【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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最終章 大黒腐編

第265話 人質交換

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ウルバッハは俺に向けた魔剣を鞘に納めた。



「こんな天気のいい日に王子を殺せるか。



……さて、来たようだな」



ウルバッハが頭上を見上げる。



城の一番近い壁塔にギルギットが姿を現した。



もう一人誰かいる。



千里眼で拡大。



「……っ!! モリア!!」



後ろ手に縛られた状態で、



塔の先端に立たされていた。



ギルギットが掴んでいる腕を離せば、



モリアは落ちる。



地上までは10m以上はある。



とても助からないだろう。



モリアは血の気の引いた顔色だ。



頬には涙の後があった。



「人質交換といこうじゃないか。



ザヤネに埋め込んだ爆弾を無効化して解放しろ」



……やはりそう来たか。



「無効化すれば、モリアを解放すると誓うか?」



「……約束しよう」



ウルバッハはにたりと笑う。



















ガラドレスから西に120㎞  



マーハント軍駐屯基地







マーハント将軍以下、大勢の兵士が武器を構え、



黒ずくめの一人の男を囲んでいる。



「全員、手を出すな。



あいつは【千夜の騎士団】不死身のクガだ」



マーハントの視界には、



次々と情報がポップアップされてくる。



手に持っているのは魔剣シェイクルーパ。



部下たちがざわめく。



「あいつがそうなのか」



「普通の若者に見えるな……」



「バカ、油断するな」



クガは門の前から動かなかった。



マーハントの横にザヤネが来る。



複雑な表情をしているザヤネを見て、



本人が何とか脱走しようと、



救助要請を出したわけではないのは分かった。



なので交渉だろうとマーハントは踏んだ。



そして交渉する案件は……。



「まさかザヤネを取り返しに?」



副将リユウも隣に立つ。



その時、マーハントに脳内通信が入った。



オスカー王子からだ。



『マーハント、ザヤネを解放する。



【千夜の騎士団】の使者が来ているはずだ』



『ええ、不死身のクガが目の前に』



『無条件で渡せ。



こちらも人質を取られている。



絶対に交戦するな』



『分かりました』



『ザヤネに埋めてある小型爆弾に自壊信号を送る』



マーハントの視界から、



ザヤネの生殺与奪権の欄が消えた。



部下たちは殺気を放ち、



今にでもクガに襲い掛からんばかりだ。



「お前たち交戦するな。



オスカー様直々のご命令だ」



マーハントはザヤネと目が合うと、



小さく頷いた。



それを合図にザヤネは歩き出す。



「本当に行くのか、ザヤネ」



声をかけたのはリユウだ。



「仲間になれたと思っていたのに」



それはほとんどの部下たちの総意だった。



ここにいるほとんどの者が、



ザヤネの能力で命を救われている。



ましてや若い兵士が多い。



同年代の女の子が一人いるだけで、



殺伐とした毎日に華が出る。



皆ザヤネの事が好きなのだ。



たとえ魔人でも。



それだけの時間を共に過ごしてきた。



立ち止まり、振り向くザヤネ。



一瞬の間を置き、



ザヤネから影の槍が四方に出現、



周りの兵達の喉元ギリギリで止まる。



「仲間っていうのは対等な関係を言うんだよっ!



こっちは心臓に爆弾仕掛けられてんのに、



それで対等な仲間だと?



私は奴隷だったっ!!!



殺されないように毎日ビクビクしながら、



お前ら全員の機嫌を損ねないように……



媚びへつらってたんだよっ!」



ザヤネは物凄い剣幕で怒鳴った。



目尻には涙が溜まっている。



本音なのか、



クガの手前、そう言うしかないのか、



皆戸惑っている。



「……それで? 仲間だと? 笑わせるな! 



お前らとの思い出なんて考えただけで……



考えただけで……」



脳裏に色々なことがよみがえる。



あれ……



なんで楽しい記憶ばっかりなんだよ……。



言葉に詰まり、ただただ涙だけが流れた。



だって私は心臓に爆弾入れられて……



強制的に……。



リユウが一歩前に出る。



「ザヤネ……



俺たちは皆お前に何度も命を救われた。



感謝している。



だがこれからは敵だ。



今度出会ったら殺し合いになるだろう。



俺はお前を殺したくない。



皆もそうだ。



ザヤネも……そうだろう?



だから二度と会わないことを願う。



それと……俺はお前に惚れていた。



短い間だったけど、



一緒にいれて本当に楽しかった。



ありがとう」



ザヤネの顔が崩れる。



とめどなく涙が流れる。



クガに見られまいとしているのか、



歯を食いしばり、声を殺して。



しかし肩は震えていた。



「なに言ってんだ、ばかやろう……」



ザヤネはそう吐き捨てると、



クガの元へ歩き出した。





















「無効化した。ザヤネは軍から離れたぞ。



モリアを解放しろ」



「……ふむ。上手くいったようだな。



一応言っとくが、



後からまた接続しようとしても無駄だ。



爆弾は、すぐにこちらで手術して取り出す」



「分かってる。何もしない。



早くモリアを解放しろ」



ウルバッハはしばらく俺の顔を睨んだ。



そして僅かに微笑み、



ギルギットを見上げて手を上げた。



ギルギットが頷くのが見えた。



手に何か……あれは短刀か?



おい、やめろ……まさか……



ギルギットはモリアを背中から刺した。



「モリアッ!!!!!」



モリアの目が見開かれる。



「何してんだ、お前ッ!!!!」



ギルギットは手を離し、



モリアは塔の上から落ちた。



生々しい音とともに、



モリアの生体反応が消えた。



「……舐めてんのか。



さっきの言葉は何だったんだ!」



「解放したじゃないか。



肉体という脆い器から。



ん? 違ったのか?



悪い。文化と風習の違いだな。



そんなに怖い顔をするな。



国と宗教が違えばよくあることだ」



ああ、やばいな……頭の血管がキレそうだよ。



こいつらはここで殺す。



殺す殺す殺す殺す殺すッッッ!!!!!!



「炎槍っ!!!」



俺はフラレウムから特大の炎の槍を出した。



特訓していた新技。



例えるなら青い巨大なガスバーナーだ。



炎槍は壁を丸くくり抜いた。



かわされたか。



離れた所に着地したウルバッハは、



「今日はお前の相手は出来ない。



悪いが俺は忙しいんだ。



やらなきゃならないことが溜まってるんでね」



そう言い残し、ジオーと共に透明化して姿を消した。



「逃がすかよ」



すぐに辺り一帯を焼き払おうと思った時、



上からギルギットが降ってきた。



粉塵の中からゆっくりと出てきたギルギットは、



「俺は暇だぜ。



遊んでくれよ、王子様」



と人差し指をちょいちょいと動かし、



挑発してきた。

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