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恍惚とした表情で肉を貪る
しおりを挟む気がつけば私はどこか知らない屋敷に連れてこられていた。
精神的に追い込まれていた私は号泣した後気絶したらしい。
私の意識が戻った事に気がついた侍女がお医者様を呼んでくれ、なんだかよく分からないままに診察をしてもらった。
「お腹は空いていませんか?」
お医者様が帰った後、侍女にそう声をかけられた私は恐る恐る首を縦に振る。
なぜ返事をしないかって?何を隠そう私は人見知りなのである。
こんなよく分からない異世界で、よく分からないお屋敷?にいつの間にか連れてこられて、元気よく質問なんかできないのである。
一先ず様子を見るためにも、こちらの情報をあまり流さない様にするべきだと思うのだ。
何か話した瞬間に首スパーン!とか、牢屋にポイとか、拷問とか…。考えるだけで怖すぎる。あるかもしれないし無いかもしれない、用心するべしだ。
少しすると美味しそうな匂いを撒き散らしながら、カートを押したメイドが続々と部屋に入ってきた。
食事のセッティングが終わり、私はしばし呆然とした。
目の前に用意された食事はどう見ても私が一人で食べ切れる量ではない、サラダだけでも何種類もある。
パンもあればお米もある。あ、お米あるんだよかった。
飲み物も果実ジュースに野菜ジュースにコーヒー紅茶になんか良くわからない物、スープもたくさんある。
主食もお肉料理がずらりと並び、魚料理や、なんかよく分からない料理など…目がチカチカする。
まるで高級レストランの食べ放題の様だ。いや、高級レストランで食べ放題とかやってるか知らないけど…。
私が唖然としている姿を見て侍女が気に入る料理がなかったのかと心配していたので首を横に振った。
これはどうすればいいのかと悩む私を見て何かを察してくれた侍女が『少しずつ食べられますか?苦手なものはありますか?』と聞いてくれたので、小さな声で「お任せします」とだけ言っておいた。
お任せしますってなんなんだ、返事としてどうなんだ、なんて考えながら一人俯いていると、綺麗に盛り付けされたお皿が目の前に置かれた。
よくわからない現状、この食事を食べていいのだろうか?いや、良いんだろうけども。
目の前に置かれたお皿をみつめる。久しぶりのまともな食事に喉が小さくゴクリと鳴った。
後で何かしら対価を求められるかもしれないが、この食欲には抗えない…!私は決心した。
私は小さな声でお礼を言い、目の前に差し出された料理をちまちまちまちま食べてゆく。
なぜちまちまかって?なんか周りから見られてるからだよ。なんか人から見られてると食べにくくない?口開けてるとことか見られたくないし…なんかすごく恥ずかしい。
「あ、おいひぃ…」
主食のお肉を口に入れた瞬間、私の表情は溶けた。
噛めば噛む程に旨みが口の中に広がる。コクリと飲み込んだ後の後味もなんとも言えない美味しさでまた次、次とフォークが止まらない。
お皿の縁にトロリと掛けてあるソースに気付いた私はそのソースを少し付けてパクリ。先程までとはまた違ったフルーティーな味に咀嚼が止まらない。
美味しい、美味しすぎる。食べる事が止まらない……!
恍惚とした表情を浮かべながら食べる私の前に、コトコトと幾つものお皿が並べられる。
そのお皿の上にはたくさんの肉料理が。
私はその全ての肉料理を食べた。お肉美味しい、お肉美味しい。
煮込んでクタクタになっている骨付きの肉も、カリカリなのに中はフワフワなお肉も、薄くスライスして中に野菜が巻かれているお肉も、果物と一緒にピックに刺してあるお肉も、全てが美味しい、美味しすぎる……!
久しぶりの美味しいお肉を出されるがままに夢中で食べてゆく私。
一皿一皿の量は数口だけれども、明らかに異常な量を食べている。
ふと我にかえった時、私は羞恥で顔を赤くした。流石に食べ過ぎたのでは無いのかと。
そんな私の様子を見て侍女やメイドがほう…とため息をついていたなんてこの時の私は知りもしなかった。
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