乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

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第3章 敬虔なる暴食

15話 ふぉーゆー

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次の日、約束通りユーリが遊びにやって来た。

「いらっしゃい、ユーリ」

俺はユーリを玄関で迎え入れた。

「ん…きょう…も…おじゃま…し…ます」

アメジストの美しい瞳と目が合うと、ユーリはふにゃりと目尻をさげた。

「今日は天気が悪くなりそうだから、僕の部屋でもいいかな?」

「ん」

ユーリが手を差し出したので、俺はその手を取った。
外から来たせいか、少しひんやりとしている。

「よかった。じゃあ、案内するね」

この間の誕生パーティーの様に俺はユーリの手を引いて、玄関から自分の部屋まで案内した。
ユーリの歩幅が短いせいか、何時もより時間がかかった。

「ここが僕の部屋だよ。まだまだ荷物は少ないけどね」

部屋に入ると、ユーリはキョロキョロと部屋を見回し観察していた。
あまり同年代と交遊がなかったようだし、こうして私室に招かれたのは初めてだから珍しいのかもしれない。
だが、残念ながらこの部屋にまだ俺の荷物はあまり無い、元々備え付けの家具だったり本ばかりだ。
嫌いではないが、好みかと言われれば首を横に振るだろう。

その内、家具や雑貨も自分好みに揃えたいな……。

そうすれば、この場所はもっと俺の居場所になる。

「ほん、いっぱい…べん…きょ…たくさん?」

ユーリは指で本をつつくと、そう言って首を傾げた。

「そうだね、本は結構読んでるかな?」

このペースだと、後1ヶ月もかからずに公爵家の蔵書を読破し終えてしまうとこないだ言われたばかりだ。

「え…らい!」

「ありがとう?」

ユーリが俺の頭をポンポン撫でてきたので、一応お礼を言っておく。
年齢的にはユーリの方が上だが、俺自身はユーリを年下の弟のような気持ちで接しているので、何だか不思議な気分だ。

「昨日、王都で人気のお菓子を買ったんだ。一緒に食べよう?」

「ん!」

俺はセルバさんにお菓子と紅茶を出して貰った。
そして父様達に話したように、ユーリにも回復魔法の魔導具について御茶をしながら話した。

「…い…と…おもぅ。…けど、おと…さまに…きか…ないと」

ユーリはお菓子で頬を膨らませながら、こくこくと首を縦に振った。
まずは第一関門突破といったところか。

「うん、だから今日の事を話してみて欲しい。詳しい話は、後日僕が説明しに行くから」

「ん、…わかっ…た」

ユーリは俺の頼みを快く引き受けてくれた。
後は、俺が直接説明しにいけばいいだろう。
今日の成果としてはこれで充分だ。

俺はその後も王都にどんな店があるのかや、どんなものが売っていたかなどをユーリに話して聞かせた。
ユーリは興味津々に俺の話を聞いていた。

「い、いな。…ぼく…そとあ…まり…いったこと…ない」

ユーリは俺を羨ましそうに見た。
ユーリもいいとこのボンボンであるし、魔眼持ちだ。
回りが街で気楽に出歩くなど許さないのだろう。
公爵家ウチに気軽に来れるのは、家の警備がしっかりしているのと同年代の友人を作らせたい父親トーリの意向だろう。

「仕方ないよ。僕達魔眼持ちは狙われやすいと聞くしね。僕も兄様と勝手に出掛けてしまったから、父様には叱られたよ」

「…ぼく…も…いき…た!」

「うーん? 僕が勝手に連れていくわけには行かないからなぁ。んーぅ、今度僕からもユーリのお父様にお願いしてみるよ」

「むぅ……」

「んー、困ったな。こればっかりは僕が勝手に連れ出すのは不味いからな……」

俺が外に遊びに行ったと知ると自分も行きたくなったのか、ユーリが手をぶんぶん振って行きたいと訴えた。
良かれと思って沢山話し過ぎたようだ。
俺が父親トーリを共に説得する旨を伝えても、頬をぷくっと膨らませてぷーたれている。

……可愛い、何この生き物。
すごい可愛いんだけど。
頬っぺたつつきたい。

そう思っていたら、本当に頬をつついてしまった。

「ぷぅっ!?」

「あっ、ごめんなさい」

「めっ! めっ!!」

ユーリは怒って、俺の肩をポカポカ叩く。
自分でも本当にやってしまうとは思わなかった、申し訳ない。

「そうだ! ほら、ユーリにプレゼントがあるんだ! 開けてみて!」

「むむぅ……」

俺は咄嗟に今日渡す予定だったプレゼントを取り出し渡した。
何とか怒りの矛先を逸らさなければ。
ユーリは誤魔化されないからなと俺を睨むと、渋々プレゼントの箱を開けた。

「……?」

「これは魔導具なんだ。僕が必要な材料を貰って自分で作ったんだよ!」

「じぶ…んで…つくった? …すご…ぃ!」

ユーリは先程の怒りを忘れて、目を輝かせ始めた。
魔導具は球形をしており、所々に小さな宝石が埋め込まれていてとても美しい。
見た目も中々の出来だと自負している。

「ふふ、これはこうして使うんだよ」

「?」

俺は席を立ち、部屋の電気を消した。

「……ここのスイッチを押してっと!」

魔導具につけたスイッチをカチリと押した。

「わぁっ!!!」

ユーリは感嘆の声をあげた。

暗闇に幾つもの光が浮かび上がる。
まるで部屋の中が満天の星空になったようだ。

「わゎっ、なんで、なんで!?」

「これはプラネタリウムって言うんだよ。魔導具に込める術式自体はとても単純なものだけど、色々と調整して星の光の様に見せているんだ。どう? 気に入ってくれた?」

前世であったプラネタリウムの小型機械を参考にしたが、魔法の方が自由度が高かったので調整はあまり難しくはなかった。
ジョディーに聞いたところ、こういった魔導具はないそうなので物珍しくはあるだろう。

「ん! ん! すごぃっ!! すごぃ!」

案の定見たことない魔導具に、ユーリはとても喜んでくれたようだ。
いつもゆったりとしたしゃべり方が、早くなっている。
喜んでくれて何よりだ。
すっかり機嫌も治ったようだし。

「わぁ!」

俺とユーリはしばらくの間、魔法が作り出す幻想的な星空を共に眺めた。
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