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どんぶらこ、どんぶらこ。

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父は鍛冶場で鉄を打ち、娘は川に洗濯に。
それはいつもの日常、のはずだった。

「あれ、なんだろう」
川の傍らに桶を置き、いつもの川を見渡した視線の先に何かがプカプカ浮かんでいる。
朝の光に水面がひかり、目を眇て見定める。
それが何か理解し、リズは思わず息を飲んだ。

「ーーあれ、人!?」

木の枝としがみつくような人の影だ。
認識してから数秒、上着を脱いでシミーズだけとなり、意を決して飛び込んだ。

春の川はまだ冷たい。
薄い布でも水を吸って体にまとわりつく。
リズは懸命に水を蹴り、流されている人の所までたどり着いた。
生きているか死んでるか確認する余裕はない。
服を掴んで必死に引っ張る。
リズが自分の長所は体が丈夫な事と、普通の女の子より力が強い事と考えている。
今回、2つともとても役に立った。

何とか川縁までたどり着き、その誰かを草原に押し上げる。
そこでようやく助けた人物が男性であることに気づいた。

銀の髪と長い睫毛、すっと通った鼻筋の下にある唇が微かに動く。

「よかった。息してる」

一先ずほっとする。
少しでも体を暖めようと洗濯前のシーツを男に掛けようとして、男の着る白いシャツに赤いシミが出来てる事に気づいた。
赤いシミはゆっくりと広がっていく。
リズの血も一緒に流れたかのように血の気が引いた。

「どうしよう、早く手当てしないと!」

リズは男を抱えあげると、無我夢中で走り出した。
しかし、さすがのリズでも大の男を抱えてそう長くは走れない。
何とか道までたどり着いたが、よろけてもうダメだと思ったときに馬が通った。

「リズ姉ちゃんどうしたの?」

馬上にいたのは、近くの宿屋の娘のエリーだった。

「その子貸して!」

リズは馬を借りて町へと走った。
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