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06 - END -

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「っ、優樹!!」



その時、正面から名前を呼ばれて顔を上げたら、今一番会いたい人がそこにいた。



「っ、いおりさん…伊織さんっ!!」
「優樹…だいじょーぶ?」
「ひっ、ぐ…っいおりさんっ、なんでっ…?」
「予備校、今日休みになったから、優樹に会いたくて、迎えにきた」
「っ、ひぅっ…うぅーっ」
「どーした?なにかあった?」
「ぼく、ぼくっ…」
「うん?」
「ぼくっ…すきに、なりたくなかったっ!」
「………」
「そ、したら…っ、ともだちの、ままだった、のにっ」
「うん、」
「こん、なっ、みじめなおもい、っしなかったのに」
「うん、」
「ぼく、ぼくのせいでっ…、ぼ、くがっ、すきに、なった、せいで…っ」
「優樹、それはちがうよ」
「っ、」
「優樹のせいじゃないよ」



伊織さんは、ただただ優しく抱きしめてくれて、背中を撫でてくれて、優しい声で、僕の心を溶かしていく。



「あの日、あの入学式の時に、優樹が泣いてなかったら、俺たちは出会えなかったんだよ」
「っ……」
「優樹が、幼馴染くんのことが好きだったから、俺は優樹に出会えたんだよ」
「………」
「だから、その気持ち否定しないで?」
「…ひっ、ぅ」
「優樹、好きだよ」
「いお、りさっ…、」
「好きだよ、優樹」
「ぼ、ぼくっも…すき、っです」
「うん」




◇◆◇




あれから一年。
伊織さんは無事に、S大に合格して、僕も無事に、S大に入ることができた。
晴人と友哉とは、一切会うことはなかった。
風の噂で、2人が別れたとは聞いていたけど、もう僕には関係ない。
友哉を好きだったことに、後悔はない。後悔してしまうと、伊織さんと出会ったことも否定することになってしまうから。
きっと、僕が友哉を好きになったのは、伊織さんと出会うための過程だったんだ、と思うようになった。



「ゆうきー!」
「伊織さん!」
「会いたかったー!」
「ぅぐっ、」



この4月から、僕は伊織さんと共に同じ大学へ通う。
通うために、大学の近くに引っ越すことにしたんだけど、伊織さんから「一緒に住まない?」と言われ、伊織さんの住むマンションに引っ越すことになった。



「荷物少ないね?」
「はい。あまり物持ってないので」
「ミニマリスト?」
「いえ。無駄なものが嫌いなだけです」
「え、それをミニマリストって言うんじゃないの?」
「ちがいます」
「ちがうんだ?」
「ちがいます」
「ふふ。そっか。ちがうのか」



僕には好きな人がいた。
その人を好きだと気づいた時にはもう遅くて。
好きな人には思い人がいた。
苦しくて、つらくて、悲しくて。
そんな思いを溶かしてくれた人がいる。
それが、今僕が大好きな人。僕の、好きな人。




END
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