乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

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第1章 俺が乙ゲー転生ってマジですか?

08話 強さについて

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盗賊どもを焼き尽くした後、我に返るとすぐに母様に駆け寄り“ヒール”をかけた。
母様はあの盗賊どもに、暴力をふるわれていた。

「母様、大丈夫ですか?」

傷を治して、他に怪我はないか確認する。
魔法は正常に発動したようで、怪我は見当たらなかった。

「大丈夫だよ、リュー君。それよりリュー君はっ? 痛いとこ、ない?」

俺の心配をよそに、母様は逆に俺を心配そうに見てペタペタ身体中を触って怪我がないか確認した。
その様子を俺は呆然と見つめる。

先程から周囲の視線をひしひしと感じる。
向けられる視線の多くは恐怖だ。
しかし、これは当然ことだ。
6歳の子供が魔法を使い、人を惨殺したのだ。
怖がるなと言う方がおかしい。
次は自分かもしれない、そう思うのは当然だと思う。
母様の反応の方がおかしいのだ。

「怪我はないみたいね……他に怪我人がいるから、ちょっと治療しに行ってくるね。リュー君はここにいて!」

「あっはい、」

俺の無事を確認すると母様は怪我をした商人に駆け寄り、回復魔法をかけていく。

自分の手を見ると、少し震えていた。
初めて殺人を犯した。
正当防衛とはいえ、加減できたはずた。
ただそれでは俺が我慢ならなかった。
母様を傷つけられた時頭に血が昇った、こんな激しい怒りを抱いたのは初めてだった。
この手の震えは人を殺めた恐怖からではない。
俺は自分のした事が間違った選択だなんて、思っていない。
俺は母様に怖がられるのを恐れていた。
自分でも普通ではない事は、よく分かっている。
俺は異常だ。
前世の血縁が皆俺を認めなかった理由は、確かに俺にもある。

怯えられると思った。
怖がられると思った。
気味が悪いだろうと思った。
切り捨てられるかもしれないと思った。

けど、母様の目にあったのは、心配と俺が無事であったことへの安堵だけだった。
俺に対する恐怖は微塵もない。

「ははっ……やっぱりかなわないや」

ぼそりと呟く。

母様は俺が思ってるよりずっと強かった。
俺はいつまでも、過去ばっか引きずって弱いままなのに。
俺の全部を受け入れようとしてくれている。

「俺も……強くありたいな。」

いつまでも過去に囚われてなどいられない。
前に進む力はもう手の中にある。
だから──

「おいっ! 警備隊が来たぞ!!」

ちょうど巡回中の警備隊が通ったようだ。
周囲から安堵のため息が聞こえる。

「俺が呼んでくる!」

乗客の若い男が、警備隊へ早足で駆けていく。

「もう、安心だねリュー君?」

治療が終わったようで母様が戻ってきた。

「さっきは言い損ねたけどありがとう、私を守ってくれて」

母様が俺を抱き締めて言う。

「いえ、当然です。………母様」

俺も母様を抱き締めて返す。

「なぁに?」

「大好きです。……俺も母様が愛してます」

ずっと言えなかった言葉を告げる。
母様が俺を信じてくれるように、俺も母様を信じる。

「私も! 私も愛してるよリュー君!!」

そう言った母様の笑顔は何より眩しかった。

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