魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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16 新婚旅行の始まり

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「・・・ル・・・マール起きて」

ぼんやりと目を開けると綺麗な顔が目の前にある。


「わっ!!?」
その美しさに思わず布団を被った。


(そうか、昨日彼は恋に落ちる魔法にかかって・・・一緒に隣で寝たんだっけ)


朝になりどんどんと恥ずかしくなってきた。バサりと布団を剥がされ、顔を両手で掴まれる。


「今日から新婚旅行だよ」

「・・・まだ結婚式してないよ」

「同じだよ。早くこの環境に慣れるためにも、今日からは僕は君の夫で、君は僕の妻として過ごそう」


よく分からないまま旅行の準備があるため、上機嫌なミハイルが私を部屋まで連れて行き身支度をするよう言われる。


「ゆっくりでいいからね、僕も準備してくるよ。ここよりも暖かい地方に行くから、着込まなくても大丈夫。足りないものは買い足せばいい」

そう言われると、彼に扉が閉められる。


前々から荷物はある程度準備していたが、着ていく服に困った。

(さすがに、ローブ着ていくわけに行かないしなあ・・・)

私はあまり着飾るタイプでは無いので、手持ちの服は少なく、オシャレな物は持っていない。待たせるのも悪いので、無難に地味な色合いでまとめた。



「あれ、早かったね」

1階で待っていた彼を見ると、グレーの長い薄手のコートに黒いシャツと黒いスラックスだ。すぐに高価な物だとわかるくらい身なりがいい。華のあるオーラを放つ彼は、いつもに増して美しさに磨きがかかっていた。

彼のオーラに圧倒され、思わず地味な格好の私は隣に並ぶのを遠慮したくなった。

「私、もう一度着替えて来ようかな・・・」

自分の身なりに自信が無くなったので引き返そうとする。

「大丈夫だよ、マールはとても可愛い。今回の馬車は特別だから外からは見えないように施されているし、気になるようだったら向こうで服を買おう。折角だし、僕に選ばせてくれない?」

(着替えたところで、彼に見合う服は持ってないし、そもそも私自身そんなだし・・・)

彼の優しさに、甘えることにした。

「ありがとう。じゃあ、お願いします・・・」

「こちらこそ、着飾った君を見るのが楽しみだよ。あ、丁度迎えが来たよ。荷物はそれだけ?」

「うん」

彼は私の荷物を持つと、馬車まで運んでくれる。


「じゃあ、行こうか」





見た目は馬車の作りになっているが、全て魔道具と魔石で出来ている特殊な馬車だった。従者もおらず、全て魔力で作動しているらしい。外装は普通の馬車なのに、内装はとても豪華だ。


「こんな特殊な馬車に乗れるなんて初めて!さすが国王陛下のプレゼントだね」

「ふふっ喜んでいるマールはとっても可愛いね」

喜ぶ私を見ている彼も嬉しそうに頬が緩んでいる。

「あまり驚いてないみたいだけど、あなたは乗ったことがあるの?」

「ああ、僕が考案したからね」

さすがエリートの魔法研究室所属だ。彼はこんな凄いものを作り出せてしまうのか・・・と感心してしまった。

「魔力でここまで出来るなんて、驚いたよ」

「別に作りたくて作った訳じゃないよ。王族のわがままで出来た代物さ」

彼は冷たく言い放つ。

「そ、そうなんだ。ところで、この馬車はどこに向かってるの?」

「ああ、国王陛下からの特別なプレゼントでの旅行だから内密に出発しないといけないらしい。王宮の裏口から入って、転移門を使って目的地の近くまでワープして、そこから浮遊魔法で空から一気に現地へ向かうよ」

「すごい・・・限られた人しか使えない行き方だね」

特別な移動方法にテンションが上がる。
そっと隣にいる彼に頭を撫でられた。

「そうだね、1時間くらいで着くと思うよ」


話している間に王宮に着き、裏口を通される。転移門の周りには王宮の家臣が数名準備に取りかかってた。転移門が開かれた先は魔力の巨大な渦になっている。

初めて見る転移門の魔力におぞましさを感じる。

(今からあの中に飛び込む・・・のね)

私の顔色が悪くなったことに気づいた彼は、優しい声で話しかけてくれた。

「少し揺れると思う。良かったら僕に掴まって」

「お、お願いします」

彼は密着するように座り直し、私の腰に手を回す。

転移門の準備が整った合図を確認すると、馬車は魔力の渦へ一気に駆け抜ける。


ガタガタガタガタガターーー


(こ、怖いかも・・・)


思わず顔を正面から背け、彼の胸にしがみついた。


ぎゅう
「・・・」


(揺れは、収まったみたい)


どれくらい、しがみついていたのだろうか・・・いつの間にか彼に抱きしめられていたみたいだ。

彼との距離にドキリとしながら、腕の中で話しかける。

「ありがとう。転移は上手くいった・・・?」

「ああ、外を見てごらん」

ミハイルから離れ窓の外に目を向けると、空中を走っている。地上にある街の建物の小ささに、相当の高さにいるのだと実感した。


(こ、怖い...)


魔力持ちは浮遊できるので耐性があると思っていたが、これほど高いと足が竦む。


「マール、こっちにおいで」


私は素直にさっきの距離に座るとまた抱きしめられ、彼の胸にしがみつく。家族以外に初めてこんなに抱きついているが、人肌の温もりに心地良さを感じる。


「最高の移動方法だね・・・」

私の頭をそっと撫でるミハイルは満足そうに呟いた。
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