6 / 15
episode.05
しおりを挟む
正直、サーラには楽しさが理解できない境地にある。
仮面のせいで視界が悪いのに薄暗く保たれたホールでは、思うように身動きを取る事もサーラには難しい事だった。
今のところ、会場の隅の方でザワザワとそれぞれに談笑する大人達をただ眺めているだけになっている。一応人の縁の繋がりを見てはいるが、これでは人が多すぎて誰の縁がどこに繋がっているのか、糸が絡み合っているように見えて仕事にならない。
「どう?仮面だけでも分からないものでしょ?」
「これの何が楽しいのかが分からないのですが」
「はははっ、確かに」
「同意するくらいなら来なければ良いのでは?」
「僕もそうしたいんだけどね。ほら、僕はダンテと違ってまだ伴侶がいないから」
「……………」
だから何だと言うのか。サーラは眉間に皺を寄せた。
全く、お貴族様も生きにくそうだとため息を吐く。魔女としての務めはあるが、それ以外は比較的自由気ままに生きてきたサーラと、ここにいる人達では住む世界が違うのだろう。
「面倒ですね」
ぽつりと漏らした言葉に返事は無かったが、特に気にする事もなく、サーラは再び人間観察に勤しむ。
見ていると分かって来たことがある。時折こちらに向けられる好意と疑念の視線。広い会場で目立つ場所にいるわけでも無いのに男女問わず多々見受けられるその視線の意味は簡単だ。
「………バレてますよね?ジュリオさん」
「さあね。誰も声をかけてこないから分からないな」
「この視線に気付いていないとは言わせませんよ。こんな所にいないで、交流して来たらどうです?」
近い距離に居た方が人の縁は見やすい。ジュリオ側から運命の乙女との繋がりが見えないなら、相手側から辿れば良いかもしれないと踏んでいたが、いかんせんジュリオが動こうとしないので困っていた所ではある。
サーラと違ってこういう場所には慣れているようだし、促せば多少挨拶程度でも動くかと思えば、何を思ったかジュリオはサーラの腰に手を回し、自分の方に引き寄せる。
「っ!?!?」
何が起こったか分からないままよろけた身体はジュリオに受け止められた。転ばずに済んだのはありがたいが、あまりにも距離が近すぎる。そうじゃなくても近いと感じていたのに。
「なん、です…?」
動揺を隠そうとしたて失敗したサーラだったが、ジュリオがそれを気にする素振りはなく、いつもより低い声色で答える。
「視線には気づいているよ。だからこそ、ここを離れるつもりは無いけど」
「……私を女性避けに使わないでくれます?」
「どちらかと言うと男避けだよ」
「はぁ。そんなに誰とも会いたく無いなら、本当に何をしに来たんですか」
今日何度目かのため息を吐いたサーラは視線を感じてジュリオを見上げた。仮面のせいで分かりづらいが、苦笑いを浮かべているように見える。
「君って、そう言う所あるよね」
「………はい?」
「僕が言ってるのは君の男避けって事だよ。君の方こそ、彼らの視線に気づいた方が良い」
「…………え?」
サーラは言われている意味が分からず眉間に皺を寄せた。
サーラは貴族ではない。魔女ではあるが、ごく普通の一般人だ。こう言った場所に来るのも初めてだし、そうじゃなくても普段から注目を浴びるような存在では無い。
もしもジュリオが言うように、今の自分が誰かに注目される存在になっているのだとしたら、誰のせいかは明確だ。
「ジュリオさんが隣にいるからじゃないですか。私は邪魔者扱いされているんです」
自ら望んでそうしている訳では無いのだが、ジュリオに近づきたい相手にとってサーラの存在は邪魔だろう。だがジュリオはそれを認めない。
「どうかな。今日の君は一段と綺麗だから」
「……………顔が隠れているのに綺麗も何もありませんよ」
こうやって相手をいい気分にさせるのはジュリオの上等手段なのだからいちいち照れてはいけないと分かっているのだが、どうしたって心が反応してしまう。
いじけたような言い方になってしまったが、ジュリオはクスッと笑う。
「僕から離れないで。いい?」
「それじゃあ運命の乙女を探せないじゃないですか」
「構わないよ。正直なところ、今日の目的は運命の乙女探しじゃないから」
「……………?」
なら一体何だというのか。まさか本当に女避けの為に都合の良いサーラを連れてきたと言うのか。
いつからサーラは便利屋に成り下がったのだろうかと項垂れたい気分だったが、キツく巻かれたコルセットが背筋を曲げることを許してはくれなかった。
仮面のせいで視界が悪いのに薄暗く保たれたホールでは、思うように身動きを取る事もサーラには難しい事だった。
今のところ、会場の隅の方でザワザワとそれぞれに談笑する大人達をただ眺めているだけになっている。一応人の縁の繋がりを見てはいるが、これでは人が多すぎて誰の縁がどこに繋がっているのか、糸が絡み合っているように見えて仕事にならない。
「どう?仮面だけでも分からないものでしょ?」
「これの何が楽しいのかが分からないのですが」
「はははっ、確かに」
「同意するくらいなら来なければ良いのでは?」
「僕もそうしたいんだけどね。ほら、僕はダンテと違ってまだ伴侶がいないから」
「……………」
だから何だと言うのか。サーラは眉間に皺を寄せた。
全く、お貴族様も生きにくそうだとため息を吐く。魔女としての務めはあるが、それ以外は比較的自由気ままに生きてきたサーラと、ここにいる人達では住む世界が違うのだろう。
「面倒ですね」
ぽつりと漏らした言葉に返事は無かったが、特に気にする事もなく、サーラは再び人間観察に勤しむ。
見ていると分かって来たことがある。時折こちらに向けられる好意と疑念の視線。広い会場で目立つ場所にいるわけでも無いのに男女問わず多々見受けられるその視線の意味は簡単だ。
「………バレてますよね?ジュリオさん」
「さあね。誰も声をかけてこないから分からないな」
「この視線に気付いていないとは言わせませんよ。こんな所にいないで、交流して来たらどうです?」
近い距離に居た方が人の縁は見やすい。ジュリオ側から運命の乙女との繋がりが見えないなら、相手側から辿れば良いかもしれないと踏んでいたが、いかんせんジュリオが動こうとしないので困っていた所ではある。
サーラと違ってこういう場所には慣れているようだし、促せば多少挨拶程度でも動くかと思えば、何を思ったかジュリオはサーラの腰に手を回し、自分の方に引き寄せる。
「っ!?!?」
何が起こったか分からないままよろけた身体はジュリオに受け止められた。転ばずに済んだのはありがたいが、あまりにも距離が近すぎる。そうじゃなくても近いと感じていたのに。
「なん、です…?」
動揺を隠そうとしたて失敗したサーラだったが、ジュリオがそれを気にする素振りはなく、いつもより低い声色で答える。
「視線には気づいているよ。だからこそ、ここを離れるつもりは無いけど」
「……私を女性避けに使わないでくれます?」
「どちらかと言うと男避けだよ」
「はぁ。そんなに誰とも会いたく無いなら、本当に何をしに来たんですか」
今日何度目かのため息を吐いたサーラは視線を感じてジュリオを見上げた。仮面のせいで分かりづらいが、苦笑いを浮かべているように見える。
「君って、そう言う所あるよね」
「………はい?」
「僕が言ってるのは君の男避けって事だよ。君の方こそ、彼らの視線に気づいた方が良い」
「…………え?」
サーラは言われている意味が分からず眉間に皺を寄せた。
サーラは貴族ではない。魔女ではあるが、ごく普通の一般人だ。こう言った場所に来るのも初めてだし、そうじゃなくても普段から注目を浴びるような存在では無い。
もしもジュリオが言うように、今の自分が誰かに注目される存在になっているのだとしたら、誰のせいかは明確だ。
「ジュリオさんが隣にいるからじゃないですか。私は邪魔者扱いされているんです」
自ら望んでそうしている訳では無いのだが、ジュリオに近づきたい相手にとってサーラの存在は邪魔だろう。だがジュリオはそれを認めない。
「どうかな。今日の君は一段と綺麗だから」
「……………顔が隠れているのに綺麗も何もありませんよ」
こうやって相手をいい気分にさせるのはジュリオの上等手段なのだからいちいち照れてはいけないと分かっているのだが、どうしたって心が反応してしまう。
いじけたような言い方になってしまったが、ジュリオはクスッと笑う。
「僕から離れないで。いい?」
「それじゃあ運命の乙女を探せないじゃないですか」
「構わないよ。正直なところ、今日の目的は運命の乙女探しじゃないから」
「……………?」
なら一体何だというのか。まさか本当に女避けの為に都合の良いサーラを連れてきたと言うのか。
いつからサーラは便利屋に成り下がったのだろうかと項垂れたい気分だったが、キツく巻かれたコルセットが背筋を曲げることを許してはくれなかった。
6
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
えっ私人間だったんです?
ハートリオ
恋愛
生まれた時から王女アルデアの【魔力】として生き、16年。
魔力持ちとして帝国から呼ばれたアルデアと共に帝国を訪れ、気が進まないまま歓迎パーティーへ付いて行く【魔力】。
頭からスッポリと灰色ベールを被っている【魔力】は皇太子ファルコに疑惑の目を向けられて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる