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第五章 大陸戦争編
第240話 マルヴァジア沖海戦編 水と氷
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ユレトは船の下の海水にスクリューを作って、
通常では考えられない速度で進む。
故に敵からの遠距離攻撃が当たる可能性は低い。
再度接近、
衝突ギリギリのところで、
船の脇の海上から数十の水の槍が伸びる。
しかし、水槍は一定の距離に近づくと凍ってしまった。
敵の戦場に一際目立つ女が立っている。
あれが氷の魔女、クロエ・ツェツェルレグか。
報告書通り、片足は自らの能力で作りだした義足。
水と氷、平地なら私の方が分が悪い。
けどここは海上。
水はいくらでもある。
私の方が魔素の負担は軽いはず。
海上に手をかざし、海水をせり上げる。
そのまま水の壁を押し出した。
水の壁は大津波となり、
クロエを船ごと襲う。
だがそれも瞬時に凍らされる。
……なんて魔素量。
でも予想通り。
ユレトは大質量の海水で回転刃を作り、
津波の氷壁を砕いた。
そのまま大量の海水で圧し潰そうとしたが、
それも凍らされ逆に砕かれた。
この量でも凍らすか……。
向かってきた破片をユレトは薄い水の膜で防いだ。
クロエと目が合った。
澄ました顔。
それは実戦経験豊富な証拠。
クロエは両手を広げると、周囲の海を凍らせた。
二隻の船を中心に氷の島が出来上がる。
周囲の兵士たちがどよめく。
何て分厚い氷。
流れを変えるか。
「ゴラ、行きなさい」
小さな猿の魔獣がユレトの脇を通り、
船から飛び出た。
氷に着地すると、出来たばかりの氷原を駆けてゆく。
叫び声をあげるとみるみるうちに身体が大きくなった。
5mほどの巨大猿になったゴラは、
敵船の腹に渾身の拳を叩き込んだ。
轟音と共に大きな穴が開く。
敵兵が矢を放つがそんなもの効くわけがない。
その時、何かがゴラに襲い掛かった。
白い人型の獣だ。
どうも狼人族が狂戦士化した姿に似ているが、
魔素を感じる。
ということは敵の魔獣か。
2m半ほどの魔獣はとんでもない速さでゴラを攻撃している。
目線を戻すとクロエが消えていた。
どこに……
そう思ったのとほぼ同じタイミングで、
近くの凍った波しぶきが割れた。
氷の中から現れた……
まさか氷の中を通って……?
「氷吹雪!!」
ユレトは咄嗟に後ろへ飛んだ。
「くっ!!」
氷の粒が掘削機のように全てを粉砕する。
船体が大きく抉れた。
間髪入れず、
クロエは床から鋭利な氷柱をたくさん発生させた。
ユレトは水蛇を作りだし、
その頭に乗って上に逃げた。
しかし水蛇も下から徐々に凍ってゆく。
やはり相性は最悪だ。
船員たちが次々倒れてゆく。
何事かと思ったら敵の有翼人兵が船の周りを飛んでいた。
飛びながら正確に矢を撃ち込んでくる。
その光景は、
ユレトの頭に以前からこびりついて離れず、
徐々に大きくなってゆく邪念を想起させた。
ふと、なぜ自分は戦っているのか、
分からなくなる時がある。
もちろん半ば人質を取られている状態だから、
と言うのは事実としてある。
しかし、この戦時下。
私がウルバッハに忠実にしていたところで、
祖国が北ブリムスとキトゥルセンに侵攻されれば、
あの時の契約は意味がなくなるのではないか。
大陸の雲行きが危うくなってきた時から、
私はずっとこのことを考えてきた。
戦況は分からない。
ウルバッハは教えてくれない。
他の団員も我関せずだ。
唯一クガだけは親身になってくれたけど、
彼は何か別の事に集中しているようだった。
私自身、行動は制限され、監視されている。
勝手には帰れない。
しかし、もう祖国はないとしたら?
もう、家族もエイクも死んでいるとしたら?
私は何のために戦っているの?
大量の海水で両側から圧し潰すように、
ユレトは攻撃を仕掛けた。
当然凍らされ、動きは止まる。
しかし、ユレトは一段と魔素を練り込み、
氷を砕いて水の針を飛ばした。
次々と際限なく、
全方向から何百と攻撃を仕掛ける。
やがてクロエは氷の塊で見えなくなった。
視界を奪えれば上々。
チャンスは今しかない。
ユレトは大量の魔素を練り込んだ水の槍を勢いよく投げた。
槍は凍らずに、氷の塊の中心を貫く。
手ごたえあり。
引き抜くと、槍の先端は赤く染まっていた。
通常では考えられない速度で進む。
故に敵からの遠距離攻撃が当たる可能性は低い。
再度接近、
衝突ギリギリのところで、
船の脇の海上から数十の水の槍が伸びる。
しかし、水槍は一定の距離に近づくと凍ってしまった。
敵の戦場に一際目立つ女が立っている。
あれが氷の魔女、クロエ・ツェツェルレグか。
報告書通り、片足は自らの能力で作りだした義足。
水と氷、平地なら私の方が分が悪い。
けどここは海上。
水はいくらでもある。
私の方が魔素の負担は軽いはず。
海上に手をかざし、海水をせり上げる。
そのまま水の壁を押し出した。
水の壁は大津波となり、
クロエを船ごと襲う。
だがそれも瞬時に凍らされる。
……なんて魔素量。
でも予想通り。
ユレトは大質量の海水で回転刃を作り、
津波の氷壁を砕いた。
そのまま大量の海水で圧し潰そうとしたが、
それも凍らされ逆に砕かれた。
この量でも凍らすか……。
向かってきた破片をユレトは薄い水の膜で防いだ。
クロエと目が合った。
澄ました顔。
それは実戦経験豊富な証拠。
クロエは両手を広げると、周囲の海を凍らせた。
二隻の船を中心に氷の島が出来上がる。
周囲の兵士たちがどよめく。
何て分厚い氷。
流れを変えるか。
「ゴラ、行きなさい」
小さな猿の魔獣がユレトの脇を通り、
船から飛び出た。
氷に着地すると、出来たばかりの氷原を駆けてゆく。
叫び声をあげるとみるみるうちに身体が大きくなった。
5mほどの巨大猿になったゴラは、
敵船の腹に渾身の拳を叩き込んだ。
轟音と共に大きな穴が開く。
敵兵が矢を放つがそんなもの効くわけがない。
その時、何かがゴラに襲い掛かった。
白い人型の獣だ。
どうも狼人族が狂戦士化した姿に似ているが、
魔素を感じる。
ということは敵の魔獣か。
2m半ほどの魔獣はとんでもない速さでゴラを攻撃している。
目線を戻すとクロエが消えていた。
どこに……
そう思ったのとほぼ同じタイミングで、
近くの凍った波しぶきが割れた。
氷の中から現れた……
まさか氷の中を通って……?
「氷吹雪!!」
ユレトは咄嗟に後ろへ飛んだ。
「くっ!!」
氷の粒が掘削機のように全てを粉砕する。
船体が大きく抉れた。
間髪入れず、
クロエは床から鋭利な氷柱をたくさん発生させた。
ユレトは水蛇を作りだし、
その頭に乗って上に逃げた。
しかし水蛇も下から徐々に凍ってゆく。
やはり相性は最悪だ。
船員たちが次々倒れてゆく。
何事かと思ったら敵の有翼人兵が船の周りを飛んでいた。
飛びながら正確に矢を撃ち込んでくる。
その光景は、
ユレトの頭に以前からこびりついて離れず、
徐々に大きくなってゆく邪念を想起させた。
ふと、なぜ自分は戦っているのか、
分からなくなる時がある。
もちろん半ば人質を取られている状態だから、
と言うのは事実としてある。
しかし、この戦時下。
私がウルバッハに忠実にしていたところで、
祖国が北ブリムスとキトゥルセンに侵攻されれば、
あの時の契約は意味がなくなるのではないか。
大陸の雲行きが危うくなってきた時から、
私はずっとこのことを考えてきた。
戦況は分からない。
ウルバッハは教えてくれない。
他の団員も我関せずだ。
唯一クガだけは親身になってくれたけど、
彼は何か別の事に集中しているようだった。
私自身、行動は制限され、監視されている。
勝手には帰れない。
しかし、もう祖国はないとしたら?
もう、家族もエイクも死んでいるとしたら?
私は何のために戦っているの?
大量の海水で両側から圧し潰すように、
ユレトは攻撃を仕掛けた。
当然凍らされ、動きは止まる。
しかし、ユレトは一段と魔素を練り込み、
氷を砕いて水の針を飛ばした。
次々と際限なく、
全方向から何百と攻撃を仕掛ける。
やがてクロエは氷の塊で見えなくなった。
視界を奪えれば上々。
チャンスは今しかない。
ユレトは大量の魔素を練り込んだ水の槍を勢いよく投げた。
槍は凍らずに、氷の塊の中心を貫く。
手ごたえあり。
引き抜くと、槍の先端は赤く染まっていた。
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