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おうちに帰ろう
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僕の幼なじみは意地悪だ。
いつも僕が大切にしている物をとっていってしまう。
可愛いくまのぬいぐるみ、かっこいい車のおもちゃ、なんでも持っていってしまう。
代わりにぽいっと投げられたのは、彼が持っている少し不細工な犬のぬいぐるみに、少し微妙な飛行機のおもちゃ。うーん。これじゃない感が満載。
神社にいるお友達に相談しても、みんな困ったように笑うだけ。
もう、相談にのってほしいのに。
幼なじみの彼は怒ったように僕の手を引くと、勝手に遊ぶな! 俺と一緒に来い! なんて自己中心的な事ばかり言うんだ。
お母さんに相談したらモラハラは裁判で負けるのよ? なんて良くわからないことを言っていた。
ある赤い赤い夕暮れの日。
いつもより色が濃くなっている黄昏に、ぼんやりと神社の階段で幼なじみのサッカークラブが終わるのを待っていると、ねじねじさんやぐるぐるさんが、僕の周りを取り囲んできた。
「ねぇ、ゆーくん。向こうに行こう」
「楽しいよ」「面白いよ」「素敵な事があるよ」
その言葉に待ちくたびれていた僕はほんの少し興味を持ったんだ。
「向こうってどこ?」
「鳥居の向こう側」
少しだけなら、良いのかな?
小さい頃からずっと近くにいたねじねじさんたちなら、僕は怖くなかった。
「行くな! 優介!」
一緒に行こうとした時、階段の下から幼なじみの宏くんの声がした。
また宏くんは意地悪を言ってる。
「行くな! 連れていかれるぞ! くそ、呪いが掛けられたおもちゃは全部取り替えたのに、それでもやつら優介を狙ってる!」
「邪魔な子」「意地悪の子」「力の強い子を守る子ども」
「何言ってるの? 皆僕のお友達なのに」
「俺には最初から何も見えていないんだよ!」
後ろからくいっとえりを黒い腕に引っ張られる。
鳥居の向こうにたくさんのぐねぐねさんたちが手招きしている。
「優介! おい! 贄が一人で良いなら、俺にしろ!」
宏くんは延びてきた手から僕を引き離すと、鳥居の先に向かおうとする。
「宏くん!」
彼は僕を引き剥がして階段の二歩下の段に押しやると、泣きそうな顔で僕を見つめた。
「さよなら、優介」
宏くんは鳥居の向こうに身を投げ出すと、その近くにいた人ならざる者たちは夕焼けに溶けるように消えてしまった。
気がつけば、赤かった辺りは真っ暗になっていた。
僕はその日はじめて知った。
宏くんが意地悪をしていたのは、みんな僕を守るためだったんだって。
彼は本当はとても優しかったのだと。
それから月日がたち、だんだんと僕は向こう側の者にとって、とても力のある供物なのだと知ることになった。
その事を僕が知らなかった為に、僕の代わりに連れ去られてしまった宏くん。
僕は、彼を取り戻すためなら何でもした。
あの10年前と同じ条件の日、赤い赤い夕焼けが神社を染める。
自分の事を知った僕は、ずいぶんと向こう側との取引も上手くなっていた。
鳥居の向こうに変わらない姿の君がいる。
「待たせてごめんね」
「……遅いよ」
10年前の君がどうして僕を助けてくれたのか、その答えを聞きたくて。
僕は彼を縫い止める向こう側のくびきを解き放つ。
ずいぶんと小さくなった彼の身を抱き締めて、とても優しかった幼なじみと再会を喜ぶ。
「おかえり。宏くん。おかえり。おうちに帰ろう」
「ただいま、ただいま優介」
ぎゅっと抱き締めたその身の暖かさが、大切なものを取り戻せたのだと……頬を伝う暖かいものを拭う事もしないで、僕はずっと彼を抱き締め続けた。
いつも僕が大切にしている物をとっていってしまう。
可愛いくまのぬいぐるみ、かっこいい車のおもちゃ、なんでも持っていってしまう。
代わりにぽいっと投げられたのは、彼が持っている少し不細工な犬のぬいぐるみに、少し微妙な飛行機のおもちゃ。うーん。これじゃない感が満載。
神社にいるお友達に相談しても、みんな困ったように笑うだけ。
もう、相談にのってほしいのに。
幼なじみの彼は怒ったように僕の手を引くと、勝手に遊ぶな! 俺と一緒に来い! なんて自己中心的な事ばかり言うんだ。
お母さんに相談したらモラハラは裁判で負けるのよ? なんて良くわからないことを言っていた。
ある赤い赤い夕暮れの日。
いつもより色が濃くなっている黄昏に、ぼんやりと神社の階段で幼なじみのサッカークラブが終わるのを待っていると、ねじねじさんやぐるぐるさんが、僕の周りを取り囲んできた。
「ねぇ、ゆーくん。向こうに行こう」
「楽しいよ」「面白いよ」「素敵な事があるよ」
その言葉に待ちくたびれていた僕はほんの少し興味を持ったんだ。
「向こうってどこ?」
「鳥居の向こう側」
少しだけなら、良いのかな?
小さい頃からずっと近くにいたねじねじさんたちなら、僕は怖くなかった。
「行くな! 優介!」
一緒に行こうとした時、階段の下から幼なじみの宏くんの声がした。
また宏くんは意地悪を言ってる。
「行くな! 連れていかれるぞ! くそ、呪いが掛けられたおもちゃは全部取り替えたのに、それでもやつら優介を狙ってる!」
「邪魔な子」「意地悪の子」「力の強い子を守る子ども」
「何言ってるの? 皆僕のお友達なのに」
「俺には最初から何も見えていないんだよ!」
後ろからくいっとえりを黒い腕に引っ張られる。
鳥居の向こうにたくさんのぐねぐねさんたちが手招きしている。
「優介! おい! 贄が一人で良いなら、俺にしろ!」
宏くんは延びてきた手から僕を引き離すと、鳥居の先に向かおうとする。
「宏くん!」
彼は僕を引き剥がして階段の二歩下の段に押しやると、泣きそうな顔で僕を見つめた。
「さよなら、優介」
宏くんは鳥居の向こうに身を投げ出すと、その近くにいた人ならざる者たちは夕焼けに溶けるように消えてしまった。
気がつけば、赤かった辺りは真っ暗になっていた。
僕はその日はじめて知った。
宏くんが意地悪をしていたのは、みんな僕を守るためだったんだって。
彼は本当はとても優しかったのだと。
それから月日がたち、だんだんと僕は向こう側の者にとって、とても力のある供物なのだと知ることになった。
その事を僕が知らなかった為に、僕の代わりに連れ去られてしまった宏くん。
僕は、彼を取り戻すためなら何でもした。
あの10年前と同じ条件の日、赤い赤い夕焼けが神社を染める。
自分の事を知った僕は、ずいぶんと向こう側との取引も上手くなっていた。
鳥居の向こうに変わらない姿の君がいる。
「待たせてごめんね」
「……遅いよ」
10年前の君がどうして僕を助けてくれたのか、その答えを聞きたくて。
僕は彼を縫い止める向こう側のくびきを解き放つ。
ずいぶんと小さくなった彼の身を抱き締めて、とても優しかった幼なじみと再会を喜ぶ。
「おかえり。宏くん。おかえり。おうちに帰ろう」
「ただいま、ただいま優介」
ぎゅっと抱き締めたその身の暖かさが、大切なものを取り戻せたのだと……頬を伝う暖かいものを拭う事もしないで、僕はずっと彼を抱き締め続けた。
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