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1.捨てられた子供

0.死にたいと願った人生

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「ふざけないでちょうだい!」

俺の目の前で女性が叫ぶ。
いやいや掻き上げた髪、嫌でも着慣れたスーツ、無駄に媚びを売る口調、無理矢理の笑顔。他人に映るのは、偽りの俺。だが、中身はいつもの俺。

「私は、本気です」

普段なら絶対にしない口調で俺は笑う

「正気なの!?わたくしは、名誉ある一族の娘ですわ!私を選ばないメリットがどこに…」

「逆に私を選ぶメリットは何でしょうか?私は…が?」

「そ…それは…確かにそうかもしれませんが、あなたはあの一族の方で…!」

女性は戸惑う。俺は、それを見て確信する。この女性も、にしか過ぎないんだと

「…くだらない」

俺は、そう言って女性を嘲笑い、その場を去った。

「なっ…なんて無礼な態度!権力者の血筋だからって調子に乗ってるんじゃないわよ!!アンタなんて、ただのなんだから!ちょっと!無視するんじゃないわよ!」

女性が何かを喚いていたが全て無視をした。

真っ先に家に帰り、この化けの皮を剥がす。

「あいっかわらず、きっもちわりぃなぁ…なぁーにが、メリットだよ。俺は、貴族様々の関係性が大っ嫌い何だよっての…ウェッ、キモチワル」

俺は、手洗い場に向かい必死に吐き出す。歳をとるたびに知らない女性を見るとひどく吐き気がすることが多くなってきた。それもこれも全部、自分の血縁のせいだと俺は勝手に思いこむようになった。

「たく…未来にこんな姿は、見せられないな。あぁ…あのゴミ野郎にも」

俺は、春夏秋冬虚ひととせそら
この、異世界と呼ばれる世界にある、死の都市に生まれた死神。
の血筋を引く…死神…

俺は、色々分け合って、人間と暮らしている。
人間の名前は、双葉未来ふたばみく。彼女は、父親の浮気相手に殺害され、この世界に迷い込んだ。

死神には、絶対的なルールがある。
死んだ魂を生き返らせることを禁止とするルールだ。これを破ったものなら、処刑される。
だが、俺は、平気で破り、彼女を生き返らせた

それほど、俺にとって彼女は、重要な存在だった。

未来の母親は、未来が幼い頃に病死。父親は、家族を残して浮気。そして、気がついた頃には大切なものを失っていた。

俺は、浮気相手に殺害された未来を生き返らせ、一緒に暮らしている。未来は、今日、異世界でできた仲間と女子会に行っている。
大分、こっちの生活も慣れたのだろう。その点は、安心した。

「ん?」

部屋に戻ると、見慣れない冊子を見つけた。棚の隙間に入り込み、埃かぶっていた。それを取り出し、埃をはらい、その冊子をめくる

「…あ、懐かしい。昔の俺だ」

その冊子は、アルバムだった。

「あー…そういや、未来に見つかるとややこしくなるから、隠してたんだった…。すっかり忘れてた」

一つ、一つ写真をめくる。

「写真があるってことは…俺が、未来の世界に出たあたりか?いや、兄貴との写真もあるな…」

懐かしき昔の思い出に浸る。
俺の人生は散々だった。親に捨てられ、周りに嫌われ、居場所がなかった。常に、親が俺を殺すことを考え、周りは俺を痛めつけることを考えていた。
『死にたい』とさえ、考えたが、それは叶わなかった。

『未来のことをお願い』

かつて、未来の母親と約束した最後の会話を思い出す。

「…懐かしいな」

俺には秘密がある。
未来を生き返らせた時、俺は【そこに偶然いた男】のフリをして今の生活を手に入れた。
でも、本当は違う。ただ、未来が俺の存在を忘れているだけ

「…めんどくさ」

俺は、床に寝転がり目を閉じた。


俺のクソみたいな人生の話




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