容疑者はストーカー。息子は物言わぬ人形~この世は奇々怪々~

猫崎ルナ

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普通にないけど、普通にある話

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「もう一度、詳しくお話を聞かせていただけますか?」
そう私に問いかけてきたこの人は、もう何度私に同じ問いをしてきたかわかりません、今までの数日間ずっと私は散々話しをしてきたというのに。

「ちゃんと一から思い出してください」
まるで私が老人かのような問いをしてくるこの人が私はとても嫌いだ。まだ私は30歳なのに、ボケ老人かのような扱いをしてくる。

「辛いのはわかりますが、自分の殻にこもっていても何もなりませんよ?」
私が専業主婦な上に月に4、5回しか家から出ないことがそんなに悪いのか?この人になんの迷惑をかけたというのか。

「そういうことではありませんよ、ただ私達は思い出して欲しいだけです」
一体何を思い出して欲しいのか、私にはさっぱりわからない。聞かれたことには嘘偽りなく答えたのに。

「あの、どこに行くつもりですか?」
いや、言いましたよね?私は専業主婦なんですよ。家に子供も夫もいるんです、ご飯とかどうするんです?帰らせてください。

「いえ…、旦那さんは今日外食をするらしいので大丈夫らしいですよ」
あぁ、出費が増える…。お母さんにまたなんて言われることか…。夫は一人じゃないにもできないと言うのに。

「では、もう一度初めから読みますね?最後まで聞いた後におかしい点があれば指摘してください」
もう何度目になるかわからない説明を私はまた聞くことになる。そして私はこう言うのだ。

「そんな事実はありません。私が話したことだけが事実です」
と。






<えー、世間を驚愕させたストーカー事件ですが新しい情報が入ってきました!>
テレビをつけるとニュースがやっていた。ここ最近世間を騒がせているストーカー事件についてだ。

「最近このニュースばっかりだなー、しかしこんなことが本当にあるんだなぁ」
俺は母親の作ってくれていた作り置きを冷蔵庫から取り出しつつ妻に話しかける。

<被害にあった男性は××県在住の独身男性で、二年間も知らない容疑者の女性が家に入り込んでいたもよう>

「本当怖いわよねー?しかも、毎日毎日晩御飯を母親のふりして置いてたらしいのよ」

共働きの俺たちの冷蔵庫には俺たちの母親が作りおきを週二、三日に一度入れて置いてくれる。その中から肉じゃがとほうれん草の煮浸しを選び、机に並べながら嫌な顔をしつつ返事をする。

<なお、容疑者の女性は隣の家の住民であり、被害者の男性の妻だと思い込み反抗に及んだと言われています>

「ええっ!?それ男の方も気づかなかったのかよ!?そんなもん何が入ってるかわかんねえじゃん、コエェよ!」

妻が箸とコップを並べながら苦笑いを浮かべる。

<容疑者の女性は、毎日被害者の男性が家に帰ってくる時間までは家事をし作り置きの料理までしていたもようです>

「私たちもこうやって作り置きしてもらってるけど、もう三年になるから会った時じゃないとお礼言わないじゃない?本当は入れてもらったタイミングで言うのがいいだろうけどさー…お互い気を遣っちゃうじゃん?」

妻は筆まめじゃない方なので昔と違い連絡手段は多いのだが、なかなかこまめに何か連絡をすることを後回しにする癖がある。

<被害者の男性は二年前まで祖母がそう言ったことをしてくれていたので、亡くなった後は両親のどちらかが代わりにしてくれていたと思っていたそうです>

「ま、そう言われればそうだな!オカンも『作りたくて作ってるからお礼なんていちいち言わなくていいわ』ってお礼言われるの嫌な顔するしな!」

そう言って笑う俺の顔を見ながら妻も笑う。

<この度被害者男性の兄弟からのラインにて母親と兄弟が他県へと引っ越したことを知らされ、その時に今までのお礼を言った所『そんなことはしていない』と言われて発覚したそうです>

「そうそう、お母さんったら本当に照れ屋なんだから…」

俺の母親にも良くしてくれる妻、共働きで忙しい俺たちをサポートしてくれる母親達。そんな人たちがいてくれて本当に俺は幸せ者だな。

<被害者男性はその後警察を連れて自宅へと帰ったところ、何度か挨拶をしたことがあるだけの知らない女性が家の中から出てきたので、警察がその場で連行したと言うことです>

「あ、そういえば叔母さんのことでオカンが電話じゃなくて会って話したいって言ってたんだけど次の休みっていつ?予定合わせたいから何日かカレンダーに書いて置いてくんない?」

4月に入ったばかりで何も記入がされていないカレンダーを見つつ、口の中に肉じゃがをかきこむ。

<容疑者の女性はその際、被害者男性によく似た人形を警察に渡し『警察署に子供は連れて行けないから夫に頼んでおいてくれる?』などと言っていたもようです>

「はいはい、わかったよー。お母さんに会うのも久しぶりね!何持って行こうかな?いつもみたいに喜んでくれたらいいけど」

食べ終わった食器を流しへと持っていきながらはにかむ妻の横顔を見て、また幸せを感じる。

<また、どうしてそのような犯行に及んだのか分かり次第お伝えいたします。>




「ねぇ、そういえば最近夜中に何か音が聞こえるような気がするんだよね」







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