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9巻
9-2
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「間もなく見えるはずだ」
翌日の昼頃、ユーリガの案内でたどり着いたのは、セラン達にとって初めて見る魔族の街だった。
「なんていうか……普通よね」
「そうだな……普通だ」
街の中に入ったリーゼとウルザがそんな感想を漏らす。
魔族の街――そう聞くと、おどろおどろしいものを想像してしまうかもしれない。
だが多くの魔族に会い、魔族も人族もその本質は大きく変わらないということをよく解っているセラン達は、それほど衝撃は受けなかった。
建物は石造りで、通りは踏み固められた水はけのよい土。数は少ないが通りに面した商店なども見受けられ、その店先に並んでいるのはごく普通の雑貨や食料品だ。
よく見ればやはり所々に人族の街との差異があるが、それでも決定的な断絶は感じられなかった。
「数は少ないながら人族も住んでいるので、お前達には特に馴染みやすいかもしれないな」
「確かにどこからどう見ても普通の街だな……人通りが少ないか」
セランがユーリガに言った通り、この街の中心だろう大通りであるのにもかかわらず、魔族や人族と思しき人影が遠目にぽつりぽつりと見える程度だ。
「……屋内には人の気配を感じるな。まるで息を潜めているようだ」
イルメラがドラゴン特有の鋭い感覚を活かし、辺りを見回している。
「普段はもう少し多い。今は時期が時期だけにな……」
ユーリガの声は沈んでいる。
「ここはルイーザ様が直接統治されている街で、この街の住人はルイーザ様から恩恵を受けた者が多い。だからこそ憂えているんだ」
ルイーザが人族との融和を目指して、娯楽、つまり文化を輸入していたことを思い出すセラン。確かに、店先には人族領で見かける遊戯盤や本などが置いてあった。
そして今この街全体を包む悲しみを見れば、それが少なくない成果を生んでいたことがよく解る。
「なるほどね……そういえば、ここはなんて名前の街なんだ?」
「名前……?」
セランの問いに不思議そうな顔になるユーリガ。どうやら街に名前を付けるという習慣自体がないようだ。
「もし人族の街に魔族がいたら大騒ぎどころの話ではない、そういう意味では魔族の方が寛容なのかもしれないな」
ウルザはそんな感想を漏らす。
「名前を決めてすらいないところを見ると、単に細かいことを気にしないだけだと思うが……それよりこの後はどこに行くんだ?」
それなりに興味深く街を見回していたセランだが、それにも飽きたのかユーリガを促す。
「解った……こっちだ」
ユーリガは、街の中心部にある大きめの建物へと入っていった。
中に入ってすぐのところにかなりの大部屋があり、十人ほどの魔族がいた。
魔族は個体差が大きく、解りやすい平均がとれないが、基本的には人間よりも長寿だ。なので外見からその年齢を判断するのは難しいものの、若い魔族が多いように思われた。
ただ、全員殺気立っているというか、明らかに余裕がないように見受けられる。
というのも、ここにいるのは、黒翼の魔族との戦いに敗れてもはや魔王とは言えなくなったルイーザに今でも忠誠を誓う側近達だった。
「ようやく戻ったか……こんなときによく勝手な行動をとれたな!」
「クリート、ルイーザ様の居場所は解ったのか?」
そのうちの一人が苛つきを隠しもせずに言うも、ユーリガはそれを意に介さず、最も知りたい情報を端的に訊く。
「それが……ひと足遅かった。奴ら、城の中に入ったそうだ。ルイーザ様も共に……」
一瞬言いよどんだものの、クリートと呼ばれた魔族は悲痛な声で答えた。
ここで言う『城』とは、魔族の首都ともいうべき場所にあり、歴代の魔王が居城とし、人族からは魔王城と呼ばれている城である。
そこに入ったということは、黒翼の魔族が魔王として認められたということだ。
「無論、入城の際にはひと悶着あったそうだが、思いの外支持する連中が多いようだ。特に好戦派の連中は真っ先に認めたようだ……あのような卑劣な手を使った奴を魔王として仰ぐなど!」
クリートが歯ぎしりをしながら吐き捨てるように言う。
「雷息が死んで大人しくなったと思っていたんだが」
ユーリガも舌打ちをする。人族をひたすら憎み、好戦派の急先鋒とも言うべき存在であった雷息は、今から一年近く前に死んでいる。
他にも要因はあって、それ以来好戦派の勢いは下火になっていたのだが、これ幸いにと黒翼のもたらした流れに飛びついたようだ。
「……ならば城に乗り込んで、ルイーザ様をお助けせねば」
当然のことのように言うユーリガに対し、今度はクリート以外の魔族からも不満の声が上がる。
「おい! 散々遅れておいて何を仕切ってるんだ!」
「魔王様に目をかけられているからといって、勝手が過ぎるぞ!」
「しかも遅れた理由が……人族に助けを求めるためだと!? ふざけるな!」
口々に文句が叫ばれ、一気に非難が集中した。
恐らくは、このどうしようもない現状に対しての怒りを八つ当たり気味にぶつけているのだろうが、このままでは自分達にも飛び火するかもと、リーゼ達が身構える。
「解っているはずだ、我々だけでルイーザ様をお助けすることはできないと!」
だが至極冷静なユーリガの指摘に、魔族達は言葉に詰まる。口にこそ出さないが、自覚はあるのだろう。
「た、たとえ敵わずとも、せめて奴らに一矢報いることができるなら……」
「それはただの自己満足だ! そんなもの何の意味もない!」
クリートの反論を、ユーリガはばっさりと切り捨てる。
「お、お前には! お前には魔族としてのプライドがないのか!?」
「私のプライドなどルイーザ様の御身に比べれば取るに足らない! もしこれが後に問題になるというのであれば、ルイーザ様の名を汚すというのであれば、お助けした後で全ての責を取り、私は自決するまでだ!」
一切の迷いのないユーリガの覚悟に、これまでさんざん非難していたクリート達も思わずたじろいでしまう。
「ルイーザ様をお助けするためならなんでも、どんなことでもする」
その迫力に気圧されたのか、クリート達はそれ以上反論することができなかった。
「……いいだろう、そこまで言うのならこれ以上は何も言わない。だが確認しなければならない点がある」
クリートはセラン達を値踏みするような視線を投げる。
それはある意味で当然の疑問――そうまでしてユーリガが呼んだこの人族達は、本当にルイーザを助けるのに役立つのかどうか。
「残念ながら予定していた全員ではないが、その実力は私が保証する。特にこの二人の実力は身をもって知っている」
ユーリガはリーゼとウルザの二人を見る。その眼には複雑な感情が見て取れた。
「潜入中に人族に敗れたと聞いてはいたが……そいつらか」
じろじろと値踏みしてくる視線に、リーゼとウルザは居心地が悪くなる。
「おいおい、女を無遠慮に見るもんじゃねえぜ、そんなんじゃモテねえぞ」
そこへ、セランが視線を遮るように割って入る。もっとも、庇われた二人はお前がそれを言うか、と言いたげな顔でセランを見ているが。
「確かクリートだったな?」
「……なんだ人間」
名を大事にする魔族としては、人族に名を呼ばれたことを不快そうにするが、今はそれどころではないと解っているのでとりあえず文句は言わない。
「さっきからよく喋るな。こっちには弱い奴ほどよく吠えるって言葉があるんだが、魔族にはねえのか?」
「ほう、言うではないか……この状況でそれだけほざけるとは、度胸はあるようだな」
「度胸だけじゃねえよ。こっちの実力が知りたいのならもっと簡単な方法があるぜ……って痛ててて」
腰の剣の柄を軽く叩いて挑発したセランを、リーゼが後ろから耳をひっぱって止める。
「ちょっと! なに喧嘩売ってんのよ!」
「け、喧嘩売ってるのは向こうだろが。それにこうする方が手っ取り早い!」
実力が不安だと言うのなら、身をもって解らせる。乱暴ではあるが、確かに手段の一つではある。
しかし、これから共にルイーザを助けようというのに互いに争うのは、危険も大きい。
「もし怪我させたらどうするのよ! もうちょっと考えなさいよ」
リーゼのそれは相手を気遣った善意の言葉ではあったが、かといってその真意が伝わるとは限らないし、それどころか逆効果の場合もある。
今回がまさにそうで、クリートは極自然に格下扱いされて労わられたのだ。侮辱と取られても仕方ない。
「お前こそ考えて喋れよ」
「うう……」
険悪な雰囲気が漂い始めたせいで反論できないでいたリーゼだが、そんな中、場違いな声がかかる。
「やめておきなさい、残念だけどその人間の言う通りよ」
それは、セラン達にも聞き覚えのある声だった。
3
声のした方を見ると、一人の女魔族が建物の奥から歩いてくる。
特徴的な燃えるように赤い眼に、羊に似た角。口元にはからかうかのような笑みを浮かべており、どこか獲物を狙う蛇を連想させた。
「お前は確か……炎眼だったな」
「あら、覚えててくれたのね。嬉しいわ」
以前セラン達と出会ったこの女魔族は、何らかの功績を挙げるか特に実力を認められた者にしか与えられない個の尊称というものを持ち、魔族全体でも十人といない実力者の一人である。また、かつてはルイーザに反発していたことでも知られている。
「なんでここにいる?」
セランが自然な動きで位置取りをする。ひと呼吸で炎眼に斬りかかれる距離に、だ。
直接戦ったことのあるリーゼとウルザも、迷わず戦闘態勢をとってしまう。
「ああ、そんなに警戒しなくていいわよ。今更あなた達とどうこうなんてつもりはないから」
セラン達の意図を汲み取ったのか、手を上げて無害ぶりをアピールする炎眼。
「とりあえず久しぶりね、確かリーゼにウルザ……よね?」
少し自信なさげで確認するかのようであるが、炎眼は二人の名前を呼んだ。
「……意外だな、お前みたいな奴が人族の名を覚えているなんて」
それにユーリガが驚きを示す。実際、これまで炎眼は人族など塵芥のように扱っていたのだ。
「私だって流石に、自分を倒した連中の名前くらい覚えるわよ」
自分を倒した――炎眼のその言葉に衝撃を受けたのはクリート達だった。
「た、倒した、ですか?」
「そういうことよ。元気だけはいいそこの女ならともかく、私を倒したとあれば、彼らの腕を信用してもいいんじゃない?」
この物言いには文句を言いたくなるユーリガだったが、この場においてはある意味助け舟なので口をつぐむ。
「そしてそっちの人間の男……セランに関しては、私が言うまでもないんじゃない?」
それはどういう意味だ、と問いただしたかったセランだが、彼の名前が出た途端に周りの空気が一気に変わっていた。
先ほどまでの険悪さは払拭され、今度は驚愕や緊張、戸惑いに衝撃といった別の意味での不穏さが漂い始める。一体何事かとセランがクリート達に視線を向けると、無意識のようであるが半歩後ずさって距離を取られてしまう。
「炎眼……様、それでは噂は本当なのですか?」
クリートが恐る恐るといった感じで確認を取る。
「ええ、そうよ。その男がセラン……三腕に勝った人間よ」
炎眼がはっきり断言すると、おお、と低い唸り声が上がった。
三百年前の人族との大戦で活躍し、純粋な強さではルイーザをも上回る魔族最強の英雄と畏れられた三腕。それが今から約一年前に人間に倒されたという話は、魔族全体に小さくない衝撃を走らせたものだ。
「その件か……」
セランは苦い顔になる。彼にとってはあまり自慢できることでもないのだ。
正確にはカイルと二人がかりでのことだったし、とどめはリーゼが力を貸した上、更にシルドニアがいれば自分も協力したと主張するだろう。
ルイーザからも姑息卑怯と言われるくらい策を弄した末に何とか勝っただけで、とてもではないが納得のいった戦いではない。
「当然でしょ、人族のあなたが思ってるより三腕の名前って大きいのよ。それに勝ったあなたは、魔族の間じゃ有名人なのよ……安心なさいな、決して悪い方向でじゃないから」
確かにセランを見る魔族の顔には恨みやそういったものは感じられず、それでいて認めたくはないという複雑な感情が入り混じっている。
「確かにこんな反応は予想外だな」
セランとしては英雄を倒したのだから恨まれても仕方ないとは思っていたものの、強さを尊ぶ傾向が強い魔族からは敬意に近いものを持たれている現状は不思議と言えた。
「あの方は我々にとって、魔族にとって特別であったからな……それを倒したのだ、相手も人族の英雄でなければならない」
そう言ったユーリガはどこか遠い眼をしていた。
「しかし容貌が聞いていたのと違うぞ。人族にしては眉目秀麗で女子と見間違うかのようだと……」
「俺はひと目見たら子供が三日三晩泣き叫ぶような凶悪な顔だと……」
「いや、常に血走らせた眼で獲物を探し続け、その身体が返り血で赤く染まらぬときはないとか……」
「おい、色々不穏なのが混じってるぞ」
聞こえてくるひそひそ話には、セランとしても聞き流せないものがいくつかあった。
「仕方がないんだ。ルイーザ様はかなり力を入れてお前のことを触れ回っていて、それが魔族全体に広まったのはいいが、興味本位の噂が独り歩きしているようで……」
それらを止められなかったユーリガが、そっと眼を逸らしながら言う。
どちらかというと好意的に捉えられている様子とはいえ、少々暴走気味なのは否めなかった。
「ま、まあいい……それより確認しておきたいんだが、何でお前がここにいる?」
炎眼はルイーザと対立していた。それ故にセラン達とも戦いになったのだ。
「あら、ご挨拶ね。私はルイーザ様に忠誠を誓っているのよ。それに今の居場所を知らせたのは、この私よ?」
「意外だな、お前みたいなタイプは真っ先に新魔王に尻尾を振ると思ったんだが」
忠義というものを感じられない、と遠慮容赦なしに言うセランだが、当の炎眼も悪びれずに答える。
「勿論そうしたのよ……向こうは私のことを相手にもしなかったけどね」
そのときのことを思い出したのか、炎眼は面白くなさそうに呟く。
炎眼は元は好戦派だったのに、三腕や雷息が死んでバランスが崩れそうになるとあっさり鞍替えして、ルイーザにすり寄った過去がある。
今回もそうしようとしたが、結果は芳しくなく、新魔王に会うことすらできなかったらしい。
「要するに炎眼はやりすぎた。裏切りが過ぎたのだ。今更新魔王についたところで重く用いられることはない。一か八かルイーザ様につくしかないということだ」
ユーリガが辛辣にそう言っても、炎眼は否定しなかった。
「まあそういうことよ、少なくともルイーザ様は正当な評価をしてくれるわ。正直なところ賭けだけど、そこまで分が悪いとも思ってないのよね」
その物言いにユーリガは眉をひそめるが、とりあえず有力な味方であるので黙っている。
「とにかく私のことは信じられないだろうけど、それでいいのよ。利害関係の一致している協力者、そう思ってくれればいいわ……それよりも、事情を抱えているのはむしろそっちじゃない?」
炎眼は、先ほどから黙って事の成り行きを見ているだけのイルメラに意味ありげな眼を向けてから、ユーリガに言う。
「あれ、確かドラゴンよね。何でいるのかしら?」
クリート達には聞こえないような小声での問い。むしろそっちが信頼できない、そう含ませていた。
イルメラはあくまでジュバースの真意を確かめるために同行しているので、それ以外の、魔族の内部事情に関わるつもりはない。
しかし黒翼に味方するドラゴンがいる中、もしクリート達にドラゴンであると知られれば、いらぬ誤解と混乱を招く。だから正体は隠しておこうと、ユーリガとイルメラの間で事前に取り決めていた。
だが炎眼は以前、人化したイルメラを見ているため、目ざとく見抜いたのだ。
「……いいわ、貸しにしておいてあげる」
ユーリガが返答に窮していると、炎眼はそう言って話を打ち切る。黙っていてやるから恩に着ろ、そう言いたげだった。
「聞いておきたいことがある。ジュ……いや、その魔王に手を貸しているドラゴンがどこにいるかは解っているか?」
炎眼の視線に気付いたのか、それまで黙っていたイルメラがここで口を挟む。
「そうね、噂だけど、新魔王が入城する際に人族の老人が一人混じっていたそうよ。ドラゴンが人化できるなんて知ってる魔族はほとんどいないはずだから、気付かれなかったかもだけど」
「そうか……」
それきりイルメラは思いつめたように考え込んで黙ってしまう。
「それと、ルイーザ様の救出に向かうのならできる限り急いだ方がいいわ。あの黒翼……いえ新魔王はね」
炎眼が少し顔を引き締めて言う。
「支持が充分に集まり次第、時期を見て人族に総攻撃を仕掛けると明言しているわ」
「それは……」
ウルザが絶句し、リーゼなどは蒼白になっている。
総攻撃。それはカイルが最も懸念していた『大侵攻』に他ならない。
実際に体験していないリーゼ達には想像しかできないが、地獄のような光景になることだけは解っている。
「で、今までのルイーザ様の方針に不満を持っている連中は新魔王を支持しているわ。ドラゴンの力を借りたということを差し引いてもね……結構多いのよねぇ」
「多い? 全員じゃないのか?」
ウルザが疑問の声を上げる。
魔族であれば人族との戦いは望むところで、最悪、魔族全体がすぐさま従うのではないかとすら彼女は思っていたのだ。
長寿のエルフであるウルザは親世代が魔族と交戦しているため、魔族の脅威を聞かされている。だからこそ、その反応に違和感を覚えた。
「ルイーザ様の試みは、少しずつだが確実に実を結んでいた。今はまだ一部でも、人族との融和を本気で望んでいる者もいる」
ユーリガは己の主が成してきたことを誇るかのように言う。
他にすることがない、と言わんばかりに惰性で続けていたルイーザの人族との融和策は、確実に実を結んでいた。
現にここにいる魔族達は、セラン達に対して色々思うところはあるにしても明確な敵意は持っていないようで、文句を言いつつも人族の助力を受け入れている。
名前を呼ばれることにもそれほど忌避感がないようであり、これこそが三百年に及ぶルイーザの活動の成果なのだろう。
「……やっぱり必要だな」
誰にも聞かれないような小声で呟くセラン。もしこの場にカイルがいたとしたら、同じ感想を漏らしただろう。
正直なところ、セランはルイーザの救出を難しいと考えていた。無論、できれば助けたいが、犠牲を払ってでもというほどではなかった。少なくとも、今までは。
だが、何としてでも助けなければならない理由が出来た。今やルイーザの存在は絶対に必要だった。
「ただ魔王……いえ、ルイーザ様を殺さないのは妙なのよね。勿論あの方を殺すのは手間なんてものじゃないけど、生かしておく理由はないはずなのに」
「……何か利用目的があるってことだろうな」
カイルから事情を聞いていたセランはその利用目的についても推察できたのだが、ここでは口にできない。
「で、実際のところどうなんだ? この戦力で城に囚われたルイーザを助けられるのか?」
セランは誤魔化すつもりでもなく、率直に現状で一番の問題を口にする。
「それは……城にいる魔族はそう多くないし、私は城の中についても詳しい。だが……」
ユーリガは言葉を濁す。
戦って倒すのではなく、あくまで助け出すことが目的だ。この人数でも不可能とは言わないが、難しいといったところなのだろう。
「確かに戦力不足だ……だからといって時間もないか」
時間は完全に黒翼側の味方だ。現在は混乱と動揺があるため、明確な態度をとっている魔族は少ないが、それも次第に収まっていくだろう。
「魔族のことはよく解らないけど、日和見している人はいるんでしょう? その中で味方にできそうな人はいないの?」
リーゼのもっともな指摘にユーリガは考え込むが、心当たりはなさそうだった。
「そうね、一人いいのがいるわ。能力的にも今回の救出に役立ちそうな奴で、引きこもっている場所もここから城に向かう途中にあるし、好都合ね」
だが、炎眼には思い当たる人物がいるようだ。
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