おうちに帰ろう

弥生

文字の大きさ
1 / 1

おうちに帰ろう

しおりを挟む
 僕の幼なじみは意地悪だ。
 いつも僕が大切にしている物をとっていってしまう。
 可愛いくまのぬいぐるみ、かっこいい車のおもちゃ、なんでも持っていってしまう。
 代わりにぽいっと投げられたのは、彼が持っている少し不細工な犬のぬいぐるみに、少し微妙な飛行機のおもちゃ。うーん。これじゃない感が満載。
 神社にいるお友達に相談しても、みんな困ったように笑うだけ。
 もう、相談にのってほしいのに。
 幼なじみの彼は怒ったように僕の手を引くと、勝手に遊ぶな! 俺と一緒に来い! なんて自己中心的な事ばかり言うんだ。
 お母さんに相談したらモラハラは裁判で負けるのよ? なんて良くわからないことを言っていた。
 ある赤い赤い夕暮れの日。
 いつもより色が濃くなっている黄昏に、ぼんやりと神社の階段で幼なじみのサッカークラブが終わるのを待っていると、ねじねじさんやぐるぐるさんが、僕の周りを取り囲んできた。
「ねぇ、ゆーくん。向こうに行こう」
「楽しいよ」「面白いよ」「素敵な事があるよ」
 その言葉に待ちくたびれていた僕はほんの少し興味を持ったんだ。
「向こうってどこ?」
「鳥居の向こう側」
 少しだけなら、良いのかな?
 小さい頃からずっと近くにいたねじねじさんたちなら、僕は怖くなかった。
「行くな! 優介ゆうすけ!」
 一緒に行こうとした時、階段の下から幼なじみのひろくんの声がした。
 また宏くんは意地悪を言ってる。
「行くな! 連れていかれるぞ! くそ、呪いが掛けられたおもちゃは全部取り替えたのに、それでもやつら優介を狙ってる!」
「邪魔な子」「意地悪の子」「力の強い子を守る子ども」
「何言ってるの? 皆僕のお友達なのに」
「俺には最初から何も見えていないんだよ!」
 後ろからくいっとえりを黒い腕に引っ張られる。
 鳥居の向こうにたくさんのぐねぐねさんたちが手招きしている。
「優介! おい! 贄が一人で良いなら、俺にしろ!」
 宏くんは延びてきた手から僕を引き離すと、鳥居の先に向かおうとする。
「宏くん!」
 彼は僕を引き剥がして階段の二歩下の段に押しやると、泣きそうな顔で僕を見つめた。
「さよなら、優介」
 宏くんは鳥居の向こうに身を投げ出すと、その近くにいた人ならざる者たちは夕焼けに溶けるように消えてしまった。
 気がつけば、赤かった辺りは真っ暗になっていた。
 僕はその日はじめて知った。
 宏くんが意地悪をしていたのは、みんな僕を守るためだったんだって。
 彼は本当はとても優しかったのだと。
 
 それから月日がたち、だんだんと僕は向こう側の者にとって、とても力のある供物なのだと知ることになった。
 その事を僕が知らなかった為に、僕の代わりに連れ去られてしまった宏くん。
 僕は、彼を取り戻すためなら何でもした。
 あの10年前と同じ条件の日、赤い赤い夕焼けが神社を染める。
 自分の事を知った僕は、ずいぶんと向こう側との取引も上手くなっていた。
 鳥居の向こうに変わらない姿の君がいる。
「待たせてごめんね」
「……遅いよ」
 10年前の君がどうして僕を助けてくれたのか、その答えを聞きたくて。
 僕は彼を縫い止める向こう側のくびきを解き放つ。
 ずいぶんと小さくなった彼の身を抱き締めて、とても優しかった幼なじみと再会を喜ぶ。
「おかえり。宏くん。おかえり。おうちに帰ろう」
「ただいま、ただいま優介」

 ぎゅっと抱き締めたその身の暖かさが、大切なものを取り戻せたのだと……頬を伝う暖かいものを拭う事もしないで、僕はずっと彼を抱き締め続けた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...