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第1章 ロフミリアの3つの国
第18話 光葉樹と紙グラス
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ロフレアだのなんだの色々と気になるワードが出てきて、ユセリからもっと色々な話を聞きたかった歩斗だったが、まずはせっかく現れてくれた丁寧なスライムの件を優先しようと思った。
「あのさ、用事があるみたいでアレなんだけど、仲間に……なってくれない?」
果たしてこんな頼み方で良いのだろうかと不安を抱きつつ、不自然なぐらい首に付けたスキルチョーカーをアピールしながら聞いてみる。
「あ、それは! じゃあ、お願いを聞いて貰っても良いでしょうかイムゥ?」
効果てきめん。
水色のスライムは魔物召喚スキルチョーカーを見た瞬間、全てを察したらしく、早速"願い事クエスト"を出してくれた。
「うんうん! もちろん聞くよ!」
キラキラと目を輝かせる歩斗を見て、ユセリはフフッと笑った。
「じゃあ、お願いですイム。実は、さっき言った用事というのは〈ナオルナの実〉というものを探すことだったんですイム」
「ほうほう」
と、相槌を打ってみた歩斗だったが、もちろんそんな実のことなど何も知らない。
こっちの世界に来てから未知との出会いばかりで、知らない言葉が飛び出すことに慣れて来ているのもあり、とにかく話を聞くことの大切さを自然と身に付けていた。
「個人的な話で恐縮ですが、私の妹が少し前にケガをしていまったんですイム。それで、ケガを治す効果がある〈ナオルナの実〉が必要というわけですイム」
スライムのポップな見た目と丁寧な口調のギャップに違和感を覚えざるを得ない歩斗だったが、話の内容に関しては身につまされるものがあった。
「よし、わかった! ボクがすぐ見つけてきてあげるよ!」
「おお、本当ですかイムぅ! 助かりますイム!!」
「うん。実はボクも妹がいるからね。……って言っても、アイツはちょっとやそっとのケガじゃ寝れば治るって言い張るぐらい強いけど」
歩斗が笑うと、スライムもイムイムッと笑みをこぼした。
妹を持つ兄同士、相通じるものを感じているようだ。
その様子を見ていたユセリの目が一瞬寂しさを漂わせたのだが、魔物と仲間になるためのクエストに夢中な歩斗はそれにまったく気付かなかった。
そして、その目はすぐに元のクールな眼差しに戻った。
「ナオルナの実か……この辺じゃあまり見ないような気がするけど。ねえ……アンタ名前なんて言うの?」
「申し遅れましたイム! 私の名前はスララスと申しますイム!」
「うん、じゃあスララス。元々、自分でその実を探しに来てたんだよね? ってことは、この辺にあるってこと?」
鋭い質問をぶつけるユセリ。
あっ、それ自分が言いたかった……と、歩斗は悔しがると同時に、身軽でパワーもあっておまけにかしこさまで兼ね備えているユセリに感心していた。
「そうなんですイム。普段あまりこの辺に来る事は無いんですけど、ナオルナの実があるっていう噂を聞いたもんでイム。でも、恥ずかしながらその実を見たことが無くて、どんな形をしていてどんな風に生っているのかも知らなくて、正直苦戦していたところですイム……」
スララスは水滴のようなカラダ全体をだるんとさせた。
「ならちょうど良いよ! ボクたちが見つけてきてあげるから。ねっ、ユセリ?」
「うん。私もそんなにナオルナの実に詳しいわけじゃないんだけど、確か〈光葉樹〉だったってことだけは何となく覚えてる」
「コウヨウジュ……?」
前に理科の授業でそんなの聞いたような……と、歩斗は頭を捻った。
「知らない? 葉っぱがパァァって光る木」
「えっ、光るの? クリスマスとかの時みたいなやつ?」
「クリスマス……? それこそなに?」
「えっ、クリスマス知らないの? えっとねぇ……」
腰を据えて説明しようとした歩斗だったが、無言で何かを訴えかけてくるスララスの視線に気付き、何よりもまず探し始めた方が良いような気がした。
「まっ、とりあえず光ってる木を探せば良いんだよね?」
「そうそう。とりあえず探してみようよ」
「おう、じゃあ行こう! 急いで取ってくるから待っててねスララス!」
「はイム! お願いしますイム!」
そう言ってスララスは手……ではなく、カラダの端っこギューッと伸ばしてプルプルと振ってみせた。
「じゃあえっと……こっち行ってみよう!」
歩斗は、少なくともここに来るまでは光る木など見てないことを踏まえて、自宅のある方向とは別の方へと歩き始める。
そして、そのすぐ隣をユセリがぴょんぴょん跳びはねるように付いてきた。
「おお、ホントに光ってる! っていうかまぶし過ぎ!!」
歩斗は、目の前で煌々と光輝く大木に感動しつつ、まるで太陽のような輝きに耐えかねて目を伏せた。
森の中で多少暗さもあるとは言え、昼間の時間に光る木を見分けることなんてできるのか……と思いながら歩いていると、一瞬でソレとわかる輝きに遭遇した。
「ほんとスゴい! 今まで何度か光葉樹見たことあるけど、ここまでまぶしいのは初めて! っていうか、目がヤバい目が」
ユセリは歩斗にも増して輝きにやられているようだった。
「なあ、大丈夫?」
歩斗は、あまりに苦しそうにしているユセリを心配して声をかけた。
「うん、猫系魔物のハーフだから目が良すぎるのかな」
ユセリはそう言うと、無理して余裕を見せるかのようにフフッと笑った。
「えっ、ハーフなの?」
歩斗は初耳な言葉を聞くなり、マジマジとユセリの顔を覗き込む。
「ちょ、ちょっと、あんましジロジロ見ないでよ!」
ユセリはほんのり顔を赤らめながら、手を伸ばして歩斗を振り払おうとした。
「あっ、ごめん」
なんとなく、それは踏み込んで聞いちゃいけない事なのかな……と子どもながらに思った歩斗は、話の筋を元に戻すことにした。
「それで、これがスララスの言ってた〈ナオルナの実〉が生ってる木なのかな?」
「う、うーん……どうかな。もう、とにかくまぶしすぎて何にも見えないから分かんないよ」
もはや、光に耐えかねたユセリはその木に背を向けている。
それに比べて歩斗はと言えば、頑張れば見ることが出来た。
ただ、何年か前にあった皆既日食の日に母の香織から「お日様を絶対直接見ちゃだめよ! 失明しちゃうから!」と言われて、失明という言葉の恐ろしさが体に染みついているせいか、強い光に対し、ついつい反射的に目を逸らしてしまって具体的なところまで見ることは出来ていない。
「でも、怪しいなぁこれ……」
両手を腰に当てて考え込む歩斗。
そう言えば結局あの日、ちゃんと太陽が月に食べられていくのを見ることができたんだよな……と、思い出をたぐり寄せていた歩斗はハッとした。
「そうだ! アレだ!」
隣で突然大声を出されたユセリは驚いて体をビクッとさせた。
「な、なに!? アレって??」
「うん、ちょっとここで待ってて! すぐ戻ってくるから!」
そう言い残すと、歩斗はそれこそ猫のような軽やかなステップで、ここまで来た道を駆け戻っていった。
「あら、アユおかえり」
どんだけ広大な土地を使って家庭菜園をするつもりなのか、相変わらず草むしりを続けていた香織が息子の姿に気付いて声をかけた。
「うん、ただいま……じゃないけど! ねえ、アレってまだうちにあるっけ?」
歩斗は走ってきた足の熱を冷まさないようとばかりに、その場で足踏みしながら母に尋ねた。
「うん、あるわよ。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「お、良かったまだあるんだ! ……って、なんで分かったの!?」
「もちろん。ポテトチップスでしょ? フレンチサラダ味のやつアユ好きだもんね~。でも、そろそろお昼ご飯だからちょっとだけにしておきなさいよ?」
「うん、わかった頑張ってみる……って、違う違う! アレだよアレ! ほら、前に皆既日食見に行った時、買って貰ったメガネみたいなやつ! 黒いセロハンみたいなので出来たやつだよ!」
母親の天然ぶりに呆れた歩斗の足踏みは地団駄に変わっていった。
「あら、そっち? えっと、確かあれはアユが偉く気に入ってたから捨ててないはずなんだけど……あっ、そうだ! 最近見たわそういえば」
「えっ、マジ?」
「うん。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「いやいや、それはポテトチップスでしょ?」
「うん。ポテトチップスも入ってるけど、あのメガネも入ってるのよ。アユが好きなものだから固めて置いておいた方がいいかなって……」
「なんじゃそりゃ……ま、いいや。とにかくそこにあるんだよね」
歩斗は母の決めた謎の収納ルールに苦笑いしつつ、靴を脱いで窓を開けてリビングの中に飛び込んだ。
キッチンに駆けていき、例のカゴの中を漁ってみると、確かに紙で出来たサングラスが出てきた。
何はともあれ、すぐにその在処を教えてくれた事には感謝の気持ちを抱きつつ、再び異世界へと舞い戻る。
「あったよ、ありがと!」
永遠に続ける気かと思える程、一心不乱に草むしりを続ける母の背中に向かって声をかけつつ通り過ぎる歩斗。
「あら、良かったわね! って、また行くの? そろそろお昼ご飯だから、遅くならないようにね~!」
「うん、わかった! とりあえず急いでるから行く!」
歩斗は問題を解決するための最高のアイテムを握りしめ、光る木を目指して一直線に森を駆けていった。
「あっ、おかえり」
変わらぬ勢いで煌々と輝き続ける光葉樹に背を向け、ネコのように手を揃えた座り方で待っていたユセリは、歩斗の姿に気付くなり声をかけてきた。
「ただいまおまたせ! いい物持ってきたぜ!」
歩斗は、紙サングラスを自慢げに見せつけた。
「えっ、なにそれ? ちょっと見せて見せて!」
ユセリの食いつきの良さに、歩斗の顔から満面の笑みがこぼれた。
「これって……メガネ? でもなんかヘンな感じ」
少なくとも、こっちの世界にもメガネというものがあるんだ、と歩斗は思った。
そして、ユセリはそのヘンな感じのメガネを訝しがりつつ掛けた。
「ほら、そのままあの木の方を見てみ」
歩斗は目を細めながら光葉樹を指差す。
「うん」
ユセリはクルッと体を反転させて、光の方に目を向けた。
「……おお! ……おおお! 見える見える! めちゃくちゃ見える!」
ユセリはぴょんぴょん跳びはねて喜びを表した。
これは大正解過ぎたな……と、咄嗟の判断に我ながらうっとりする歩斗。
がしかし、本当の目的はここからだった。
「ねえ、ナオルナの実っぽいのありそう?」
「うん、いま探してるとこ……あっ、あれかな? 上の方の枝に、丸っこいのぶら下がってる!」
「おお、やった! ……って、上の方ってどのぐらい上?」
「うーん……かなりかな」
見上げるユセリの顔の角度で、歩斗は大体その高さの察しがついた。
どう考えても、ジャンプして届きそうな距離ではない。
それはたとえ子どもじゃ無く、大人の背の高さを持ってしても。
となると、どうやって取ればいいのか……悩みはじめる歩斗の横で、ユセリは腕を伸ばすストレッチなんかしはじめた。
「よし、私が取ってくるよ! 木登りは得意なんだ!」
そう言って、ユセリは勢いよく光の中へと飛び込んで行った……のだが。
「うわぁぁ! 目がぁぁぁ!!」
少し進んだ辺りでいきなり苦悶の声をあげると、すぐさま踵を返して歩斗の元へと戻ってきた。
どうやら木に近づくと前からだけじゃなく四方八方から光が差し込んでくるので、紙のサングラスでは防ぎきれないようだ。
「大丈夫? ねえ、ちょっとそれ貸して」
「う、うん……」
歩斗は、ユセリから受け取ったサングラスを掛けて、木の方に目を向けた。
そこはモノクロの世界。
大きな大木のシルエットが視界を覆っていて、さっきユセリが見ていた辺りを思い出しながら顔を上にあげてみると、確かに丸い実のようなものがぶら下がっていた。
思った通り相当な高さで、ジャンプだけじゃ絶対届きそうもない。
ユセリの言うとおり木を登っていくしか手段は無さそうだったが、歩斗は今までそんなことやってみようと思ったことすらなく、行ける自信はゼロに等しい。
「うーん……そこに見えてるのになぁ……」
歩斗は悔しさのため息を吐き出しつつ、ふと視線を下に向けたその時。
大きな木の根元あたりに、四角いシルエットを見つけた。
「あれはもしかして……」
小声で囁きながら、歩斗はゆっくりその四角いシルエットがある方に近づいてみる。
ユセリが苦しんだように、木に近づけば近づくほど紙サングラスの隙間から光が差し込んで来たが、人間の歩斗にとってそれは耐えられないほどでは無かった。
そしてついに、四角いシルエットの真ん前までやってきた。
「これは……宝箱だ! 宝箱があったぞ!」
歩斗は喜び叫びながらバッと振り向くと、ユセリの背中が見えた。
「ホントに? ねえ、開けてみなよ!」
ユセリは背中を向けたまま叫んだ。
言われなくてもすぐにそうするつもりだった歩斗は、宝箱のシルエットの縁に両手をかけた。
そして、丸みを帯びたフタをゆっくりと開け、中を覗き込む歩斗。
「うーん……分かりづらい」
サングラス越しだと、宝箱の中身はまっ暗にしか見えなかった。
「よし、こうすれば……」
歩斗は、宝箱の両サイドを両足で挟む位置に立ち、中を真上から見下ろす体勢を取った。
こうすれば、木から受ける光の量を最小限に抑えることができるはず。
そっとサングラスを取り、今一度宝箱の中を確認してみた。
「こ、これは……」
そこにあったのは、見慣れた形の武器。
「……弓矢だ!」
「あのさ、用事があるみたいでアレなんだけど、仲間に……なってくれない?」
果たしてこんな頼み方で良いのだろうかと不安を抱きつつ、不自然なぐらい首に付けたスキルチョーカーをアピールしながら聞いてみる。
「あ、それは! じゃあ、お願いを聞いて貰っても良いでしょうかイムゥ?」
効果てきめん。
水色のスライムは魔物召喚スキルチョーカーを見た瞬間、全てを察したらしく、早速"願い事クエスト"を出してくれた。
「うんうん! もちろん聞くよ!」
キラキラと目を輝かせる歩斗を見て、ユセリはフフッと笑った。
「じゃあ、お願いですイム。実は、さっき言った用事というのは〈ナオルナの実〉というものを探すことだったんですイム」
「ほうほう」
と、相槌を打ってみた歩斗だったが、もちろんそんな実のことなど何も知らない。
こっちの世界に来てから未知との出会いばかりで、知らない言葉が飛び出すことに慣れて来ているのもあり、とにかく話を聞くことの大切さを自然と身に付けていた。
「個人的な話で恐縮ですが、私の妹が少し前にケガをしていまったんですイム。それで、ケガを治す効果がある〈ナオルナの実〉が必要というわけですイム」
スライムのポップな見た目と丁寧な口調のギャップに違和感を覚えざるを得ない歩斗だったが、話の内容に関しては身につまされるものがあった。
「よし、わかった! ボクがすぐ見つけてきてあげるよ!」
「おお、本当ですかイムぅ! 助かりますイム!!」
「うん。実はボクも妹がいるからね。……って言っても、アイツはちょっとやそっとのケガじゃ寝れば治るって言い張るぐらい強いけど」
歩斗が笑うと、スライムもイムイムッと笑みをこぼした。
妹を持つ兄同士、相通じるものを感じているようだ。
その様子を見ていたユセリの目が一瞬寂しさを漂わせたのだが、魔物と仲間になるためのクエストに夢中な歩斗はそれにまったく気付かなかった。
そして、その目はすぐに元のクールな眼差しに戻った。
「ナオルナの実か……この辺じゃあまり見ないような気がするけど。ねえ……アンタ名前なんて言うの?」
「申し遅れましたイム! 私の名前はスララスと申しますイム!」
「うん、じゃあスララス。元々、自分でその実を探しに来てたんだよね? ってことは、この辺にあるってこと?」
鋭い質問をぶつけるユセリ。
あっ、それ自分が言いたかった……と、歩斗は悔しがると同時に、身軽でパワーもあっておまけにかしこさまで兼ね備えているユセリに感心していた。
「そうなんですイム。普段あまりこの辺に来る事は無いんですけど、ナオルナの実があるっていう噂を聞いたもんでイム。でも、恥ずかしながらその実を見たことが無くて、どんな形をしていてどんな風に生っているのかも知らなくて、正直苦戦していたところですイム……」
スララスは水滴のようなカラダ全体をだるんとさせた。
「ならちょうど良いよ! ボクたちが見つけてきてあげるから。ねっ、ユセリ?」
「うん。私もそんなにナオルナの実に詳しいわけじゃないんだけど、確か〈光葉樹〉だったってことだけは何となく覚えてる」
「コウヨウジュ……?」
前に理科の授業でそんなの聞いたような……と、歩斗は頭を捻った。
「知らない? 葉っぱがパァァって光る木」
「えっ、光るの? クリスマスとかの時みたいなやつ?」
「クリスマス……? それこそなに?」
「えっ、クリスマス知らないの? えっとねぇ……」
腰を据えて説明しようとした歩斗だったが、無言で何かを訴えかけてくるスララスの視線に気付き、何よりもまず探し始めた方が良いような気がした。
「まっ、とりあえず光ってる木を探せば良いんだよね?」
「そうそう。とりあえず探してみようよ」
「おう、じゃあ行こう! 急いで取ってくるから待っててねスララス!」
「はイム! お願いしますイム!」
そう言ってスララスは手……ではなく、カラダの端っこギューッと伸ばしてプルプルと振ってみせた。
「じゃあえっと……こっち行ってみよう!」
歩斗は、少なくともここに来るまでは光る木など見てないことを踏まえて、自宅のある方向とは別の方へと歩き始める。
そして、そのすぐ隣をユセリがぴょんぴょん跳びはねるように付いてきた。
「おお、ホントに光ってる! っていうかまぶし過ぎ!!」
歩斗は、目の前で煌々と光輝く大木に感動しつつ、まるで太陽のような輝きに耐えかねて目を伏せた。
森の中で多少暗さもあるとは言え、昼間の時間に光る木を見分けることなんてできるのか……と思いながら歩いていると、一瞬でソレとわかる輝きに遭遇した。
「ほんとスゴい! 今まで何度か光葉樹見たことあるけど、ここまでまぶしいのは初めて! っていうか、目がヤバい目が」
ユセリは歩斗にも増して輝きにやられているようだった。
「なあ、大丈夫?」
歩斗は、あまりに苦しそうにしているユセリを心配して声をかけた。
「うん、猫系魔物のハーフだから目が良すぎるのかな」
ユセリはそう言うと、無理して余裕を見せるかのようにフフッと笑った。
「えっ、ハーフなの?」
歩斗は初耳な言葉を聞くなり、マジマジとユセリの顔を覗き込む。
「ちょ、ちょっと、あんましジロジロ見ないでよ!」
ユセリはほんのり顔を赤らめながら、手を伸ばして歩斗を振り払おうとした。
「あっ、ごめん」
なんとなく、それは踏み込んで聞いちゃいけない事なのかな……と子どもながらに思った歩斗は、話の筋を元に戻すことにした。
「それで、これがスララスの言ってた〈ナオルナの実〉が生ってる木なのかな?」
「う、うーん……どうかな。もう、とにかくまぶしすぎて何にも見えないから分かんないよ」
もはや、光に耐えかねたユセリはその木に背を向けている。
それに比べて歩斗はと言えば、頑張れば見ることが出来た。
ただ、何年か前にあった皆既日食の日に母の香織から「お日様を絶対直接見ちゃだめよ! 失明しちゃうから!」と言われて、失明という言葉の恐ろしさが体に染みついているせいか、強い光に対し、ついつい反射的に目を逸らしてしまって具体的なところまで見ることは出来ていない。
「でも、怪しいなぁこれ……」
両手を腰に当てて考え込む歩斗。
そう言えば結局あの日、ちゃんと太陽が月に食べられていくのを見ることができたんだよな……と、思い出をたぐり寄せていた歩斗はハッとした。
「そうだ! アレだ!」
隣で突然大声を出されたユセリは驚いて体をビクッとさせた。
「な、なに!? アレって??」
「うん、ちょっとここで待ってて! すぐ戻ってくるから!」
そう言い残すと、歩斗はそれこそ猫のような軽やかなステップで、ここまで来た道を駆け戻っていった。
「あら、アユおかえり」
どんだけ広大な土地を使って家庭菜園をするつもりなのか、相変わらず草むしりを続けていた香織が息子の姿に気付いて声をかけた。
「うん、ただいま……じゃないけど! ねえ、アレってまだうちにあるっけ?」
歩斗は走ってきた足の熱を冷まさないようとばかりに、その場で足踏みしながら母に尋ねた。
「うん、あるわよ。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「お、良かったまだあるんだ! ……って、なんで分かったの!?」
「もちろん。ポテトチップスでしょ? フレンチサラダ味のやつアユ好きだもんね~。でも、そろそろお昼ご飯だからちょっとだけにしておきなさいよ?」
「うん、わかった頑張ってみる……って、違う違う! アレだよアレ! ほら、前に皆既日食見に行った時、買って貰ったメガネみたいなやつ! 黒いセロハンみたいなので出来たやつだよ!」
母親の天然ぶりに呆れた歩斗の足踏みは地団駄に変わっていった。
「あら、そっち? えっと、確かあれはアユが偉く気に入ってたから捨ててないはずなんだけど……あっ、そうだ! 最近見たわそういえば」
「えっ、マジ?」
「うん。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「いやいや、それはポテトチップスでしょ?」
「うん。ポテトチップスも入ってるけど、あのメガネも入ってるのよ。アユが好きなものだから固めて置いておいた方がいいかなって……」
「なんじゃそりゃ……ま、いいや。とにかくそこにあるんだよね」
歩斗は母の決めた謎の収納ルールに苦笑いしつつ、靴を脱いで窓を開けてリビングの中に飛び込んだ。
キッチンに駆けていき、例のカゴの中を漁ってみると、確かに紙で出来たサングラスが出てきた。
何はともあれ、すぐにその在処を教えてくれた事には感謝の気持ちを抱きつつ、再び異世界へと舞い戻る。
「あったよ、ありがと!」
永遠に続ける気かと思える程、一心不乱に草むしりを続ける母の背中に向かって声をかけつつ通り過ぎる歩斗。
「あら、良かったわね! って、また行くの? そろそろお昼ご飯だから、遅くならないようにね~!」
「うん、わかった! とりあえず急いでるから行く!」
歩斗は問題を解決するための最高のアイテムを握りしめ、光る木を目指して一直線に森を駆けていった。
「あっ、おかえり」
変わらぬ勢いで煌々と輝き続ける光葉樹に背を向け、ネコのように手を揃えた座り方で待っていたユセリは、歩斗の姿に気付くなり声をかけてきた。
「ただいまおまたせ! いい物持ってきたぜ!」
歩斗は、紙サングラスを自慢げに見せつけた。
「えっ、なにそれ? ちょっと見せて見せて!」
ユセリの食いつきの良さに、歩斗の顔から満面の笑みがこぼれた。
「これって……メガネ? でもなんかヘンな感じ」
少なくとも、こっちの世界にもメガネというものがあるんだ、と歩斗は思った。
そして、ユセリはそのヘンな感じのメガネを訝しがりつつ掛けた。
「ほら、そのままあの木の方を見てみ」
歩斗は目を細めながら光葉樹を指差す。
「うん」
ユセリはクルッと体を反転させて、光の方に目を向けた。
「……おお! ……おおお! 見える見える! めちゃくちゃ見える!」
ユセリはぴょんぴょん跳びはねて喜びを表した。
これは大正解過ぎたな……と、咄嗟の判断に我ながらうっとりする歩斗。
がしかし、本当の目的はここからだった。
「ねえ、ナオルナの実っぽいのありそう?」
「うん、いま探してるとこ……あっ、あれかな? 上の方の枝に、丸っこいのぶら下がってる!」
「おお、やった! ……って、上の方ってどのぐらい上?」
「うーん……かなりかな」
見上げるユセリの顔の角度で、歩斗は大体その高さの察しがついた。
どう考えても、ジャンプして届きそうな距離ではない。
それはたとえ子どもじゃ無く、大人の背の高さを持ってしても。
となると、どうやって取ればいいのか……悩みはじめる歩斗の横で、ユセリは腕を伸ばすストレッチなんかしはじめた。
「よし、私が取ってくるよ! 木登りは得意なんだ!」
そう言って、ユセリは勢いよく光の中へと飛び込んで行った……のだが。
「うわぁぁ! 目がぁぁぁ!!」
少し進んだ辺りでいきなり苦悶の声をあげると、すぐさま踵を返して歩斗の元へと戻ってきた。
どうやら木に近づくと前からだけじゃなく四方八方から光が差し込んでくるので、紙のサングラスでは防ぎきれないようだ。
「大丈夫? ねえ、ちょっとそれ貸して」
「う、うん……」
歩斗は、ユセリから受け取ったサングラスを掛けて、木の方に目を向けた。
そこはモノクロの世界。
大きな大木のシルエットが視界を覆っていて、さっきユセリが見ていた辺りを思い出しながら顔を上にあげてみると、確かに丸い実のようなものがぶら下がっていた。
思った通り相当な高さで、ジャンプだけじゃ絶対届きそうもない。
ユセリの言うとおり木を登っていくしか手段は無さそうだったが、歩斗は今までそんなことやってみようと思ったことすらなく、行ける自信はゼロに等しい。
「うーん……そこに見えてるのになぁ……」
歩斗は悔しさのため息を吐き出しつつ、ふと視線を下に向けたその時。
大きな木の根元あたりに、四角いシルエットを見つけた。
「あれはもしかして……」
小声で囁きながら、歩斗はゆっくりその四角いシルエットがある方に近づいてみる。
ユセリが苦しんだように、木に近づけば近づくほど紙サングラスの隙間から光が差し込んで来たが、人間の歩斗にとってそれは耐えられないほどでは無かった。
そしてついに、四角いシルエットの真ん前までやってきた。
「これは……宝箱だ! 宝箱があったぞ!」
歩斗は喜び叫びながらバッと振り向くと、ユセリの背中が見えた。
「ホントに? ねえ、開けてみなよ!」
ユセリは背中を向けたまま叫んだ。
言われなくてもすぐにそうするつもりだった歩斗は、宝箱のシルエットの縁に両手をかけた。
そして、丸みを帯びたフタをゆっくりと開け、中を覗き込む歩斗。
「うーん……分かりづらい」
サングラス越しだと、宝箱の中身はまっ暗にしか見えなかった。
「よし、こうすれば……」
歩斗は、宝箱の両サイドを両足で挟む位置に立ち、中を真上から見下ろす体勢を取った。
こうすれば、木から受ける光の量を最小限に抑えることができるはず。
そっとサングラスを取り、今一度宝箱の中を確認してみた。
「こ、これは……」
そこにあったのは、見慣れた形の武器。
「……弓矢だ!」
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偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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