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しーたん

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最終話 -冥界-

01

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「本日から無事職場復帰しましたッ」
 びしぃっと敬礼ポーズを決めるケイにパラパラとやる気のない拍手が飛んでくる。
 居酒屋の個室で会社の仲間十数人がガヤガヤと好き勝手に飲んでいる中、ケイの向かいでナナミが烏龍茶を飲みながら笑う。
「治ったばかりなんだから、飲みすぎちゃだめだよ」




「どうだ? どこか違和感はあるか?」
 ベッドの横に立って覗き込むようにこちらを見つめている逆光のアスクレピオスにぼんやりした頭で呟く。
「いや…。全然違和感はないけど…くっついたのか?」
「違和感ないって…嘘だろ。見た目全然違うぞ、お前」

 愕然としているヘラクレスに呼応するようにベッドから起き上がって、くつくつ喉で笑っているアウトリュコスから受け取った鏡で自分の外見を確認する。
「あー…ホントだ。よくよく考えたら俺、元々こんな顔だったわ。今、思い出した」

 ごく自然に言ったつもりだったが、アウトリュコスが今度こそ腹を抱えて笑い出す。ピラムが苦笑して言った。
「ま、今までこっちでも見た目がケイのまんまだったってのがおかしかったんだけどね。自分で自分の顔を忘れてたんじゃ世話ないよ」





「で? 身体の方はもう完璧?」
 透明な液体の入ったグラスを片手に冷ややかな目で笑っている東寺に全力の笑顔で返す。
「おうッ! ギターもちょくちょく触ってるから、今度スタジオ入らねぇ?」
「ああ…いいね。それじゃ、肩慣らしに二人で個人練…」
 言い終える前にビール瓶を片手に持った嵯峨が笑顔で乱入してきた。
「もちろん、僕も一緒でいいよね? ドラムがいないと寂しいでしょ?」




「分離に失敗した…ッ?! それってつまり、まだケイくんは君と記憶を共有してるってこと?」
「まぁな。記憶というより意識がそのままっつーかいい具合に意識が混じっちまった……っつーかなんでお前がここにいんだよッ!」
 しれっと診療所の庭に来ていたアイムに怒鳴る。
「えー…いいじゃん。僕もこの前君にこてんぱにされて大怪我してたからここのお医者さんに診てもらってたの」

「な……ッ、レピオスどんだけお人好しなんだよッ!!」
 ニコニコと屈託なく笑いながらアイムが返す。
「君を今まで通り面倒見てくれるくらいにはお人好しなんじゃない? おかげで僕らも手が出せなくなっちゃったし」

 事実上神界から追放したことで、一旦クー・フーリンを封印しようという動きは収まったらしい。





「それにしてもうちの会社も随分人が減ったよなぁ…」
 飲みながら呟いたケイに、ハルナが笑顔で返す。
「でも、新しく入ってきた人もいるみたいですよ」
「へぇ…そうなんだ。そういえば中途の人が来たってこの前聞いたような…」
 今日が復帰初日のケイは、業務時間中も挨拶と仕事の確認に追われ、新しく入った人とやらには全く会えず仕舞いだった。




「そういや最近、リュコスは俺たちと同じ時間に冥界こっちにいるけど、物理世界の仕事はいいのか?」
 時差があるようなことを以前言っていたような気がするが。
「あーいいのいいの。俺も日本に引っ越したから。それで? お前も結局冥界で俺らと一緒に働くことにしたって?」

 あっさり言ってニヤニヤしながら訊いてくるアウトリュコスに肩をすくめる。
 結局、彼はなんだかんだでジャヒーとは茶飲みデートを続けているらしい。

「もう神界には帰れねぇからな。冥界ここで働くしかねぇだろ。色々教えてくれよ、先輩」
「おー…いいけどその前にお前、冥王府に登録して来いよ。言っとくけど管轄が違うからそれは俺たちじゃ教えられねぇぞ?」

「そっか。んじゃ、俺のとこの冥王府に行かねぇとな…。俺のとこの冥王………って、師匠スカアハになってんじゃねぇかッ!! やっぱ無理だッ!! 今、師匠に会ったら説教じゃ済まねぇッ!!」
「あー…はいはい。とっとと行って怒られて来い」

「無理だってッ!!!」
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