だけど彼は……すごく優しく触れてくれた。コンプレックスなんてどうでもよくなるくらい、気持ちよくしてくれた。
あ、駄目……思い出したら……
きゅぅ、と下腹部が切なくなって、彼の体温を思い出して愛液が身体の奥から湧き出る感覚に、リナリアは頭を振った。
「うー……ダメだ。冷水あびてすっきりしよ」
火照った身体がもどかしい。
どこか切ない感覚が残っていて、物理的に冷静にならないと、悶々とした思考回路になってしまいそうだった。リナリアにとってそれは、ひどく踏み込むには不安定で、不確かなもののように思えた。
その夜、手記に誘拐未遂について記すと、リナリアは疲れもあったのか、ぐっすりと眠った。
翌朝、何故かリナリアが起きると、聖騎士の五人が彼女の部屋に大集合していた。いつもは身辺警護に一人か二人控える程度なので、昨夜に引き続き五人全員が揃っている姿を見るのは珍しい。何故全員がいるのか、と戸惑っていると、エカルラートが薄黄色の綺麗なドレスを広げて、にっこりと微笑んだ。
「ふふ、リナリアちゃん、反撃に行くわよ!」
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