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四章 椿蓮
九十二話 魔王と剣
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額の汗を拭い、剣を握り直した。すっかり錆び付いた鉄の扉の隙間に剣を食い込ませ、慎重に扉を開く。
何か緊急事態があると、囚人用の運動所に集まるよう指示が出されるはずだ。誰かがちゃんと覚えていればの話だが。
「早く…、時間が…!」
魔王軍が来てるかもしれないのだ。この地形を知っている者も少なくはない。早く…
僅かに出来た隙間に指と足先を入れ、力いっぱい引くと、落ちる錆のかすと共に開いてく。
そして体を滑り込ませ、内側へ入った。
………明るい?
「撃て!!」
扉から足を抜き、目が内側を見る前に大きな鉄の槍が僕の耳を潰し、後頭部をえぐった。
「…っ!! なっ」
鉄の扉に刺さる無数の槍の振動が、触れた足から直に伝わるが、すぐに意識か飛ぶような痛みにかき消された。
「回復するから早くトドメを!」
そう微かに聞こえた後、少し槍の勢いが弱まった。
伸ばした手は先から数秒もかからずに、穴の空いた部分までも塞がってゆく。片手で身体を扉の後ろへ押し込んだ。
槍の音は止み、代わりに足音が聞こえてくる。身体は殆ど回復していた。
もたれかかった扉に、太い指がかけられ、頭のさきが見えた。
「舐めるなよ…」
剣を振り上げ、脳天からその頭を顎にかけて振り下ろした。振り下ろしてくと同時に、指はすっかり元に戻り、剣を握る手に力が入った。
ちょうど一年前、王になる事が決定した僕に次代王の冠が渡される、先継承式が行われた。
顔見知りの家臣を始め、知らない街の領主まで沢山の人が手を叩き、僕に微笑みかけた。
しかしそれが終わると、すぐにみんなの顔から笑顔は消え、苦虫を噛み潰したような顔をした人が僕の前に並んだ。そしてこう言う。
「10代国王、ミスト様は楽園へ行くことになっています」
楽園と言えば誰もの憧れ。こんな顔で言われるなど想像も出来なかった。僕は瞳を輝かせ、嬉しいと言った。
しかしそれでも皆は何か後ろめたいことがあるのか、目を伏せ、眉をひそめた。
その理由はすぐにお父さんより伝えられた。
以前は、窓から国民を見下ろす度、これが僕の守る人達なのだと腹の奥から湧き上がる高揚感でいっぱいになった。これを聞くまでは。
窓から見える人の笑顔が見える度太い針を突き刺されたような罪悪感に襲われる。
耐えきれず、王の魅力を抑えて継承を止めたいとお父さんに言った。
「そうか」
と、案外あっさりと言った。こう言ってくるのを分かっていたのか、机の上にあった古びた書類を僕の前に出した。
「時間がないんだ」
「時間?」
「ここを見てくれ」
そう言って指さした箇所には、最近のものらしいインクでラインが引かれていた。
「この日付…」
「ああ、あと1年もない」
何か緊急事態があると、囚人用の運動所に集まるよう指示が出されるはずだ。誰かがちゃんと覚えていればの話だが。
「早く…、時間が…!」
魔王軍が来てるかもしれないのだ。この地形を知っている者も少なくはない。早く…
僅かに出来た隙間に指と足先を入れ、力いっぱい引くと、落ちる錆のかすと共に開いてく。
そして体を滑り込ませ、内側へ入った。
………明るい?
「撃て!!」
扉から足を抜き、目が内側を見る前に大きな鉄の槍が僕の耳を潰し、後頭部をえぐった。
「…っ!! なっ」
鉄の扉に刺さる無数の槍の振動が、触れた足から直に伝わるが、すぐに意識か飛ぶような痛みにかき消された。
「回復するから早くトドメを!」
そう微かに聞こえた後、少し槍の勢いが弱まった。
伸ばした手は先から数秒もかからずに、穴の空いた部分までも塞がってゆく。片手で身体を扉の後ろへ押し込んだ。
槍の音は止み、代わりに足音が聞こえてくる。身体は殆ど回復していた。
もたれかかった扉に、太い指がかけられ、頭のさきが見えた。
「舐めるなよ…」
剣を振り上げ、脳天からその頭を顎にかけて振り下ろした。振り下ろしてくと同時に、指はすっかり元に戻り、剣を握る手に力が入った。
ちょうど一年前、王になる事が決定した僕に次代王の冠が渡される、先継承式が行われた。
顔見知りの家臣を始め、知らない街の領主まで沢山の人が手を叩き、僕に微笑みかけた。
しかしそれが終わると、すぐにみんなの顔から笑顔は消え、苦虫を噛み潰したような顔をした人が僕の前に並んだ。そしてこう言う。
「10代国王、ミスト様は楽園へ行くことになっています」
楽園と言えば誰もの憧れ。こんな顔で言われるなど想像も出来なかった。僕は瞳を輝かせ、嬉しいと言った。
しかしそれでも皆は何か後ろめたいことがあるのか、目を伏せ、眉をひそめた。
その理由はすぐにお父さんより伝えられた。
以前は、窓から国民を見下ろす度、これが僕の守る人達なのだと腹の奥から湧き上がる高揚感でいっぱいになった。これを聞くまでは。
窓から見える人の笑顔が見える度太い針を突き刺されたような罪悪感に襲われる。
耐えきれず、王の魅力を抑えて継承を止めたいとお父さんに言った。
「そうか」
と、案外あっさりと言った。こう言ってくるのを分かっていたのか、机の上にあった古びた書類を僕の前に出した。
「時間がないんだ」
「時間?」
「ここを見てくれ」
そう言って指さした箇所には、最近のものらしいインクでラインが引かれていた。
「この日付…」
「ああ、あと1年もない」
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