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第十話 -自殺-
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しおりを挟む「これ…は、私が何かしなくても治るぞ?」
「へ…?」
固まるケイに、当然そのことを知っていたピラムが人の悪い顔でプッと吹き出して片手で口を覆う。アスクレピオス自身も予知結果が意外だったのか、口調がたどたどしい。
「いや、だから…治る、ぞ? 普通に」
「マジで…?」
「再発の危険は残るが、奇跡的に手術が成功してほぼ普通の生活に戻れる。もう何年か闘病は続くがな」
それでもまだボーっとしているケイにアスクレピオスが半眼になって言った。
「…お前、向こうで余計なことを言うなよ」
「……マジか…あー…なんか、泣けてきた。マジで死ななくて良かったぁー…」
呆れた顔で冷ややかな視線を送るピラムと、執務机で仕事に戻るアスクレピオス。
しかし、しばらく感動して泣いた後、急にまたケイが叫んだ。
「あッ!! 自殺で思い出したけど、あの時のうちの会社のビルで昔働いてた人!!」
「ああ。ケイと初めて会った時の…」
少し前のことのはずなのにずっと前のことに思えた。
「あの時の人はもう霊体に戻ってるんだよな…」
彼女も可哀想だったとはいえ、嵐山が殺されたことを考えると複雑な気持ちになるのも事実だった。さらに、後輩のハルナはまた病院に入院しているらしい。
「いや…。それが…」
「え?」
言いにくそうにしているアスクレピオスに代わってピラムが淡々と言った。
「その人、死んでから結構沢山大怪我させたり殺したりしたみたいだね。地獄行きなんじゃない?」
「じ、地獄行き?!」
思わずケイの声が裏返った。アスクレピオスが息をついてからケイに説明する。
「…一種のカルマ返済制度だ。私は正直あまり好きではないが…」
「例えば、一人の殺人犯が百人くらい殺してた場合、カルマ的にはどうなると思う?」
ピラムに訊かれてケイが普通に答える。
「転生を百回繰り返すまで、ずっと誰かに殺される人生を繰り返し送り続ける…? あれ、でもそれだとまた殺人者になる人が新しく百人できちゃって、その人たちのカルマを返すためにまた……あれ?」
「まぁ、カルマの返済は自分がしたことと全く同じとは限らないけどね」
したことに匹敵するレベルの何かが返ってくることだけは確かである。
しかし、それでも百人も殺せばそのカルマを物理世界で返させるのはあまりにも非効率だ。
ピラムが嫌そうに言う。
「この前会ったマリクって人がいたでしょ? アレが地獄の責任者。要するに、物理世界で返しきれなくなったカルマは冥界で返済させられるってこと。霊体に還る前に魂のままでね。つまり、悪いことをした人は地獄行きってのは間違いじゃないわけだ」
そして冥界で負のカルマの返済をさせられる場所が俗に地獄と呼ばれる場所だ。返済期間と内容は当然カルマ量次第。
一種の救済措置とはいえ、その責め苦はあまりにも過酷だ。
アスクレピオスが呆然としているケイに言った。
「…一応、冥界にも法律のようなものがあってな。一つの人生の中で負のカルマがある一定量をオーバーすると霊体に還る前に魂は地獄送りになる」
「そうしないと一般的に全体数は加害者に対して被害者の数の方が多いからパンクしちゃうしね」
ケイが唖然としたまま言った。
「死んでからしたことでも…?」
「…当たり前だ。そうでなければ、殺された者があまりにも不憫だ」
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