【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

文字の大きさ
6 / 325

第6話 国王死す

しおりを挟む
国王は自室の大きなベッドに寝ていた。腹に血の滲んだ包帯が巻いてある。

「ジェリー様! オスカー様を連れてきましたぞ!」

ラムレスは今にも泣きそうな声だった。

国王はまだ若く、50代には届いていないように見える。やつれた青い顔をしているが、しかし、

長い髪と髭、目じりのシワに王の威厳が見られた。王はゆっくりと目を開けた。

「お、お父様?」

何と言っていいか分からないがとりあえず無難な言葉を選んでみた。

「……来たか、オスカー。なんと運のいい奴。見ての通り……私には時間がない。

正式な身分のない……落とし子のお前が、この国の王になるなぞ、先代の王達に顔が立たぬが……

こうなってしまったら仕方のない事……。せいぜい足掻いてみせよ。

……お前の顔を見るとあの忌々しい女の顔が目に浮かぶわ。もうよい、下がれ。……ラムレス!」

なるほど。俺はそういう立ち位置ね。

城の者たちは、そんな言葉を聞かされても戸惑うばかりだ。

王はラムレスさんとしばらく喋り、「……皆の者……任せたぞ……」と言い、息を引き取った。

俺への言葉は無かった。

こちらも人格が違うから少しも悲しみの感情が湧いてこない。

王の立場にしてみると奥さんも子供も死んで、予想していない死の訪れに、

納得できない憤りがあるのかもしれない。何でこうなったか知らないから何とも言えないけど。

でも……無念だろうな。

後ろからはすすり泣く声が聞こえる。俺には冷たかったけど、

それなりにいい王だったみたいだ。


俺はその後、王の間に連れてこられた。

王の間と言ってもそんなに広くない部屋だ。おまけに暗いし寒いし埃っぽい。

広さは四人テーブルが十個ほど置けるだろうか、小さなレストランくらいしかない。

王座や絨毯、装飾品などは流石に高価そうだが、なんだか全てが古くてボロかった。

「ジェリー様が亡くなってすぐですが、オスカー様にはこの国の内政を進めて頂きたいのです。

こんなことは前代未聞ですが、ジェリー様は自らの葬儀よりも、この国とオスカー様の方を優先せよと仰いました。

ジェリー様はここ2週間ほど怪我で寝込まれていましたので、

王の署名が必要な書類が溜まってしまっているのです。これらを解決しないと国が傾いてしまいます」

王の間の円卓には書類が山積みになっていた。

「あ、その前にこの者共を紹介致します。

まず我がキトゥルセン王国軍の総大将、バルバレス・エメリア将軍」

一番近くの席に座っていたスキンヘッドの大男がこちらを向いた。

岩のような筋肉を纏い、赤とオレンジのマント、腰には大剣。

くそ寒いのにマントの下は裸って。

うん、ずっと気にはなってたよ、君の事。

ヘビー級の総合格闘技に出てなかった? 

人類最強の男とか言われてなかった?

そんなじっくりと見ないで……むっちゃ怖い。

「……王位継承、おめでとうございます。……必ずや期待に沿える働きを約束致します」

「あ、はい、こちらこそ……」

あれ、その感じ……俺がこの席にいる事を快く思ってないでしょ。

いや、まぁ分かるけどさ。

こりゃあ時間がかかりそうだ。

「続いて医術師長のモルト・ラックジャック」

バルバレスの隣に座っている黒い長髪の男が頭を下げた。

顔に大きな縫い傷があり、目つきが悪い。

でも無駄にイケメン! 根暗イケメンおじさん!

ていうか、法外な金額吹っ掛けてこないでね!

「お身体が優れない時はお任せください」

「よろしくおねがいします」

「最後は、財務大臣のギル・リエモ…………ギル殿!」

ラムレスの声に小太りのおじさんが書類に書きこむ手を止めた。

「ああ、私ギル・リエモンと申します。

オスカー様には今年中にとりあえず財政赤字を無くして頂きたいと願っております」

「あ、はあ……了解です」

はねっかえりの強そうな顔で睨んでから、すぐにギルは書類に目を落とした。

えーと球団買収とかしませんでした? 証券取引法でしょっ引かれませんでした? 

「他の者は葬儀の準備で出席できません。まず、オスカー様には我らが故郷、

このキトゥルセン王国の細部まで知っておいて貰わなければなりません!

それからこの書類の山を片付けましょうぞ!」

ラムレスさんの下あごがぷるんと揺れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...