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19.ロイド・ウェザービーの悪夢

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ロイドは度々夢をみる。
エカテリーナを失った彼は、彼女を探して夜の森を探しているのだった。

夜に眠らず夢遊病のように森を歩き回るロイドは見る見るやつれていった。
始めは皇子を止めていた側近たちも今やロイドの様子に恐れをなして何も言えなくなっていた。城ではエカテリーナ嬢の呪いだと言う噂がまことしやかに囁かれていることをロイドは知っていた。

しかしそんなことはどうでもよかった。
今はただ、エカテリーナにもう一度だけ会いたかった。
彼女になら呪い殺されても本望とさえ思った。

青白い月明かりの光を頼りに森の中を歩み続ける。
踊るウィリー達の姿を求めて。
あちこちから飛び出ている枝にぶつかり続けたロイドの身体はどこも擦り傷だらけだった
大きな湖のほとりまで出れば、さぁっと強い風が吹いた。
よくよく目を凝らせば対岸にはウィリー達の姿が見えるではないか。

「エカテリーナ‼」

花嫁を連想させる純白の衣装をまとったウィリー達の列の中でロイドはエカテリーナを見た。死んでしまった彼女はこの世の何物よりも青白く、澄んでおり、ぞっとする程美しかった。ロイドには見向きもせず、ゆらゆらと風に流されるように森の奥深くに消えていく。

「待ってくれ、エカテリーナ‼」

体力の限界を迎えた身体は泥のように重かったが、それでも必死にロイドは走った。
ざっ、ざっ、ざっ。

地面を蹴るリズミカルな足音はロイドに忍び寄る死の円舞曲を暗示しているかのようだった。

****

「ふふ、ロイド様ったら。ご冗談をおっしゃるなんて珍しいですわ。」
「冗談なんかじゃない。」

驚いたエカテリーナは思わずロイドの顔を見上げた。
真剣な色を湛えたグレーは彼女を射貫いて、そして捉えて離さない。
出会ってからずっと。

「あなたを、あいしている。」

震える唇から紡ぎ出されたのは紛れもない愛の言葉だった。
エカテリーナは混乱寸前だった。ロイドが何を言っているのか分からなかった。

「僕は、貴女を愛しているんだ。エカテリーナ。」
「な…にを、…」
「もう失うのはご免だ。」
「だって…」
「僕の前からいなくならないで…」

なおもエカテリーナの手を握り続けているロイドの手は温かい。
前世でああも求めて続けた彼の愛がここにはあった。

「わたくしからはなれたのは、あなたのほうではありませんか…」

エカテリーナの悲しみの音はぽつりと零れ落ちた。

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