空き家

ヤシテミカエル

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空き家

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南友子がやっと全ての手続きが終わり、引っ越しの荷物の片付けも終わった半年も過ぎた頃、南友子も近所の工場でスイーツを作る仕事が決まり働き始めていた。

そんな時だった。
隣の家のリフォームも終わり、隣の息子さんがそろそろ引っ越して来る頃だろうと近所の人は噂をしていた。

しばらくして夕飯時に南家の玄関のチャイムがなった。
南友子は玄関の鍵を開けた。

「この度隣に住む事になりました。
右京君夫と言うものです。宜しくお願いします。
男の一人暮らしですから、朝から仕事していますので昼間はいませんが、週末と夜はいますので何かご迷惑をおかけする事がありましたら遠慮なくお話しください。これつまらないものですけど。」

そう言って、右京君夫という礼儀正しい中年の紳士的なお隣に住む男性は、南友子に引っ越しのご挨拶に
お菓子の詰め合わせを手渡した。

その後、母が来て玄関先で一言話した。

「お隣の息子さんの君夫君ね。一年に一度しか帰って来ないし、こっそり草むしりしてすぐ帰ってしまうからチラッとしか見る事ができなかったけど、今度からゆっくり話せるわね。」そう言った。

「はい、週末は休みですので、私は近所の電気メーカーで働く事になりましたので宜しくお願いします。
それではまた…。」そう言って右京君夫は南家の玄関を後にした。

ドアを閉めて鍵をかけた後、南百合子は友子に言った。

「あの人は誰?あの人はお隣の息子の右京君夫君じゃないような感じがする。一年に一度隣の息子さんはメンテナンスに来てすぐ帰って行く。確かに顔をじっくり見た事は何年もなかったでも、草むしりをして帰って行く後ろ姿は見たわ。もう少し太っていたような感じがした。それに…。一年に一度誰もいない時に家をメンテナンスに来てすぐに帰るほど人と関わるのが苦手な人があんなに話すだろうか?

隣にご両親と住んでいた時も君夫君は人付き合いを嫌がって話しかけても嫌々ながら話しをする人だった。学生時代もほとんど顔を見せなかったわ。」

友子は言った。
「でも、名前も同じだし、東京に出ていって変わったって事もあるわよ。良い方向に変わったのならよかったじゃない。」

「そうね。私の考えすぎよね?」
友子と百合子は笑っていた。

そう、お隣さんはずっと紳士的で優しい何も問題のない人…。

その時はまだ、南友子と百合子は隣の一人の男性を
そんなふうに思っていた。

近所の人もいい人だとしか思っていなかった…。

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