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「うーん。もうちょっとビターでもいいかもな」
「わかりました」




結城との色々があった日から早いもので一ヶ月。
年も明けて、お正月の雰囲気も終わり、いつも通りの日常が戻ってきていた。
そんな中、俺は大貫さんに俺の作ったケーキの試作を食べてもらって、意見を聞いていた。
難しい。難しすぎる。
ちょっとの差で味が変わるし出来も変わる。でもこれが楽しい。だからやめられない。



結城とは、あれからもちょくちょく連絡は取ってる。
お互いに忙しくてあまり会うことは出来ないけど、会う時は大体あの、喫茶店。
気づいたら結城も常連になってた。

そうそう。咲ちゃんと結城も会ったんだ。
二人は高校の時は全然話もしたことなくて、咲ちゃんが一方的に結城のこと知ってて。
初めて二人を会わせた時、結城の顔怖かったな。
「なんで女連れてんの?」って顔してて。
俺が、咲ちゃんを「親友」って紹介したら疑いながら納得して。
でもその後、咲ちゃんと話して本当に俺と親友なことがわかったのか、咲ちゃんにも心開いてくれて良かったって安心した。

咲ちゃんには、結城から告白されたことは言ってない。
初めてかも知れない。咲ちゃんに内緒にしてるの。
なんか、言っていいのか迷うと言うか…付き合うにしてもそうでなくても、全て解決してから咲ちゃんに言いたいと言うか。
まあ、俺のわがままだよな。




「あ、そうだ、雅弥」
「え、はい?」
「あの、彼は元気か?」
「彼?」
「お前の同級生の」
「ああ。結城ですか?」
「そうそう!結城くん!」
「あんま会えてないですけど、元気だと思いますよ?」
「そっかそっか。お前も恋してんだな」
「……はぁっ?!」
「え、違うのか?」
「ちちちちっ、違いますよ?!と、友達です!」
「イブに会ってたのに?」
「そっ!れは…、」




待って。大貫さん何を言い出す?!
てか、もし仮に付き合ってたとしても、そんな普通に受け入れるものなの?!
男同士だよ?嫌悪感とかないの?!




「嫌悪感なんかあるかよ」
「え?」
「好き同士に性別なんか関係ねぇよ」
「大貫さん…」
「ここだけの話、茉莉絵の恋人誰か知ってるか?」
「い、いえ…」
「あいつの恋人、高校の同級生」
「………あ、れ?茉莉絵ちゃんって女子校」
「そう」
「…え?!」




うそ……うそぉっ?!
あー、そうだったのか。そっか。だからこんなに理解があるのか…いやでもだからって…あの、ねぇ?




「結城くんは、雅弥のこと好きなんだろ?」
「…なぜ、」
「そんなの見てればわかる」
「え?」
「結城くんのお前を見る目は、愛がある」
「っ…、」
「ずっと好きだって目で言ってるように見えるんだよ」
「……、」




それは、わかってる。
メールでも電話でも、結城からの「好き」が溢れてるし、会えば必ず手を繋いで、別れ際はぎゅってされて、耳元で「好き」って言われて。
でも、目でも言ってるとは思わなかった。
うわぁ…恥ずかし過ぎてやばい。穴があったら入りたい気分。




「ちゃんと考えてやれよ?」
「っ、はい」




理解があるのはありがたい。ありがたいけど恥ずかしい。

正直この数日、結城と過ごしてて、心が落ち着くし、安らぐし、楽しいなと思ってる。
ずっと一緒にいられたら、本当にしあわせだろうなぁとも思う。

でも、思ってた以上にあいつのことがトラウマになってるみたいで。
付き合っても、もしまた女の人の方がいいとなったら?そうでなくても結城はモテるだろうから、俺に飽きたら?
そうなったら、俺はもう絶対に戻ってこれない。
だから、結城に答えをあげられてない。

なら断ればいいと思うけど、断って結城との関係をなくすなんてことも出来なくて。

結局また、自分が傷つくのが怖いだけなんだ。
結局また、逃げてるだけなんだ。




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