魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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28 大切な後輩

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ミハイルが魔法にかかってから、よく女性に囲まれているみたいだ。無表情であしらっているが、それでもミハイルの人気は絶えない。

(髪を切ってから、より理想の王子様だもんね)

水晶に仕事が終わった合図を出すと、迎えに行くと光ったので、私はいつも通り魔法支援室を出た塔のベンチで待つ。

ぼんやりと景色を眺めていると塔から出てきたアルノーが私に気付き、こちらに向かって来る。

もう王宮にはミハイルが結婚したことを知らない人はおらず、あれからも私は注目の的になっている。

結婚の話が出回ってから、アルノーは魔法支援室にいる時は距離を感じるのに、部屋から出るといつの間にか隣にいて、人から囲われてもタイミング良く抜け出す手助けをしてくれていた。


「先輩、お迎え待ちですか?」

「そうだよ、アルノーにはずっと助けてもらってるね。毎日感謝してるよ。本当にありがとう」

「注目の的になるの嫌がってましたもんね」


アルノーは隣に座らず、少し離れた所から話しかけてくる。座るように手を招くが、アルノーは首を振った。


「結婚して、・・・もう奥さんなんですから、だめですよ」

「アルノーは大切な後輩だよ」

「はい・・・十分理解してますよ」

アルノーの顔は暗く、顔色が良くないように見えた。

私の顔色を伺う視線を感じたのか、パッと顔を上げていつものアルノーに戻る。

「それより、あの人また囲まれて足止めされてるから今待たされてますけど、先輩は嫉妬とかしないんすか?」


遠くからざわめいているので、ミハイルの場所を察する。


その方向を眺めていたら、遮るようにアルノーは目の前に立っていた。


見上げると苦しそうな青色の瞳と目が合う。

「あの人を見つめる先輩の瞳は、いつも悲しそうですね」

「そう、見える・・・?」

「その緑色の瞳には明るく輝いていて欲しいです」

「アルノー・・・どうしたの?」

ざわめきが近付いて来たのでミハイルがもうすぐ来ることがわかった。

「・・・そろそろ俺帰りますね」

「アルノーありがとう。また明日」

「はい、また明日」



アルノーと入れ替わるようにミハイルがこちらに歩いて来たが、小さくなって離れていくアルノーの後ろ姿を見つめる。


「ごめん、お待たせ。マール・・・?」

「ごめん、先に帰ってて」



私は迎えに来たミハイルの横を通り過ぎると、離れていくアルノーの背中を追いかける。


「アルノー!待って!」


アルノーのさっきの表情が気になり腕を掴んで引き止める。アルノーが驚いた顔をしているが、心配で顔色を覗き込んだ。


「やっぱり体調悪いんじゃ・・・」

「いや、大丈夫です。それよりも早く旦那さんの・・・」

「無理しないで、アルノー。医務室までついて行くから、一緒に行こう」

私はアルノーの背中をさすり、医務室に行こうとするがアルノーが足を止める。

「本当に、大丈夫。心配してくれる気持ちは嬉しいんすけど、後ろからものすごいオーラ出されてるで先輩、対応お願いします」

「ア、アルノー!まだ・・・」


早足にアルノーが去っていく姿を眺めると、冷たい声で呼ばれた。


「マール、帰ろう」


優しい、けど解けない鎖に手を掴まれ家までの道のりを無言で帰る。





手を繋いだまま家の中に入ると、壁に囲われた。

怒りに満ちた暗い視線に捉えられる。

「マールはずっと黒髪の男といるよね」

「アルノーだよ。大切な後輩なの」

「そう?僕にはそんな風に見えなかったけど」

「アルノーが入職してからずっと一緒にいたから、特別な後輩なだけ。今日だって顔色がーーんっ!!」

首を掴むように顔を上に向けられると、噛み付くような口付けをされる。

「それ以上は聞きたくない」

「怒ってるの・・・?」

「マールは僕に対して、こんな気持ちにならない?嫉妬・・・したり」


(まるで私の気持ちを知りたいみたい)


女性に囲まれているミハイルを思い出し胸がざわめくが、どう答えていいのか分からない。


「まあ、いいや。僕以外と結婚することは絶対に許さないからね」


私の左手の薬指が強く握られる。


(結婚式をする時には、貴方は消えてるじゃない・・・)


切ない気持ちを隠すために、指を握られている手を引き寄せて、あたたかい胸に寄りかかる。


「マ、マール」


「ふふっ、私が嫉妬したって言えばミハイルは嬉しいの?」


「はあ・・・君には勝てないよ・・・」


背中に腕がまわされない寂しさを感じつつ、ミハイルの心臓の音を確かめる。

ミハイルは怒っているみたいだが、久々に彼と触れ合えて私の気持ちは満たされた。


(もう少し、ここままでいたい)
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