鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第三十五話 罪の意識

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 私の名前は塔怪瑠海。
 違う。
 オレの名前はタルト。
 それも違う。
 オレの名前はタルト・ドルマーレ。
 そう、それだ。
 仕事のために、任務のために与えられた名前。
 タルトはそのままに、ドルマーレという所属名を与えられた。
 血の繋がりを示す所属。家名。それがドルマーレ。
 タルトとしてではなく。
 タルト・ドルマーレとして生きて来た。
 たったの一カ月。私の知らない青春のような、心が温まるような、棘が丸くなっていくような平和な、日常だった。
 王女として生まれたのが私。
 両親と立場を失っても壊れないのも私。
 目的のために努力を続けたのがオレ。
 善悪を理解して目的を失ったのもオレ。
 二人の弟子と共に一年活動したのもオレ。
 二人と別れて新しい任務を始めたのもオレ。
 ……そう、オレは私を捨てた。
 過去を捨てて、今を生きる事にした。
 オレはもう塔怪瑠海じゃない。
 私はタルト・ドルマーレなんだ。
 だから、だからお願いだ。

「お願い……殺して」
「お断りします」

 朧気な意識の中、そんな言葉が帰って来た。
 ……あれ? ここってどこだ? それにお断り? 何が?
 落ち着け。こういう時は慌てずに落ち着くのが最優先だ。

「起きてくれて良かったです。丸々一日寝ているのは流石に心配しましたよ」
「……えっ、今なんて?」
「まずは落ち着いて下さい。私も詳しくは知りませんので」
「あ、ああ」

 なんだ、これ。
 何がどうなってる?
 ここは……自室、いや撫照の部屋だ。そもそも今話しているは撫照だった。
 ……あれ。そもそも私《・》はいつ帰って来たんだ?
 何より気にするべきは、撫照の発言じゃないか?

「なあ、オレって……」

 オレが眠っていたベットの隣に置かれた椅子に座ってい撫照に、上体を起こしながら問い掛けた。

「高根さんから気絶した貴方を受け取ったのが昨日の夜です。そして今は次の日の夜ですよ」

 話しながら窓を指差す撫照。
 高根……涼樹の事だな。

「昨晩に何があったのか聞くつもりはありません。ですが、高根さんからの伝言があります」
「伝言?」

 涼樹からの言葉。
 どうしてだろう。
 ……怖い。

「俺はお前に生きていて欲しい。殺したいとは思わない。以上です」
「……え?」

 今のが涼樹の伝言。
 意味がわからない。前半はわかるけど、後半はどういう意味だ?
 オレの事を殺したいとは思わ——がああああああ。

「ああああああっ!」
「タルト!?」

 思い出した。
 昨晩にあった事の全てを。
 思い出してしまった。
 その存在を今まで一切知らなかった姉の存在。
 そして……涼樹の復讐心。
 その対象がオレだという現実を。
 死にたい。
 今すぐにでも死にたい。
 そんな思考が頭の中を駆け巡る。
 だけど涼樹の伝言が再生される。
 だって、だってその言葉は……無理だよ。

「タルト。何があったのかは知りません。だからこそ、部外者だからこそ言います。貴方の望みは何ですか?」
「オレの……望み?」
「そうです。貴方はどうしたいですか?」
「オレは……死にたい」

 思い出した。
 オレと涼樹の本来あるべき関係。
 詳しい事はわからない。だけど、オレ達は二人ともセンズファストで生まれたんだ。
 涼樹はオレの両親を恨んでいる。そしてその娘であるオレの事も恨んでいる。あれほどまでに殺意を露わにするほどに。

 仕方がない事だ。
 オレの両親は悪だ。
 悪人なんだ。
 オレの両親によって酷い目にあった被害者。それが涼樹だ。

 それを知らずにオレたちは出会い。仲良くなって、オレにとってあいつは特別になった。
 そこに恋愛感情はない。そういう意味じゃない。友達として、いつの間にかオレにとってかけがえのない存在になっていた。

 そんな涼樹は、両親の被害者だった。
 その憤怒は娘であるオレまで向けられている。
 だけどすれ違った。
 互いに知らずに交流した。
 そして涼樹は絆されたんだ。
 オレがそうなら……許すって。そう言ってくれている。

 でも無理だよ。
 オレはあの場にいた。オマエの怒りを、その激情を見てしまった。
 あれほどまでの殺意を見て。これからも同じように?
 ——無理だ。

「殺してくれ。もう無理だ」
「お断りします」
「撫照、頼む」

 酷い事を言っている自覚はある。だけど、他人を気にする余裕なんてなかった。
 オレは契約で自殺する事が出来ない。
 だからどうか、お願いだ。

「どうしてタルトがそんな事を言うのか理解出来ません。ですがこれだけはわかります。本当は死にたくなんてないですよね?」
「……違う。オレはもう終わりにしたいんだ」
「それならどうして、どうして泣いているんですか?」
「……え?」
「無自覚ですか。これは重症ですね」

 ため息をこぼした後、撫照は何も言わずに立ち上がると、ベットへと上がった。

「な、撫照?」
「……」

 声を掛けても返事する事なく、無言のまま彼女は距離を詰めると、そのまま両腕を回した。

「へ?」
「泣いて良いですよ」
「……え?」

 突然正面から抱き締められて、突然の泣いても良い発言。
 なに、これ?

「貴方が何かを抱えて生きているのだろう事は最初から気が付いていました。ですが私は貴方の過去になんて興味はありません。冷たいように感じるかもしれませんが、私はこういう人間です。だから今は何も言わずに、ただ泣いて下さい。苦しいのなら泣いて良いんですよ。胸くらい貸してあげますから」
「な、で……」

 オレの背中へと回していた腕を上げ、頭を包み込むように抱き締められた。顔面に柔らかいものを押し付けられて……なんだが、気が楽になった。

「……ありがとう」
「良いですから。大人しくして下さい」
「……うん」
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