拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう

花虎

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18.第十三皇子

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領主は蒼白になって、がくりとその場で膝を折った。

 リナリアは一体何が起きているのかわけがわからず再びフィグルドを見る。フィグルドはやっとこちらに顔を向けると、リナリアの言葉無き疑問に簡潔に答えた。
 
「エカルラートは、リム王国の第十三皇子だ」
 
 え?え―――――――――――――!?
 
あまりにも衝撃の事実に、リナリアはあんぐりと口を開けてしまう。エカルラートの正体に愕然としているのはリナリアだけではない。領主は床に頭を擦りつけながら。

「こ、この者達と儂は関係ない!皇子!信じてください!!儂は何も知らない!」
 
悪あがきのごとく意地汚く叫ぶ領主に、エカルラートは視線をあげてフィグルドへと視線を送った。
 
「と、言っているが?」

フィグルドは一歩前に出ると、背中で腕を組み背筋を伸ばした姿勢で、はっきりと告げた。

「……聖騎士の真実を以て、この男が聖女誘拐の主犯であったことをフィグルド・ティガー・ヴァリアントの名の元に誓おう」

聖騎士の、さらに「真実」を抱く雷神ティガーの聖騎士の宣誓は、この世界では何よりも重い、審判の言葉だ。

 それは、幼子ですら知っている不文律。

領主は愕然と顔色を青くさせて、それでも、と頭を上げた。
 
「そ、そんな……!何かの間違いです!この男が嘘をついている!私が、尊い聖女様を誘拐など……!」
 
まだも悪あがきをする領主に、エカルラートはすでに興味を失って温度の無いガラス玉のような紅玉の瞳で睥睨する。
 
「うるさい男だ。ワニの餌にでもするか」
「!」
 
燃える赤髪をした中性的な美貌から放たれる妖艶な笑みは、何よりも恐ろしいことをリナリアは初めて知る。助けてくれと叫ぶ領主は、そのまま衛兵達に連行されて行った。

 彼は一体どうなるんだろう、と思ったが、聖騎士達の空気を見るに、決して生易しいものではないであろうことが察せられる。

 リナリアは気持ちを切り替えて、おずおずと口を開いた。
 
「……エカルラートさんが……皇子……様?」

フィグルドが肯定を示して頷く。そこに。

「やだぁ、所詮、継承権もないような放蕩息子よぉ」
 
一気に元の口調と雰囲気に戻ったかと思うと、エカルラートが上機嫌でリナリアの元にやってくる。もうすっかり先ほどの威圧的で、冷たい空気はどこかに霧散してしまっている。それでもまだリナリアが緊張しているのがわかるのか、エカルラートはおどけて言う。
 
「も~、たまに口調戻すと肩が凝って仕方ないわぁ」

それに、間髪入れずディーが口を挟む。

「常にそれでいろ」
「ディーちゃん、私があの口調でいると、やばいのよ!」
 
キッと真剣な顔でディーの方を向くと、「何がやばいんだ?」と顔を歪めた。それにまっすぐ曇りなき眼でエカルラートが言い切った。
 
「やばいに決まってるじゃない。モテ過ぎて」

瞬間、ディーの飛び蹴りが綺麗にエカルラートの横腹に決まった。

 リナリアの目の前で吹っ飛ぶエカルラートと、着地する前にフィグルドに首根っこをつかまれるディー。

 情報量が多すぎて、処理しきれない。
 
後から正式にフィグルドから説明をうけたところによると。人身売買はこのリム王国でも当然禁止されており、法の元に罰せられる。今回厄介だったのはその黒幕が領主という地位ある人物だったことだ。

 証拠を掴んだり、現場を押さえたとしても、聖騎士爵で行えるのは突き出すところまで。裁きの沙汰にまでは介入できない。

 だが、リム王国は、王族が絶対の権限を持つ特殊な国だ。そのため、罪人として突き出したとしても、途中様々な利権が絡み王族の元へ領主の罪が伝わる前に恩情、もしくは逃げられる可能性があった。

 だから、不確かな方法を使わず、証拠を押さえた上で、王族が直接領主の罪を断罪し、投獄する。という手段に出た。それが出来たのは、エカルラートがまさにこの国の最高権力者の一人だからだ。


 領主が黒幕の可能性があるとわかった時点で、フィグルドがイサラにエカルラートへ証拠集めと皇子としての権力行使の根回しを依頼する伝言を持たせたのだ。リナリア救出後、エカルラートと話し合っていたのは、この断罪劇をいかに派手に演出するかの相談だったらしい。フィグルドは派手にしなくていい、と言ったが、エカルラートは頑としてゆずらなかった。

 そしてそのまま新しい領主が決まるまでは、罪を裁いた王族が仮の領主となり治める。

 リム王国はあらゆる政治、経済、法・制度を全て王族に連なるものが決める。王族の権威を強固にするために国王は妻を両手の数では足りないほど娶っているという。

 今は皇子が十七人、姫が十二人いるそうだ。

 エカルラートはそのうちの十三番目の皇子。等しく王族としての支配力は持っているが、十三番目ともなると、ほぼ王位継承権は絶望的だ。だが、逆にそれが理由で自由にさせてもらえるらしく、今のような性格になったらしい。そして、エカルラートは十四の時に神託を受け聖騎士になった時から、皇子としての職務を半ば放棄して好きに生きているという。
 
「いーい?私は美と情熱に生きるの!何故なら、それがこの私にこそ似合うから!」
「うるせぇ!お前のその髪引き抜いてやる!」

蹴られた腹をおさえてエカルラートが高らかに宣言すれば、フィグルドに首根っこをつかまれたまま両手両足をじたばたさせて、ディーが怒鳴りつけたのだった。




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