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第四章
9 父と兄の悪あがき・後編
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「それだ!」
「え?」
兄を安心させようと思って説明すると、父が突然目を輝かせた。
「第二王女殿下はまだ幼いからいいが、女同士の争いは醜いからな。もっともらしい事を言ってミアを排除する意図かもしれん」
「そんな、お父様……」
「父上、さすがにそれは少々……言い過ぎでは……」
つまり王妃がミアをいびるかもしれないという発言に、さすがのクラウディオも腰が引けている。城勤めは身分に敏感だ。
ミアもそれは父の誤解だと思う。
王妃はミアを責任ある王家の一員として迎えるつもりがあるからこそ、敢えて悪役になって注意をしているのだ。アルベルトと婚約してから何度も王妃主催のお茶会に呼ばれたが、いつも優しく可愛らしい人だった。
とても理不尽な嫌がらせをするようには見えない。
「義父上、古くからの付き合いがあるから分かっているとは思いますが、僕の母はそんな陰湿なことをする性格ではありませんよ」
「それはどうかな。あくまでも一般論として、だが。女は息子が結婚すると恋人を盗られたような気になるそうじゃないか」
しつこく食い下がる父に、アルベルトもムッとしているようだ。
大好きな2人が険悪な雰囲気になるのがつらくて、ミアはどうしたらいいのかとオロオロする。
すると、今までうんざり顔で会話を聞いていた母が父の前に立ち塞がった。
「あら、ではクラウディオが結婚したら、私がそんな陰湿な仕打ちをするとあなたは思っていらっしゃるの?」
突然の母の参戦に父は怯む。
「いや……あくまでも一般論、だからな? 別にお前がそうだとは……」
「そうね、私はお義母様にとーっても教育的な指導を受けましたわね。あなたはそれを止めてくださいませんでしたけれど。女がみんなそうだなんて思わないでちょうだい」
「…………」
ぴしゃりと叱りつけた母の言葉で、威勢がよかったはずの父が口を噤んだ。
なんだかよく分からないが、今日はミアの周りのあちこちで火花が散っているようだ。
多分父も兄も嫁ぐミアを本気で心配してくれているから、こんなに熱くなっているのだろうとミアは思う。
愛情いっぱいの家族に見守られながら大好きなアルベルトの元に嫁ぐ自分は本当に幸せ者だ。
だがそうして心配してくれる気持ちはとてもありがたいのだが、出来ることなら笑顔で見送ってもらいたいというのも本音である。
もしかしたらこれから彼らの言うような困難が待ち受けているのかもしれないが、それはアルベルトと一緒にがんばって乗り越えるつもりだ。
今、自分がちゃんと幸せであると、父にも兄にも知ってもらいたかった。
そんな思いのミアは、一生懸命考えた末にふと名案を思いついた。
そうだ、心配性の父と兄を安心させるためには、自分がアルベルトと仲が良いところをたくさん見てもらえばいいのだ。そうすれば心穏やかに結婚を見届けてくれるだろう。
思いつきを早速実行するため、隣にいるアルベルトの袖をちょいちょいと引っ張った。
「どうした?」
相変わらず父と睨み合っていたアルベルトがミアに優しい笑顔を向けてくれる。
小さく手招きすると、何か伝えたいことがあると思ったらしい彼が、耳をミアの口元に近付ける。
「アル、大好きっ!」
「え?」
その瞬間を見逃さず、ミアはアルベルトの首に縋り付いた。
そして体重を掛けてぐいと引っ張る。つま先で背伸びをして、ちゅっと音を立てて彼の頬にキスを落とした。
目撃した全員の目が点になり、不機嫌そうにしていた父など、口をあんぐりと開けて顎が外れそうになっている。
「ミミミミミミミア、いいいいいい一体、なにを……っ」
やっと発した父の声は虫のようだった。
ちょっと刺激が強すぎたのかなとも思ったが、心配したまま娘を送り出すよりはいいだろう。
そして父と兄のために、ミアは心からの笑顔を浮かべる。
「お父様、お兄様、心配してくださるのはとても嬉しいの。でもね、こんな素敵な旦那様と結婚出来て、私は今人生で一番幸せよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい……まさか、まさかお父様と暮らすより殿下の方がいいと言うのかい?!」
「ええ! だから大丈夫。アルのこと……とっても愛してるから!」
恥ずかしそうな様子とは裏腹に大胆な愛の言葉を言い放ったミアは、途中で居た堪れなくなってアルベルトの腕に抱きついた。
すると彼も、『私も愛してるよ』と囁いてくれる。
あまりにも幸せいっぱいで、ミアは思わず悲鳴をあげたくなった。が、公衆の面前だということを考慮してなんとか我慢する。
「義父上、この通り夫婦仲は良好なのでご心配なく。彼女を悲しませることなどしませんよ」
「ミ、ミア……」
父と兄が、がっくりとその場に崩れ落ちた。
完全に意気消沈した彼らはすっかり大人しくなり、それ以降は給仕を捕まえては酒をがぶ飲みしていた。
たまにそちらを見て大丈夫だろうかと心配していたミアだが、『きっと末っ子の結婚が寂しいと同時に嬉しいんだよ。男同士で積もる話もあるさ』とアルベルトに言われたため、そっとしておこうと思い直した。
何の打算も計算もない自分の行動が彼らの心を根元からへし折ってしまったことなど、多分一生気付かない。
コンスタンツィ家男性陣の悲哀をはらんだ結婚披露の夜会はやがて終わりを迎え、ミアは侍女たちに連れられて城の奥へと向かった。
「え?」
兄を安心させようと思って説明すると、父が突然目を輝かせた。
「第二王女殿下はまだ幼いからいいが、女同士の争いは醜いからな。もっともらしい事を言ってミアを排除する意図かもしれん」
「そんな、お父様……」
「父上、さすがにそれは少々……言い過ぎでは……」
つまり王妃がミアをいびるかもしれないという発言に、さすがのクラウディオも腰が引けている。城勤めは身分に敏感だ。
ミアもそれは父の誤解だと思う。
王妃はミアを責任ある王家の一員として迎えるつもりがあるからこそ、敢えて悪役になって注意をしているのだ。アルベルトと婚約してから何度も王妃主催のお茶会に呼ばれたが、いつも優しく可愛らしい人だった。
とても理不尽な嫌がらせをするようには見えない。
「義父上、古くからの付き合いがあるから分かっているとは思いますが、僕の母はそんな陰湿なことをする性格ではありませんよ」
「それはどうかな。あくまでも一般論として、だが。女は息子が結婚すると恋人を盗られたような気になるそうじゃないか」
しつこく食い下がる父に、アルベルトもムッとしているようだ。
大好きな2人が険悪な雰囲気になるのがつらくて、ミアはどうしたらいいのかとオロオロする。
すると、今までうんざり顔で会話を聞いていた母が父の前に立ち塞がった。
「あら、ではクラウディオが結婚したら、私がそんな陰湿な仕打ちをするとあなたは思っていらっしゃるの?」
突然の母の参戦に父は怯む。
「いや……あくまでも一般論、だからな? 別にお前がそうだとは……」
「そうね、私はお義母様にとーっても教育的な指導を受けましたわね。あなたはそれを止めてくださいませんでしたけれど。女がみんなそうだなんて思わないでちょうだい」
「…………」
ぴしゃりと叱りつけた母の言葉で、威勢がよかったはずの父が口を噤んだ。
なんだかよく分からないが、今日はミアの周りのあちこちで火花が散っているようだ。
多分父も兄も嫁ぐミアを本気で心配してくれているから、こんなに熱くなっているのだろうとミアは思う。
愛情いっぱいの家族に見守られながら大好きなアルベルトの元に嫁ぐ自分は本当に幸せ者だ。
だがそうして心配してくれる気持ちはとてもありがたいのだが、出来ることなら笑顔で見送ってもらいたいというのも本音である。
もしかしたらこれから彼らの言うような困難が待ち受けているのかもしれないが、それはアルベルトと一緒にがんばって乗り越えるつもりだ。
今、自分がちゃんと幸せであると、父にも兄にも知ってもらいたかった。
そんな思いのミアは、一生懸命考えた末にふと名案を思いついた。
そうだ、心配性の父と兄を安心させるためには、自分がアルベルトと仲が良いところをたくさん見てもらえばいいのだ。そうすれば心穏やかに結婚を見届けてくれるだろう。
思いつきを早速実行するため、隣にいるアルベルトの袖をちょいちょいと引っ張った。
「どうした?」
相変わらず父と睨み合っていたアルベルトがミアに優しい笑顔を向けてくれる。
小さく手招きすると、何か伝えたいことがあると思ったらしい彼が、耳をミアの口元に近付ける。
「アル、大好きっ!」
「え?」
その瞬間を見逃さず、ミアはアルベルトの首に縋り付いた。
そして体重を掛けてぐいと引っ張る。つま先で背伸びをして、ちゅっと音を立てて彼の頬にキスを落とした。
目撃した全員の目が点になり、不機嫌そうにしていた父など、口をあんぐりと開けて顎が外れそうになっている。
「ミミミミミミミア、いいいいいい一体、なにを……っ」
やっと発した父の声は虫のようだった。
ちょっと刺激が強すぎたのかなとも思ったが、心配したまま娘を送り出すよりはいいだろう。
そして父と兄のために、ミアは心からの笑顔を浮かべる。
「お父様、お兄様、心配してくださるのはとても嬉しいの。でもね、こんな素敵な旦那様と結婚出来て、私は今人生で一番幸せよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい……まさか、まさかお父様と暮らすより殿下の方がいいと言うのかい?!」
「ええ! だから大丈夫。アルのこと……とっても愛してるから!」
恥ずかしそうな様子とは裏腹に大胆な愛の言葉を言い放ったミアは、途中で居た堪れなくなってアルベルトの腕に抱きついた。
すると彼も、『私も愛してるよ』と囁いてくれる。
あまりにも幸せいっぱいで、ミアは思わず悲鳴をあげたくなった。が、公衆の面前だということを考慮してなんとか我慢する。
「義父上、この通り夫婦仲は良好なのでご心配なく。彼女を悲しませることなどしませんよ」
「ミ、ミア……」
父と兄が、がっくりとその場に崩れ落ちた。
完全に意気消沈した彼らはすっかり大人しくなり、それ以降は給仕を捕まえては酒をがぶ飲みしていた。
たまにそちらを見て大丈夫だろうかと心配していたミアだが、『きっと末っ子の結婚が寂しいと同時に嬉しいんだよ。男同士で積もる話もあるさ』とアルベルトに言われたため、そっとしておこうと思い直した。
何の打算も計算もない自分の行動が彼らの心を根元からへし折ってしまったことなど、多分一生気付かない。
コンスタンツィ家男性陣の悲哀をはらんだ結婚披露の夜会はやがて終わりを迎え、ミアは侍女たちに連れられて城の奥へと向かった。
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