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「お、小川さんっ!」
「あ、ごめん!痛かった?」
「い、いえ」
「…だいじょーぶ?」
「…っ、ありがとう、ございます」



「なにが?」って顔しながら優しく微笑んでくれる小川さんに、救われる。
苦しくて、逃げ出したくて仕方なかったあの場所から、救い出してくれた。
理由も聞かないで、きっと訳わからないだろうに、ただ僕の表情見て救い出してくれた。



「…ほんとにデートしよっか?」
「、え?」
「ふふ。今日バイト休みでしょ?」
「そ、う、ですけど…小川さん勉強は…」
「息抜き息抜き」
「…ふふっ」



優しくて、暖かくて、心が満たされる感じがして。
確かにまだ、友哉のことは好き。
でも、以前よりは好きじゃない。でもやっぱりまだ会うのは辛いし苦しい。
でも小川さんといると、そんな考えがなくなってくる。
多分、小川さんのことは好き。でも、まだ友哉を少しでも好きな気持ちがある今は、この気持ちに気づかないことにする。
こんなに優しい人に対して、失礼なことはしたくない。
ちゃんと、自分の中でケジメをつけてから、心から好きになりたい。そう思ってる。




◇◆◇




小川さんに救い出してもらってから1ヶ月後のこと。
その間に、友哉とも晴人とも会うこともなく、連絡も取ることもなく、穏やかに過ごしてる。
放課後に、図書室で小川さんと勉強したり、バイトしたり。

あれから小川さんとは頻繁に連絡を取るようになった。
他愛もない会話から、息抜きのための買い物に付き合ったり、色々。
友哉のことは、少しづついい思い出にし始めてる。
3人でお揃いで買った物とか、写真とか、それらを処分は出来ないけど、思い出として押し入れの奥の方に仕舞い込んだ。



「ゆうきー」
「…伊織さん!」
「かえろー」
「はい」



小川さんとは、気づいたら名前で呼び合う仲になったけど、それだけ。
何かあるとかは、一切ない。ただの先輩と後輩の関係のまま。



「伊織さんは、S大行くんですよね?」
「うん、そう」
「難しそうですか?」
「どうだろなぁ。そこまで難関大ではないからいつも通り頑張ればいけると思う」
「そうなんですね」
「ゆうきもくる?」
「え?」
「ゆうきもくるなら、俺。頑張るよ」
「え?」
「…ねぇ、ゆうき」
「、はい」
「…好きだよ」
「っ…!」
「ふふ。気づかなかった?」
「は、い…」
「ふふっ。そっかぁ。俺、わかりやすく接してたんだけどなぁ」
「………っ」



待って。待って待って待って待って!
え、このタイミング?こんな…普通のタイミングで、告白って…されるの?
確かに、優しくしてくれたり、他の人に見せるような顔じゃない時もあったけど…でも…このタイミング?



「ゆうきは?」
「えっ?」
「ゆうきは、俺のこと好き?」
「ぇ、あ…、あの…」
「それとも、まだ幼馴染くんが、好き?」
「え?」



なんで、知ってるの…?
僕が彼のこと好きだって…。



「俺ね、ゆうきが入学してきた時からゆうきのこと知ってたんだよ」
「へ?」
「まぁ、一目惚れ?みたいな」
「う、そ…」
「ほんと。入学式の時、体育館裏の桜の木の前で泣いてたでしょ?」
「っ!」
「その時にたまたまゆうき見て、キレイな涙流す子だなぁって」
「………」
「それからずっと気になってた」
「伊織さん…、」
「で、コンビニでバイトしてたらゆうききて、運命じゃない?!なんて思っちゃって」
「………」
「そしたらなんか、緊張しちゃって。上手く話せなくて」
「………」
「だから最初、そっけなかったんだよね」
「…人見知り、じゃなかったんですか」
「ふふ。うん。人見知りじゃない。あれただの緊張」
「っ、ふふ」



ああ…好きだ。僕、伊織さんが好きだ。
屈託なく笑った顔が好きだ。
柔らかくて、優しい喋り方が好きだ。
どうしよう…好きが止まらない。



「ゆうきを目で追うようになってさ、ゆうきが、幼馴染くんのこと好きなのもわかっちゃってたんだよね」
「…はい」
「でもさ、好きの気持ち抑えること出来なくて。どうしたら俺のこと見てくれるか必死で」
「………」
「とりあえず仲良くなろうと思って、ゆうきと同じ曜日にバイト入れて、同じ時間に上がれるようにしたりして。もう必死」
「ふふっ、」
「少しずつ俺のこと意識してもらうようにして、幼馴染くんなんかより俺の方がいいよ!って必死で」
「………」
「そしたらさ、あの日…廊下で2人一緒のところ見ちゃって」
「………」
「もう、心臓がやばいくらいドクドクしてて。取られてたまるか!て思って声かけたら泣きそうな顔してて」
「っ……」
「もう、その顔見ちゃったら早く連れ出したくなってた」



そっか。あの時、そんな風に思ってくれてたんだ。
どうしよう…うれしい。



「…伊織さん」
「うん?」
「…っ、すきです」
「………」
「、確かに…彼のことが好きだったんです」
「、うん」
「子供の頃からずっと一緒で、自然の流れで好きになって」
「うん」
「でも、彼には他に好きな人がいて」
「うん」



苦しかった。辛かった。なんで僕じゃないのって何度も思った。
僕の方が好きなのに。僕の方がずっと近くにいたのに。
でも彼は、違う人を好きになった。
それはきっと、僕が彼を好きになるのと同じ理由で、彼のそばにはカレがいて。自然と好きになったんだと思う。

こんな思いするならもう恋なんかしたくない。好きな人なんか作りたくないって思った。
でも、伊織さんと接してると、心が穏やかになるし、伊織さんの声聞いてると、安心するようになって。
ああ…好きなんだなって。でも、彼のことも吹っ切れてないのに告白なんか出来ないし、しちゃいけないと思ってた。



「っ、でも」
「うん?」
「…でも、伊織さんと話してると、こうやって顔を合わせてると…好きの気持ちが大きくなっていって」
「…うん」
「っ、好きっ、なんです」
「うん」
「いおり、さんがっ…すきです…っ」
「うん…うん。ありがと、優樹」
「ひっ、ぅ…」
「俺も、大好きだよ」



ただ、優しく抱きしめてくれる伊織さんがそこにいて、僕は泣くしか出来なくて。
ああ…暖かい。伊織さんの腕の中は落ち着く。暖かい。しあわせ。



「ゆうき」
「っ…?」
「ちゅーしよっか?」
「っ、!」



伊織さんとする、初めてのキスは、とても優しくて穏やかで、ただただしあわせだと感じるキスだった。



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