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6 地下からの招待
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しおりを挟む「混沌の闇よっ! このうるさい人間どもを飲み込んでしまえっ!! 」
「させるかっ!」
ヨウちゃんが、左腕であたしを胸に抱き寄せる。
右手にリンゴの杖をにぎりしめ、頭上の闇を、ズンとつく。
闇の天井に白い亀裂が入る。
現世へとつながる穴。
闇がもりあがった。
大海原のようだった闇が現世の日に照らされ、個々の姿に形をかえていく。
ゾンビのような姿をしたもの。甲虫のような姿をしたもの。角があり牙がはえ二本足で立ったもの。
もともとは人間だったのかもしれない。犬や猫や鳥や虫たちだったかもしれない。
だが今は、混沌の闇につかり、お互いの体が溶けあい、自分も他者もわからなくなるほどに組み合わされ、モンスターに形をかえてしまっている。
「穴が開いた……」
耳ざわりな甲高い声がわめいた。
「穴が開いた……」
地を這うムカデのような声がざわめいた。
「きさまら、待て! 地上に出るのはこのわたしだっ!」
ハグの声を無視して、モンスターたちが、いっせいに亀裂に押し寄せる。
「怖い……」
「無にもどるのは怖い……」
「外へ……」
「秩序の光へ……」
「綾、早くっ!」
ヨウちゃんがあたしの手を引いた。
光の穴に。
すべてのものが個を持ち、自分として存在する、明るい世界へ。
ヨウちゃんの手に引きあげられ、あたしは地面に手をついた。
すでに地面にあがっているヨウちゃんに腰を支えられて、穴から両足を抜き出す。
腹ばいになって地上によじのぼると、オークの巨木の根元だった。
地面に蜘蛛の巣のような亀裂が走っていて、その亀裂が深いティル・ナ・ノーグに通じている。
亀裂の下から、五本の指がつきだしてきた。
人間の指のようだけど、緑色をしている。指と指の間には、透明な水かきが張られている。
別の手もつきだしてきた。
三本指の手の甲が、光る銀色のうろこでおおわれている。
手、手、手。
異形な者たちの手たちが、次から次へと出てくる。
「この森をつかさどりし、ネミの王よ。ドンヌの家のとびらを閉じたまえっ!」
ヨウちゃんが、穴にリンゴの杖をつきさした。
カッ!
虹色の杖の先から、閃光がはなたれる。
ゴゴゴゴゴゴ……。
強烈な虹色の光の中で、穴の亀裂が動き出す。
巨大生物のように、重たくゆっくりと、杖先を中心にして縮まりはじめる。
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