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11.最悪な男、アラン・フレデリック

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「な…な…っ!」
驚きと怒りで顔を真っ赤にさせるエカテリーナをよそにアランはそのまま続ける。

「“白く気高き小さな女王様”?フン!計算高くて、のっぽな小賢しい女の間違いだろ。」
「…」

怒りで引き攣る顔にはっと我に返ったエカテリーナは、扇を大袈裟に動かすとそっと口元を隠した。
素敵なレディたる者、どんな時にもスマートに対応しなくては。

「…アラン様、なぜ私がそんな事を謂われる理由がありまして?第一、失礼極まりないですわ。さすがの私も傷つきます。」
「傷つく?それは失礼。それでは訂正いたします。“じゃじゃ馬娘で、頭でっかち”のエカテリーナ嬢。」

涼しい顔をして次々に悪口を繰り出すアランに、エカテリーナの堪忍袋の緒はついぞブチ切れたのだった。
勢いよく扇を閉じると、ビシッ、という効果音が付きそうなほど鋭くアランに向かって先を向ける。


「アンタ、調子に乗るんじゃないわよ!ちょっと容姿と家柄が良いくらいで何よ、こっちだってお断りだっつーのッ‼」

アランは驚きで紫の瞳を瞬かせたが、すぐに元の調子に戻った。

「ハッ、本性が出たな。そのほうがすまし顔より全然アンタらしいよ。」
「あたしの何を知ってるのよ!最低男、二度とあたしの前に顔を出さないで‼」

****

(あ~。やっちまいましたわ…。)

いくら失礼な男だったといえ、相手は公爵家の息子。今後の成功ルートへの道筋的にも、公爵家を敵に回す事は若干分が悪いように思えた。
しかしやってしまったことはどうしようもない。反省と改善はするが後悔はしない、というのがエカテリーナのモットーなのだ。

しかし初対面でいきなり悪口を言ってくるとは一体どういう了見なのだろう。

南にあるシラビス王国に長い間留学していたというアラン・フレデリック。
その造形は類稀なる美しさがあるが、性格に難がありすぎる。
つまり危険人物。近寄るべからず。

エカテリーナの頭の中ではアランについてそのように記述されたのであった。
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