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19.ノエスの恋愛相談
しおりを挟むその日、宿の一階の食堂に聖騎士達が集まって何かを相談しているようだった。あてがわれた部屋があった二階の階段から食堂へ降りると、全員がテーブルを囲んで渋面を作っているのが目に入る。彼らがここまで悩んでいるような様子を見せるのは珍しい。普段はリナリアに不安を抱かせないためか、難題にぶつかっても飄々としていることの方が多い。
「……厄介だな」
「そうねぇ……」
フィグルドの呟きに、エカルラートが困ったように眉を下げて頷いている。そこへ近づくと、エカルラートが気づいて視線をこちらへ向けた。が、リナリアを見てすぐに驚きの声をあげる。
「やだ!リナリアちゃんヒドイ顔色!」
一斉に、聖騎士達の視線が集まる。いきなり注目を浴びて、リナリアは慌てて大丈夫だと頭を振ったが。
「だめよ!寝てないと!」
「だ、大丈夫で……」
「リナリア……僕の水でつくったクッションいる?」
一気に距離を詰めて甲斐甲斐しく話しかけてくる二人に困っていると、割り込んで、ディーが一喝した。
「あ~うるせぇ。本人が大丈夫って言ってるならいちいち騒ぐな。ノエス!」
それから、自分の隣に立っているノエスに声をかけて、くい、と親指で宿の外を指し示す。
「リナリアつれて光合成してこい。光合成。日の光浴びて陰鬱な顔、焼いてこい」
「え?光合成?」
リナリアが戸惑っているうちに、ノエスがのっそりと近づいてきて、太い腕に腰を掴まれ抱え上げられてしまった。腕に座った体勢で、抱っこにも近いのだが、相変わらず安定感がすごい。体格差があるので、まるで子供を抱っこしているお父さんのようだ。驚いて硬直している間に、ノエスはそのままリナリアを連れて、宿の外へと出てしまった。
抱き上げられたまま、日の光の下での散歩が始まった。
「ノ……ノエスさん、私歩けます……っ」
「……」
無反応。のしのしと町外れのあぜ道を進んでいく。
「お、おろしてください……っ」
「……」
やはり、無反応。
リナリアは途中で訴えるのを諦めて、素直にノエスに連れられた散歩を満喫しようと気持ちを切り替えた。朝の爽やかな風が頬を撫で、柔らかい日の光があたり一面に降り注いでいる。
浄化のためにやってきたサイアス王国の南東に位置するこの町は、比較的小規模な町だ。赤い屋根のレンガ造りの家が立ち並び、可愛らしい景観を見せる。あぜ道を抜け、人の手で整えられた石畳の階段を上ると、小高い丘に出る。そこから小さな町の全貌が見渡せた。
ひしめき合うように建てられた家は、まるでミニチュアのドールハウスに見える。歴史と伝統を感じる町並みだ。ノエスは丘の中腹くらいまでくると、その場に腰を下ろした。それから胸ポケットからハンカチを出すと自分の隣の草の生える地面に敷き、そこにそっとリナリアを座らせてくれた。
紳士なノエスに胸を打たれる。
「お、重たかったですよね……ごめんなさい」
申し訳なくて謝ると、ノエスは少し斜め上に視線を彷徨わせてから、納得したように一つ頷いて答える。
「重たくない……。羽毛、二枚」
いや、そんなわけない、と突っ込みたくなったが、ノエスはその腕力が常人とは桁違いだという話を、以前ディーから聞いたことを思い出す。ひとまず、このことで食い下がるのは諦めた。ノエスは、いつも多くを語らない。そっと傍にきて、寄り添ってくれる。暖かい暖炉の傍にいる感覚をくれる人。
思えば、リナリアがくじけそうになった時、気づくとノエスが傍にいてくれた気がする。こうやって何も話さなくても、気まずくない空気を作ってくれる。
丘の上を心地よい風が吹いてリナリアの黒髪を靡かせる。
ディーが言ったとおり、光合成……ひなたぼっこは、気持ちを少しだけ穏やかにしてくれる。そういえば太陽の光には幸福を感じるなんとかっていう物質を助ける効果があるんだっけ?
ぼんやりと昔日本にいた頃知った知識を思い出そうとするが、思い出せない。もしかして、一回目の「無の力」を行使した時に失った代償の記憶ってこれだろうか。なんて思いながら。
ふと、夢の光景を思い出して、リナリアは膝を抱えると俯いてしまった。
「……リナリア、泣いてる?」
リナリアを覗き込んで、マネして膝をたててその上に手をおいたノエスが身体を折り曲げている。
「な、泣いてないですよ!」
慌てて顔をあげると、じっと深い深緑色の瞳がこちらを見つめているのに、ドキリとする。こんなに長くノエスに見つめられることは今までなかったので、なんだか緊張してしまう。今自分が抱えている不安を、見透かされてしまいそうだ。
ノエスは、ぱちりと一つ瞬きして、口を開いた。
「リナリアと、団長は似てる」
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