28 / 83
28 大切な後輩
しおりを挟む
ミハイルが魔法にかかってから、よく女性に囲まれているみたいだ。無表情であしらっているが、それでもミハイルの人気は絶えない。
(髪を切ってから、より理想の王子様だもんね)
水晶に仕事が終わった合図を出すと、迎えに行くと光ったので、私はいつも通り魔法支援室を出た塔のベンチで待つ。
ぼんやりと景色を眺めていると塔から出てきたアルノーが私に気付き、こちらに向かって来る。
もう王宮にはミハイルが結婚したことを知らない人はおらず、あれからも私は注目の的になっている。
結婚の話が出回ってから、アルノーは魔法支援室にいる時は距離を感じるのに、部屋から出るといつの間にか隣にいて、人から囲われてもタイミング良く抜け出す手助けをしてくれていた。
「先輩、お迎え待ちですか?」
「そうだよ、アルノーにはずっと助けてもらってるね。毎日感謝してるよ。本当にありがとう」
「注目の的になるの嫌がってましたもんね」
アルノーは隣に座らず、少し離れた所から話しかけてくる。座るように手を招くが、アルノーは首を振った。
「結婚して、・・・もう奥さんなんですから、だめですよ」
「アルノーは大切な後輩だよ」
「はい・・・十分理解してますよ」
アルノーの顔は暗く、顔色が良くないように見えた。
私の顔色を伺う視線を感じたのか、パッと顔を上げていつものアルノーに戻る。
「それより、あの人また囲まれて足止めされてるから今待たされてますけど、先輩は嫉妬とかしないんすか?」
遠くからざわめいているので、ミハイルの場所を察する。
その方向を眺めていたら、遮るようにアルノーは目の前に立っていた。
見上げると苦しそうな青色の瞳と目が合う。
「あの人を見つめる先輩の瞳は、いつも悲しそうですね」
「そう、見える・・・?」
「その緑色の瞳には明るく輝いていて欲しいです」
「アルノー・・・どうしたの?」
ざわめきが近付いて来たのでミハイルがもうすぐ来ることがわかった。
「・・・そろそろ俺帰りますね」
「アルノーありがとう。また明日」
「はい、また明日」
アルノーと入れ替わるようにミハイルがこちらに歩いて来たが、小さくなって離れていくアルノーの後ろ姿を見つめる。
「ごめん、お待たせ。マール・・・?」
「ごめん、先に帰ってて」
私は迎えに来たミハイルの横を通り過ぎると、離れていくアルノーの背中を追いかける。
「アルノー!待って!」
アルノーのさっきの表情が気になり腕を掴んで引き止める。アルノーが驚いた顔をしているが、心配で顔色を覗き込んだ。
「やっぱり体調悪いんじゃ・・・」
「いや、大丈夫です。それよりも早く旦那さんの・・・」
「無理しないで、アルノー。医務室までついて行くから、一緒に行こう」
私はアルノーの背中をさすり、医務室に行こうとするがアルノーが足を止める。
「本当に、大丈夫。心配してくれる気持ちは嬉しいんすけど、後ろからものすごいオーラ出されてるで先輩、対応お願いします」
「ア、アルノー!まだ・・・」
早足にアルノーが去っていく姿を眺めると、冷たい声で呼ばれた。
「マール、帰ろう」
優しい、けど解けない鎖に手を掴まれ家までの道のりを無言で帰る。
手を繋いだまま家の中に入ると、壁に囲われた。
怒りに満ちた暗い視線に捉えられる。
「マールはずっと黒髪の男といるよね」
「アルノーだよ。大切な後輩なの」
「そう?僕にはそんな風に見えなかったけど」
「アルノーが入職してからずっと一緒にいたから、特別な後輩なだけ。今日だって顔色がーーんっ!!」
首を掴むように顔を上に向けられると、噛み付くような口付けをされる。
「それ以上は聞きたくない」
「怒ってるの・・・?」
「マールは僕に対して、こんな気持ちにならない?嫉妬・・・したり」
(まるで私の気持ちを知りたいみたい)
女性に囲まれているミハイルを思い出し胸がざわめくが、どう答えていいのか分からない。
「まあ、いいや。僕以外と結婚することは絶対に許さないからね」
私の左手の薬指が強く握られる。
(結婚式をする時には、貴方は消えてるじゃない・・・)
切ない気持ちを隠すために、指を握られている手を引き寄せて、あたたかい胸に寄りかかる。
「マ、マール」
「ふふっ、私が嫉妬したって言えばミハイルは嬉しいの?」
「はあ・・・君には勝てないよ・・・」
背中に腕がまわされない寂しさを感じつつ、ミハイルの心臓の音を確かめる。
ミハイルは怒っているみたいだが、久々に彼と触れ合えて私の気持ちは満たされた。
(もう少し、ここままでいたい)
(髪を切ってから、より理想の王子様だもんね)
水晶に仕事が終わった合図を出すと、迎えに行くと光ったので、私はいつも通り魔法支援室を出た塔のベンチで待つ。
ぼんやりと景色を眺めていると塔から出てきたアルノーが私に気付き、こちらに向かって来る。
もう王宮にはミハイルが結婚したことを知らない人はおらず、あれからも私は注目の的になっている。
結婚の話が出回ってから、アルノーは魔法支援室にいる時は距離を感じるのに、部屋から出るといつの間にか隣にいて、人から囲われてもタイミング良く抜け出す手助けをしてくれていた。
「先輩、お迎え待ちですか?」
「そうだよ、アルノーにはずっと助けてもらってるね。毎日感謝してるよ。本当にありがとう」
「注目の的になるの嫌がってましたもんね」
アルノーは隣に座らず、少し離れた所から話しかけてくる。座るように手を招くが、アルノーは首を振った。
「結婚して、・・・もう奥さんなんですから、だめですよ」
「アルノーは大切な後輩だよ」
「はい・・・十分理解してますよ」
アルノーの顔は暗く、顔色が良くないように見えた。
私の顔色を伺う視線を感じたのか、パッと顔を上げていつものアルノーに戻る。
「それより、あの人また囲まれて足止めされてるから今待たされてますけど、先輩は嫉妬とかしないんすか?」
遠くからざわめいているので、ミハイルの場所を察する。
その方向を眺めていたら、遮るようにアルノーは目の前に立っていた。
見上げると苦しそうな青色の瞳と目が合う。
「あの人を見つめる先輩の瞳は、いつも悲しそうですね」
「そう、見える・・・?」
「その緑色の瞳には明るく輝いていて欲しいです」
「アルノー・・・どうしたの?」
ざわめきが近付いて来たのでミハイルがもうすぐ来ることがわかった。
「・・・そろそろ俺帰りますね」
「アルノーありがとう。また明日」
「はい、また明日」
アルノーと入れ替わるようにミハイルがこちらに歩いて来たが、小さくなって離れていくアルノーの後ろ姿を見つめる。
「ごめん、お待たせ。マール・・・?」
「ごめん、先に帰ってて」
私は迎えに来たミハイルの横を通り過ぎると、離れていくアルノーの背中を追いかける。
「アルノー!待って!」
アルノーのさっきの表情が気になり腕を掴んで引き止める。アルノーが驚いた顔をしているが、心配で顔色を覗き込んだ。
「やっぱり体調悪いんじゃ・・・」
「いや、大丈夫です。それよりも早く旦那さんの・・・」
「無理しないで、アルノー。医務室までついて行くから、一緒に行こう」
私はアルノーの背中をさすり、医務室に行こうとするがアルノーが足を止める。
「本当に、大丈夫。心配してくれる気持ちは嬉しいんすけど、後ろからものすごいオーラ出されてるで先輩、対応お願いします」
「ア、アルノー!まだ・・・」
早足にアルノーが去っていく姿を眺めると、冷たい声で呼ばれた。
「マール、帰ろう」
優しい、けど解けない鎖に手を掴まれ家までの道のりを無言で帰る。
手を繋いだまま家の中に入ると、壁に囲われた。
怒りに満ちた暗い視線に捉えられる。
「マールはずっと黒髪の男といるよね」
「アルノーだよ。大切な後輩なの」
「そう?僕にはそんな風に見えなかったけど」
「アルノーが入職してからずっと一緒にいたから、特別な後輩なだけ。今日だって顔色がーーんっ!!」
首を掴むように顔を上に向けられると、噛み付くような口付けをされる。
「それ以上は聞きたくない」
「怒ってるの・・・?」
「マールは僕に対して、こんな気持ちにならない?嫉妬・・・したり」
(まるで私の気持ちを知りたいみたい)
女性に囲まれているミハイルを思い出し胸がざわめくが、どう答えていいのか分からない。
「まあ、いいや。僕以外と結婚することは絶対に許さないからね」
私の左手の薬指が強く握られる。
(結婚式をする時には、貴方は消えてるじゃない・・・)
切ない気持ちを隠すために、指を握られている手を引き寄せて、あたたかい胸に寄りかかる。
「マ、マール」
「ふふっ、私が嫉妬したって言えばミハイルは嬉しいの?」
「はあ・・・君には勝てないよ・・・」
背中に腕がまわされない寂しさを感じつつ、ミハイルの心臓の音を確かめる。
ミハイルは怒っているみたいだが、久々に彼と触れ合えて私の気持ちは満たされた。
(もう少し、ここままでいたい)
1
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる