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第一巻 第四章 「その闘技場、激闘につき」

第四章 第四節 ~ 勝者と敗者 ~

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「試合終了――ッ‼‼ リングに立っていたのは――〝第六十三代目チャンピオン〟リオナ選手だあぁぁぁッ‼‼ 正に手に汗握る激戦ッ‼‼ 突然の連戦にも関わらず、闘技場の新生チャンピオンが見事初防衛を果たしましたッ‼‼」

 熱狂する観客達に大きく手を振るリオナ。
 その足元で、顔を赤くしたミラがへたり込んでいた。

「う、うぅ……こんな……こんな負け方って……!」

「楽しかったからいいじゃねえか!」

「良くないですよっ‼‼」

 顔を両手で覆い、あうあうと泣き出すミラ。
 どうやら、公衆の面前で派手な嬌声を上げたことが余程響いているらしい。
 彼女の様子を見るに、これは立ち直るまでにかなり時間がかかりそうだった。

 うずくまるミラは放っておいて、リオナは控室の方に目を向けた。
 丁度傷を治療したらしいハイドルクセンが、こちらに向かって歩いて来るところだった。

「やあやあ、二人共お疲れ様! まさかミラちゃんにまで勝ってしまうとは……やはり、私の心を射止めた女性ひとは、只者ただものではなかったということか!」

「そいつはどーも。てかオマエ、ミラのことも知ってたのか」

「当然だとも! 私はこの街に住む美しい女性のことは何だって知っているッ! それに、ミラちゃんはこの街ではとても優秀な魔術師で、ちまたでは彼女を次の〝ギルドマスター〟に推す声も多いのさ」

「へえ、そんなに凄いヤツだったのか」

 その凄い魔術師は、絶賛ウサ耳をへにょらせて落ち込み中である。
 だが、二人の会話は聞いていたようで、ミラは顔を上げてハイドルクセンに言った。

「ハイドさん……前にも言いましたが、そのお話は……」

「わかっている。何も無理強いはしないさ。ただ、ミラちゃんにはそれだけの強さと人望があるということだけは、覚えておいてくれたまえ」

「……はい」

 会話の流れを察するに、ミラはギルドマスターにあまり乗り気ではないようだ。
 何か理由がありそうだが、今はかないでおく。

(……大勢の前で話すことでもないだろうしな)

 ハイドルクセンはうなずくと、パンッ!と手を打ち、声を張り上げて言った。

「さて! そろそろ中断されてしまった表彰式の再開といこうか! 今の戦いを見ていた者達ならば、誰もリオナちゃんの新チャンピオン就任に文句は言わないだろうッ‼‼」

 観客席から大きな歓声が上がる。
 割れんばかりの拍手と相まって祝福の嵐が渦を巻いた。

「おおおぉぉぉう‼‼ いいモン見せてもらったぞおッ‼‼」

「もう一生君に付いて行くよリオナちゃ~~んっ!」

「次からも楽しませてくれよッ‼‼」

 ハイドルクセンが観客席をぐるりと見渡し、満足げな微笑を浮かべてリオナに向き直った。

「……というわけだ。皆が君の実力を認め、祝福してくれている。さあ、優勝旗の贈呈といこうではないか」

「ああ」

 ハイドルクセンと連れ立って表彰台へ向かう。
 ついでということで、その後ろからミラも付いて来た。
 称賛と憧憬と羨望の視線を一身に受け、悠然たる足取りでハイドルクセンの背中を追いかける。
 だが――



 リオナ達を取り囲む観客達の中に、一人だけこの祝宴ムードに異を唱える者がいた。


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