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黒い男の正体

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通された部屋はとても豪華で、何を触っても汚してしまいそうでリズは端の方に突っ立っていた。

「クリス!首尾はどうだい?」

二人が通された部屋には金髪で華やかな青年が入ってきた。

「アレクス、悪い。ちょっとドジった。けど、あいつは黒だよ」

その言葉にアレクスと呼ばれた青年は肩を竦めた。

「そこの彼女は君の恋人か何かか?」

アレクスは物珍しげにリズを見る。
リズは思わず萎縮した。

 「違うよ。彼女に失礼だよ。彼女は、多分ヤツの居場所をしってる。だから、聞いてもらおうと思ってね」

そう言う事ならと、アレクスは二人に椅子に腰かけるように勧めた。
豪奢な刺繍のクッションが汚れないように、なるべく浅くリズは腰かける。
召し使いがお茶とお菓子を運んで来る。

「クリスとは同じ学校で学んでる仲でね。休学して暇そうなので頼み事をしていたんだ」

召し使いが部屋を出るとアレクスが本題に入った。

「ヤツは何者なんだ?」

クリスは淡々とヤツ。つまり半年前にこの屋敷に現れた誰かについて話し始めた。

15年前、この屋敷から5歳の少年が消えた数ヶ月前、ある父子がこの街を去っていた。
父親は飲んだくれで乱暴者で有名だった。その妻が家計を支えるためにこの屋敷で働いていたが、無理が祟って亡くなってしまった。
父親は妻が亡くなったのは伯爵のせいだと因縁をつけ金を取ろうとしたが失敗し、結果父子は去ったのだ。

今から半年ほど前、ここから遠いある港町で一人の男が殺された。その男は正にその時の父親で、彼を殺した容疑者はその息子だった。
理由は、質屋に男が青いペンダントを入れようとし、それを阻止した息子がナイフで切り殺したのだという。
白昼堂々の犯行で、息子は店を飛び出して行方が分からなくなった。

「その質屋の亭主にこの家の家紋を見せたら、正にこれだと受けあってくれた。彼の容姿の特徴も一致してると言った」

クリスは懐から紙を出し、広げるそこにはナナシのペンダントに刻まれた家紋があった。

「やはり、偽物だったか。しかも凶悪な男だ。お前のその手の傷は功を焦った結果か?」

「川の橋でヤツを見つけて…。正直焦ってた。あの親子は他にも悪どい事をやっている様だからな。…お前の家に殺人犯がいるんだぞ。いつ何が起こるか…」

「ああ、叔父さんは本当に喜んでいたからな。2度息子を失わせるようで忍びないな…」

リズの頭は混乱していた。
しかし、家に殺人犯という言葉がリズの脳裏に強く焼き付いた。

「大丈夫か?君…」

アレクスの声が遠く聞こえる。

「…やはり、君が匿ってるんだな。僕は君の敵じゃない。ここから一時間。君の父親が帰る前にアイツを捕まえたい。協力して欲しい」

クリスの声も半分ほどしか意味が分からない。
リズは震える声で言った。

「早く帰らなきゃ。お父さん、今日早く仕事を上げてくれるって…。怪我人を一人にできないって…」
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