12 / 15
episode.11
しおりを挟む
ガタゴトと馬車に揺られている。小窓からは陽は沈みかけているがまだ森を抜けていないのが見える。フランカル家に到着する頃には完全に陽は沈んでいるだろう。
時折、ゴトンと大きな揺れが伝わる馬車の中で、サーラは自分の太ももに頭を預けて眠るジュリオがなるべく穏やかにあれるよう気をつけていた。
大きな馬車だと言うのに、乗っているのは2人だけ。あの後、気を失ったジュリオはフランカル家の従者によってこの馬車に運び込まれ、白髪白髭のロベルトに「では魔女殿も」と、行きと同様に押し込まれた。
サーラの膝枕ごときで安寧が得られるとは到底思えないのだが、無いよりはマシだろうと頭を預かり今に至る。
サーラは縁結びの魔女としての務めを軽んじていた事は無いつもりだったが、考えの甘さを痛感していた。ジュリオと運命の乙女を結ぶ縁の糸が見えない事を、心のどこかで、自分の片想いを終わらせずに済む口実にしていたかもしれない。
なんと恐ろしく、浅ましい女なのだろう。
もう先延ばしになどしてはいられない。サーラは縁結び魔女として、この恋心を終わらせて、運命の乙女をどんな手を使ってでも早急に探し出さなければならない。
自分では力不足だと分かったなら、この地を去り、別の縁結びの魔女に協力を仰ごう。それまであと少しだけ、頑張らせて貰えるだけの猶予は残されているだろうか。
馬車を降りたら、本当におしまいにしよう。胸の苦しさも切なさも、特別な想いは全てこの馬車に置いて降りてしまえばいい。
だから最後に、この馬鹿げた行為を許してほしい。
サーラは、暫く意識は戻らないだろうジュリオに短い口づけを落とす。
馬車の揺れが少なくなった事が森を抜けた事を知らせていた。
◯●◯●◯●◯●
「いやいや、ご無理を言ってご同行頂いて、ありがとうございました魔女殿」
フランカル伯爵の屋敷に到着した時、空にはポツポツと星が出ていた。ジュリオは従者によって自室に運び込まれ、残されたサーラは帰ろうとしていた所に白髪白髭のロベルトに声をかけられた。
「いえ、何も出来ず…」
「何をおっしゃいますか。魔女殿にはいつも坊ちゃんを支えて頂いて、感謝するばかりです」
「……私は何も」
「私は生い先短いですから、これからも魔女殿には坊ちゃんの事を支えて頂きたいのです。坊ちゃんも魔女殿には心を許しておられる事ですし」
「……………」
サーラは明かりの灯るジュリオの部屋の窓を見上げ、小さくため息を吐く。
「そう言って頂けるのはありがたいですが、彼を支えられるのは私では無いので…。今まで力になれず、申し訳ありませんでした」
「ご謙遜を」
「いえ、本当に。私ではだめなんです。ジュリオさんのお相手は必ず探し出すと約束します」
「………ですが、魔女殿には坊ちゃんの運命の繋がりが見えないとお聞きしていますが…」
ロベルトはサーラを気遣うように、恐る恐ると言った感じで話すが紛う事なき事実だ。サーラは再びため息を吐くと、なぜかロベルトが慌てだす。
「い、いえ!魔女殿を責めるつもりは無いのです!ただ私は、坊ちゃんには幸せになって頂きたいだけでして……」
「はい、分かっています。私も同じ気持ちです。運命の乙女と正しく結ばれれば彼は幸せになれます」
「し、しかし、坊ちゃんは………」
「心配しないでください。縁結びの魔女は私だけでは無いんです。他に頼れるアテがあるので、その人に協力してもらうつもりです」
「では魔女殿は…?」
ロベルトの眉尻が下がる。こんな役立たずの魔女を案じてくれるなんて、良い人だ。サーラはあまり心配をかけまいと、表情を殺し淡々と答える。
「務めは必ず果たします」
サーラは深く頭を下げ、誓いを新たに顔を上げた。
去り際に明かりの漏れるジュリオの部屋を見上げてこれまでの恋心と本当に決別すべく「さよなら」と独り言のつもりで漏らした言葉がロベルトに届いていた事にサーラは気づかなかった。
時折、ゴトンと大きな揺れが伝わる馬車の中で、サーラは自分の太ももに頭を預けて眠るジュリオがなるべく穏やかにあれるよう気をつけていた。
大きな馬車だと言うのに、乗っているのは2人だけ。あの後、気を失ったジュリオはフランカル家の従者によってこの馬車に運び込まれ、白髪白髭のロベルトに「では魔女殿も」と、行きと同様に押し込まれた。
サーラの膝枕ごときで安寧が得られるとは到底思えないのだが、無いよりはマシだろうと頭を預かり今に至る。
サーラは縁結びの魔女としての務めを軽んじていた事は無いつもりだったが、考えの甘さを痛感していた。ジュリオと運命の乙女を結ぶ縁の糸が見えない事を、心のどこかで、自分の片想いを終わらせずに済む口実にしていたかもしれない。
なんと恐ろしく、浅ましい女なのだろう。
もう先延ばしになどしてはいられない。サーラは縁結び魔女として、この恋心を終わらせて、運命の乙女をどんな手を使ってでも早急に探し出さなければならない。
自分では力不足だと分かったなら、この地を去り、別の縁結びの魔女に協力を仰ごう。それまであと少しだけ、頑張らせて貰えるだけの猶予は残されているだろうか。
馬車を降りたら、本当におしまいにしよう。胸の苦しさも切なさも、特別な想いは全てこの馬車に置いて降りてしまえばいい。
だから最後に、この馬鹿げた行為を許してほしい。
サーラは、暫く意識は戻らないだろうジュリオに短い口づけを落とす。
馬車の揺れが少なくなった事が森を抜けた事を知らせていた。
◯●◯●◯●◯●
「いやいや、ご無理を言ってご同行頂いて、ありがとうございました魔女殿」
フランカル伯爵の屋敷に到着した時、空にはポツポツと星が出ていた。ジュリオは従者によって自室に運び込まれ、残されたサーラは帰ろうとしていた所に白髪白髭のロベルトに声をかけられた。
「いえ、何も出来ず…」
「何をおっしゃいますか。魔女殿にはいつも坊ちゃんを支えて頂いて、感謝するばかりです」
「……私は何も」
「私は生い先短いですから、これからも魔女殿には坊ちゃんの事を支えて頂きたいのです。坊ちゃんも魔女殿には心を許しておられる事ですし」
「……………」
サーラは明かりの灯るジュリオの部屋の窓を見上げ、小さくため息を吐く。
「そう言って頂けるのはありがたいですが、彼を支えられるのは私では無いので…。今まで力になれず、申し訳ありませんでした」
「ご謙遜を」
「いえ、本当に。私ではだめなんです。ジュリオさんのお相手は必ず探し出すと約束します」
「………ですが、魔女殿には坊ちゃんの運命の繋がりが見えないとお聞きしていますが…」
ロベルトはサーラを気遣うように、恐る恐ると言った感じで話すが紛う事なき事実だ。サーラは再びため息を吐くと、なぜかロベルトが慌てだす。
「い、いえ!魔女殿を責めるつもりは無いのです!ただ私は、坊ちゃんには幸せになって頂きたいだけでして……」
「はい、分かっています。私も同じ気持ちです。運命の乙女と正しく結ばれれば彼は幸せになれます」
「し、しかし、坊ちゃんは………」
「心配しないでください。縁結びの魔女は私だけでは無いんです。他に頼れるアテがあるので、その人に協力してもらうつもりです」
「では魔女殿は…?」
ロベルトの眉尻が下がる。こんな役立たずの魔女を案じてくれるなんて、良い人だ。サーラはあまり心配をかけまいと、表情を殺し淡々と答える。
「務めは必ず果たします」
サーラは深く頭を下げ、誓いを新たに顔を上げた。
去り際に明かりの漏れるジュリオの部屋を見上げてこれまでの恋心と本当に決別すべく「さよなら」と独り言のつもりで漏らした言葉がロベルトに届いていた事にサーラは気づかなかった。
7
あなたにおすすめの小説
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
聖銀竜に喰われる夜――冷酷な宰相閣下は、禁書庫の司書を執愛の檻に囚える
真守 輪
恋愛
「逃がさない。その賢しい口も、奥の震えも――すべて、私のものだ」
王宮で「禁書庫の未亡人」と揶揄される地味な司書・ルネ。
その正体は、好奇心旺盛でちょっぴり無作法な、本を愛する伯爵令嬢。
彼女には、誰にも言えない秘密があった。
それは、冷酷非道と恐れられる王弟・ゼファール宰相に、夜の禁書庫で秘密に抱かれていること。
聖銀竜の血を引き、興奮すると強靭な鱗と尾が顕れる彼。
人外の剛腕に抱き潰され、甘美な絶望に呑み込まれる夜。
「ただの愛人」と割り切っていたはずなのに、彼の孤独な熱に触れるたび、ルネの心は無防備に暴かれていく。
しかし、ルネは知らなかった。
彼が近づいた真の目的は、彼女が守る「禁書」――王国を揺るがす禁断の真実にあったことを。
「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」
嘘から始まった関係が、執着に変わる。
竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
世界観制約で罵倒しかできない悪役令嬢なのに、なぜか婚約者が溺愛してくる
杓子ねこ
恋愛
前世の記憶を取り戻した悪役令嬢ヴェスカは、王太子との婚約を回避し、学園でもおとなしくすごすつもりだった。
なのに聖女セノリィの入学とともに口からは罵倒の言葉しか出なくなり、周囲からは冷たい目で見られる――ただ一人を除いては。
なぜか婚約者に収まっている侯爵令息ロアン。
彼だけはヴェスカの言動にひるまない。むしろ溺愛してくる。本当になんで?
「ヴェスカ嬢、君は美しいな」
「ロアン様はお可哀想に。今さら気づくなんて、目がお悪いのね」
「そうかもしれない、本当の君はもっと輝いているのかも」
これは侯爵令息が一途に悪役令嬢を思い、ついでにざまあするお話。
悪役令嬢が意外と無自覚にシナリオ改変を起こしまくっていた話でもある。
※小説家になろうで先行掲載中
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる