【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第197話 ジョルテシア連邦編 襲撃者

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壁が崩れて粉塵が舞い、二つの影が揺らめく。



姿を現したのは【千夜の騎士団】クガとハイガーだった。



「会議中に失礼します。ちょっとお命頂きに参りました」



魔剣を持ったクガが微笑を浮かべ軽く会釈する。



「ハイガー、貴様……!」



「また会ったな、ルガクト……」



「【千夜の騎士団】……!」



ルガクトとネネルは同時に飛び出した。



その瞬間、ネネルはとてつもない力で地面に叩きつけられた。



「なっ……うぐぐっ……!」



ルガクトとハイガーが衝突した時、



おもむろにカフカスが立ち上がった。



カフカスの手はネネルに向けられていた。



「カフカス議長……何をしている!」



驚くパラス国王にカフカスは落ち着き払った態度で目を向けた。



「申し訳ないの、国王。そしてネネルも。



わしの思想と【千夜の騎士団】の思想が近くてな。



紆余曲折あって協力することになったんじゃ……」



「そんな……カフカス議長が裏切るなんて……」



セトゥ将軍も国王も絶望の表情だ。



「そういうことか……」



宰相のザンは小さく呟き、誰にも気づかれないようにほくそ笑んだ。



「な……なんで……カフ……カスさん……



なにが……あったの……」



ネネルの周りの椅子や床もミシミシ音を立てていた。



重力を操る魔人であるカフカスは、



この国の英雄であった。



「ネネル……説明しても理解できん。



一つ言えることは、お主の知らぬわしもいるということよ……」



剣と剣が狂暴な音を放つ。ハイガーとルガクトだ。



「まっ、そういったことでカフカスさんはこっち側なんです」



クガは快活にそう言うと魔剣を国王に向けた。



「お疲れさまでした」



耳鳴りのような音がしたかと思うと国王とその周りの床やイスが、



歪み、細かく振動し、そして一斉に弾けた。



一帯はミンチ肉をぶちまけたような有様になった。



「あ……」



あまりのあっけなさにセトゥ将軍は反応できなかった。



「お次はあなたたちです」



「ちょ……待ってく……」



剣先を向けられたギャインと補佐役の2名は、



逃げる間もなくパラス王の後を追った。



瞬時に液体になった3人は、



バラバラになった椅子と床の木片と混ざった。



「うーん、やっぱいいね、魔剣シェイクルーパ。



仕事の効率が格段に……」



その時、一つの影が反対側の窓を割ってクガに襲い掛かった。



「うわ! びっくりした!」



それはネネルが連れてきた神官だった。



神官はユウリナが修理、改造した保守機械だ。



赤く熱されたヒートブレイドを魔剣で受けたクガは、魔剣の力を解放する。



素早く避けた神官は空気弾を連射、



しかし、空気を振動させるシェイクルーパで相殺された。



四本腕になった神官は四刀流で斬りかかる。



流石のクガもこれには圧倒され、腕を飛ばされた。



「いてて~。ヤバいねこの機械。



キトゥルセンはいいもの持ってるなぁ」



落ちた腕の断面とクガの腕の断面が波打ち、



筋肉の束のようなものが伸びてあっという間に元通りになった。



空気弾、徹甲弾、レーザー、火炎放射、電撃、



ヒートブレイド、機械蜂、



全ての攻撃を食らってもすぐに再生するクガに、



こちらは徐々に打つ手がなくなっていった。



反対に魔剣の力を受け続け、



腕は残り1本、ボディも異音を発し、



神官は限界が来ていた。



「もういいかな。



時間が経てば経つほど僕の方が有利になる。



機械は計算が得意だろ? 分からなかったのかな?」



クガはシェイクルーパで神官を粉々にした。









国王とギャインたちが一瞬で粉砕されたとき、



ルガクトは横目で見てることしか出来なかった。



「おいルガクト、よそ見してるともう片方の腕も斧になっちまうぜ!」



ハイガーは二刀流の剣技でガンガン押してくる。



「くっ! お前ら……一体何が望みだ!」



「俺たちは傭兵だからな、この国の誰かさんに依頼されただけだ。



それとそろそろザヤネを返してもらおうと思ってな」



にやけたハイガーは機械の翼の先端から炎を放った。



「うお!」



視界を奪われた一瞬の隙に、ルガクトは肩を斬られた。



「どうした、ザサウスニアの時より弱くなったな。



いや……俺が強くなったのか」



高笑いするハイガーは続ける。



「あのルレとかいう若者は死んだらしいな。



俺の翼をぶった切ってもらって感謝してたのに……。



おかげで機械化出来たんだ。



俺は唯一無二の存在になれた」



どうだ? と言わんばかりに両手を広げる。



「相変わらずだな、ハイガー。



誰もお前を諭してくれなかったんだな……



あの時は、バカだったが素直な奴だったのに……」



ルガクトは膝を折り、肩の傷に手をやる。



「ほほう、言ってくれるぜ。



お前は誰か守れたのか? フェネは死んじまったようだし、



ペルドス王も死に、腕も無くし、国は吸収され、



新しく仕えた雷魔ネネル大将軍様もあのざまだ。



ルガクトよ、それでいいのかよ?」



見下すように笑うハイガーに



「黙れ!」と翼を羽ばたかせ、猛スピードで斧手を一閃、



胸を斜めに斬りつけた。



「ぐおっ! 今のは危なかったぜ」



血がにじむ傷跡を見ながらもハイガーは楽しそうだった。



「自由気ままに生きてきたお前には分からんだろうさ!



失ったものは、まだ俺の両肩に乗っている!



だから俺は生きていられる!



だから俺は戦えるんだ!」



再び始まった斬り合いは壮絶を極めた。



白い翼はお互いの返り血で徐々に赤く染まっていく。



だが機械の翼を持つハイガーは強かった。



足を斬りつけられ、踏み込みが甘くなったルガクトは一瞬の隙を突かれ、



右目に剣を貰った。



深々と刺さった剣先が抜かれると、勢いよく血が噴き出した。



「ぐああああっっっ!」



「ふふっ、勝負あったな。俺たちの妙な縁もこれまでだ。



フェネによろしくな!」



ハイガーはルガクトを容赦なく斬り捨てた。











「ルガクト……そんな……ルガクト……」



床に重力で押し付けられているネネルは感情が高まりギカク化の兆候が出始めた。



「ぬう、なんて力じゃ……」



カフカスは更に力を加え、重力を増した。



ズンっと圧し潰す力が増え、椅子が壊れ、床がミシミシと湾曲し始める。



「うぅ……あああ……」



背骨がゴキリと鳴るほどの重圧で指一本動かせない。



ネネルは自分から力が抜けていくのを感じた。



魔素をうまく操れず、通常の雷撃すら出せない。



「お疲れ様です、カフカスさん。



雷魔抑えてくれたおかげで楽に仕事出来ました。



あれ……将軍がいない……逃げた?」



クガはきょろきょろと辺りを見回す。



「セトゥ将軍は優秀じゃ。すぐに援軍を率いて戻ってくるじゃろ」



「目を……覚まして、下さい、カフカスさん……」



ネネルは弱々しく懇願する。



「悪いの、大義のためじゃ」



老体ながらもカフカスのその目には、確固たる意思が灯っていた。



「カフカスさんも仮面を脱ぐのに絶好のタイミングでしたね。



まさか自分の国の宰相がウチに依頼してくるなんて」



ザンが恐る恐る近づいてきた。



「ま、まさかカフカス議長がこちら側だったなんて思いもしませんでした。



おかげで上手くいきましたな。



しかし……この……雷魔はどうするおつもりで?」



ザンはネネルに近づくのも怖いといった感じで、距離を取る。



「雷魔はひとまず人質ですね。



囚われた我々の仲間との交換人員に……」



魔剣シェイクルーパを鞘に納める途中で、ふいにクガは窓の外を見た。



「なんだ、何か来るぞ!」



カフカスも異変に気付く。



窓の外には竜巻が迫っていた。
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