【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第2章 

第59話 ケモズ共和国攻略編 古代遺跡のダンジョン

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目の前に豹人族の女がいる。覚醒した狂戦士モードの獣人だ。

周りにはキャディッシュ、リンギオ、クロエ、ユウリナが倒れている。

合流するはずの護衛兵団とはまだ出会えていない。

額から血がどくどくと流れ出ている。視界も霞む。

「待て! 話を聞いてくれ!」

非常にまずい状況だ。

まったく……どうしてこうなった?

「私のォォォ邪魔をォォ……するなァァァッッ!!!」

豹人族の女はとんでもない速さで向かってきた。

「くそっ!」

フラレウムを水平に構え、俺は豹人に向け炎蛇を発動した。



一日前。

避難した王族に会うため、

俺はカカラルにクロエと護衛隊長のダカユキーを乗せ、シギロに向かった。

ケモズ共和国、王都から東に山を下ったところにある町だ。

道中、キャディッシュはクロエがいい! と文句を言いながらもリンギオを運んだ。

ルガクトたちも一緒だ。

陸路で行ったら三日かかる所を、空路なら2時間半だ。

改めて、空飛べるってスゴイ。

ちなみに30人の護衛兵団とユウリナは、地下ダンジョン前に下ろしてきた。



案内された場所は町長の館だった。

避難したばかりで、敷地や道路のあちこちに軍のテントが張ってある。

周囲は騒々しかった。

「……羊人族が多いんだな」

「元々羊人族が中心となって作られた国だからな。

辺境には牛人族や狼人族の村もある」

意外にも詳しかったのはリンギオだ。

獣人の知り合いがいるらしい。

館の大部屋は臨時の執政室になっており、各種族の代表たちがひしめき合っていた。

王は一番奥にいた。

オスカー達が入っていくと、人々が二つに割れた。

「来た……」

「あれがキトゥルセンの王か?」

「馬鹿、王子だ」

「炎を操るって本当か?」

「あの女……足が……」

「有翼人なんて初めて見たぞ……」

ざわつく声を尻目に、オスカー一行は奥に進んだ。

臨時の王座には羊人族の族長でケモズ共和国の国王、ウテル・レニブが座っている。

「よくぞ来てくれました。オスカー王子。

友好条約を結んでいないにも関わらず、救援要請を出してしまったこと、

誠に恥ずかしく思っております……。

しかし、我々には他に頼るお方がいなかったのです。お助けいただき感謝しております」

モコモコの白いひげを携えた、人のよさそうな国王だ。

耳の後ろには羊人族特有の巻き角があり、王冠を被っている。

大変だったのだろう、だいぶやつれて見えた。

「初めまして。オスカー・キトゥルセンと申します。

魔物と聞けば黙っていられません。

小規模ならいざ知れず、これだけ大規模になれば我が国にも影響が出るでしょう。

もはや一国の問題でもありません。力を合わせて解決しましょう。

そして、これを機に両国に絆が出来れば幸いです」

「……ありがたいお言葉です。あなたはとても15歳に見えませんな。

お父様の容態はどうですか?」

「……変わらずです」

「……そうですか。よろしくお伝え下さい」

父、ジェリー前国王は表向きには生きている事になっている。

仮想敵国にとって政権交代時は絶好の攻め時だからだ。

「……本題に入りましょう。魔物は、丘の上の地下遺跡……ダンジョンから出てきたと思われます。

ここは以前から立ち入り禁止にしていました。

かなり深く広大で、今まで何人もの行方不明者が出ています」

「そのようですね。けど、急に大量の魔物が出てくるのは妙です。

以前にも魔物の発生があったなら話は別ですが……」

「今まで我が国に魔物はいませんでした。

長年眠っていたのか、それともダンジョンの入口はあそこだけではないのか……」

俺はここに来る前、上空から千里眼でダンジョン内部を透視していた。

最深部が洞窟と繋がっている事は、ここでは言えない。

千里眼の能力は誰にも言わないことに決めているからだ。

どこから来た魔物なのか、それは俺にも分からなかった。

ダルク? いや、距離があり過ぎるし、国内を移動するなら軍が見つけるはずだ。

ザサウスニアから来たのであれば、ザサウスニア国内にも腐樹があるという事か。

〝ラウラスの影〟に探らせておこう。

「目撃者によると、下半身が蜘蛛の女の魔物がいると聞きました」

「ええ、どうも親玉らしい動きをしていたと報告がありました」

「討伐報告がいまだ無いところを見ると、ダンジョン内に戻ったのかもしれません。

ダンジョンには討伐隊を入れるとして……

レニブ城と城下町は現在我が軍200の兵が、グールを駆除中です」

「ありがとうございます。我が軍はこの町に集結中です。

おそらく400ほどは集まるでしょう。

ただ軍と言っても貴国のように規律あるものではなく、

各部族の戦士団の集まりですので、どうしても時間がかかってしまい……」

ウテル王は頭に手をやった。きっと種族間で様々な厄介事があるのだろう。

今の言い方としぐさで普段の苦労が垣間見えた。

「いえ、充分です。グールはこちら側に流れて来ています。

ウテル王の軍は手前の森に布陣して下さい。

そして駆除しながらレニブ城に進軍。我が軍と合流して下さい。

ここには有翼人30名をつけましょう」

横のルガクトが「お任せを」と頷いた。

「分かりました。オスカー殿はここから軍の指揮を?」

「いえ、私はダンジョン討伐隊を指揮します」

「何と! 王子自ら行くというのですか?」

「私にはこの魔剣があります。これは……強大な力です。

私が動けば、死ぬはずだった兵が少しは助かるでしょう?」

「何と……勇ましいお方だ」

「力を持つ者にはそれ相応の責任が生まれると考えています。

私はただその責務を果たすだけです」

ちょっといいこと言い過ぎかな? 

……いや、恩を売っていい奴に見られるに越したことはない。

まぁ本心でもあるしな。

ウテル王は口を半開きにして感心していた。

「……このウテル・レニブ。あなたと出会えて光栄の極みです。

……信頼できる友人と見込んで、一つお願いがあるのですが……」

「何でしょう? 何でも言って下さい」

「私の長女、アーキャリーが魔物に攫われました。他の数名と一緒に……」

ウテル王は目を硬く瞑った。辛そうだ。

「城の者が目撃したそうです。おそらくダンジョン内に連れて帰ったのでしょう。

望みは薄いでしょうが、もし可能であれば救助を願いたい」

「了解です」

「我々も独自に〝十牙〟を送り込んだのですが……まだ帰ってきておりません」

「十牙?」

「ああ、失礼。戦闘が得意な狼人族や豹人族の部隊です。

選ばれた優秀な戦士たちだったのですが……」

「分かりました。その部隊も探しましょう」

町長の館を出て、俺はすぐに脳内チップ経由でユウリナに連絡を入れた。



同時刻、ダンジョン前にはもっちゃもっちゃと骨付き生肉を喰らうユウリナがいた。

『何ヨ、オスカー。エ? 生存者? チョット待ッテ』

ユウリナは腹部の外装を開けた。

そこから、3cmほどの蜂が50匹ほど舞い上がった。

ユウリナの外装と同じく、くすんだ金色をしている。

『今、〝蜂〟ヲ放シテル。……〝蜂〟ヨ! ハ、チ!! ……モウ、通信状態ガ悪イワ……』

機械蜂はダンジョンに入っていった。

やがてユウリナの視界にはダンジョンのマップが作成されていく。

『アラ? 地下遺跡ジャナイ?……コレハ昔ノ飛行船ダワ……』
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