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13.仮面舞踏会(2)

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最後のあがきとばかりに空を掴んだ右手。
もう駄目だ、と来るべき衝撃に備え目を瞑ったエカテリーナだったが、感じたのは柔らかい感触だった。

「あ…」
「大丈夫ですか、お嬢さん。」

気付けばエカテリーナは一人の男の腕の中にいた。
漆黒の仮面をつけた謎の男はこちらの様子を心配しているようだ。

「どこか具合でも悪いのですか?」
「…いえっ。すみません、でもおかげで助かりましたわ。」
「それは良かった。」

後ろを振り返れば、ダングストン男爵令嬢の姿はもうそこにはなかった。

「…ありがとうございます、それでは…ッ!」

支えてくれた男性から離れようとした時、足首に鈍い痛みが走る。
先ほどの転倒未遂事故でどうやら捻挫をしてしまったらしい。

動き出せずに固まってしまったエカテリーナを見て、男もそのことに気付いたようだった。

「…大変申し訳ないのですが、ホールフロアに居るソフィア・ハーベストを呼んできていただけませんか?わたくしの連れなのです。」
「ソフィア嬢…。お連れに男性はいらっしゃらないのですか?」
「ええ。」

男は近くにいたらしい従者に声をかけ、何やら指示を出した。
しかしその一方でエカテリーナを放そうとはしない。
エカテリーナがそのことに不信感を募らせていると、次の瞬間には身体が宙に浮いていた。
否、あろうことかエカテリーナは謎の仮面男に抱き上げられていた。

「…!」

エカテリーナは突然の出来事に声を挙げて抗議しようとしたが、その言葉もあまりの驚きで喉元で突っかかってしまった。

「注目を浴びたくなかったら静かにしてることだな、のっぽ女。」

つい最近聞いたような憎まれ口に、黒い仮面から覗く深いアメジストの瞳。

「…あなた、」
「ここは仮面舞踏会なのです、レディ。それ以上は。」

(なんだかよく分からないけれど、とりあえずソフィア様の所まで運んで頂きましょう。何かあったら、藻掻いて逃げ出せばいいし…)

大人しく男に抱きかかえらえることにしたエカテリーナであった。
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