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6.ハーベスト家伯爵令嬢は深窓の令嬢?(1)

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「ここがハーベスト邸…。随分と地味な外相ですわね。」
「長い歴史を持つ貴族ですからねぇ。質実な暮らしをしていらっしゃられるのでしょう。」

本日、エカテリーナとアンナはある依頼の為にハーベスト伯爵邸に来ていた。

エカテリーナな同世代貴族たちとのコネクションにも力を入れているが、年の離れた貴婦人たちのサロンにも出入りしている。マダムたちは年若いエカテリーナを可愛がり、投資についての知識を色々伝授してくれているのだ。今回受けた頼み事も、サロンの一員であるハーベスト伯爵夫人からのものであった。なんでも一番下の孫娘が屋敷に引きこもっているので、仲良くしてやってほしい、とのことだ。王国の西側穀倉地帯を納めるハーベスト家にこの際恩を売っておくのも悪くなかろう、と踏んだエカテリーナは二つ返事でこの件を快諾したのだった。

屋敷を訪問すると、エカテリーナはすぐさま噂の伯爵令嬢の元へと案内された。客間のソファには黒髪ボサボサ頭の少女がちょこんと腰を掛けていた。

「お初にお目にかかります、ソフィア様。エカテリーナ・ポルーニンでございます。以後お見知りおきを。」
「…あ、あの。えっと…。」
「ソフィア様、ご挨拶を。」
「ソフィアです…よろしく…」

(ほぉ、これがハーベスト家の深窓のご令嬢…)

どうりでハーベスト伯爵夫人がご心配なさる訳だ、エカテリーナは少々面食らったが、気を取り直して会話を続けた。

しばらく話してみて分かったことはいくつかあった。頭の回転が速くて利発であること、引きこもりの状態を何とか打開したいとは思っていること、そして自分に自信がないこと。

「…実際に会ってみるとイメージとは少し違った方ですわね、エカテリーナ様は。」
「わたくしが、ですか?」
「ええ。噂で耳にした以上にお美しい方ですし、それに、お優しい方でしたわ。」

氷のように美しいとお聞きしたので、私てっきり冷たい方とばかり思い込んでおりましたのよ。
そういってソフィアはにこりと笑う。白い頬に浮かんだえくぼは愛嬌があった。

「ねぇ、ソフィア様。再来週に私の家でお茶会があるの。皆さんいらっしゃられますのよ。ソフィア様も来て下さらなくて?」
「…わたくしが、お茶会に。…その、お恥ずかしいのですが、自信がないのです。」

暗い面持ちでソフィアは紅茶を掻き混ぜた。

「ご存知のように、ハーベスト家はそう小さくはない家柄です。兄や姉たちは頭脳や容姿が優れていたのですが、私は何をやっても勝てなくて。ハーベスト家令嬢の落ちこぼれだと皆に笑われるのかと思うと、勇気が持てずにいます。」

私もエカテリーナ様のように生まれていればよかった。
ぽつりこぼした一言はソフィアの心からの本音に違いなかった。

なんだかしんみりとした空気が客間に流れて、しばらく沈黙した。
しかしその沈黙はエカテリーナの思いがけない一言で破られた。

「いいえ違います、ソフィア様。貴女が外に出れないのは勇気のせいなんかじゃありませんことよ。ただの怠慢ですわ!」





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