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三通目 親子の情
#2
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『それで、坊やの本当のご両親は?』
竜樹さんの言葉がちくちくと胸を刺す。
『そろそろ、君自身の苦しみを解決したらどうだい?』
ちくちく。ちくちく。
『本当は、こうありたいって望みはあるんだろう?』
ちくちく。ちくちく。
「……ああ、もう。竜樹さんがあんなこと言うから」
思い出しちゃったじゃないか。
七歳の時に出ていったきりの両親のこと。
忘れなきゃ。僕は要と生きていくって決めたんだもの。
「…………あれ……何で……?」
頬を伝う雫に、僕はまだパパとママのことを諦めきれていないのだと思い知らされる。
僕がパパとママに置いて行かれてからもう四年も経っているのに。
今から四年前。病院で目覚めた僕は起きたり眠ったりを繰り返していて、とても長い夢を見ているようだった。
要の話だと、僕はほとんど人形のようで、話しかけてもほとんど反応がなかったらしい。
正直、その頃の事はほとんど覚えていない。
でも、僕の手を握って「一緒に生きて」と言ってくれていたというのは覚えている。
要は僕がはっきりと反応を返すまで、毎日毎日同じように僕の手を握ってくれていた。
僕の意識がはっきりとしてからは、要の話を僕が理解できるまで同じように何度も話をしてくれた。
僕の事。パパとママの事。要の事。
要によると、あの家から僕を連れ出したのは要で、もう少し来るのが遅かったら僕は死んでしまっていたらしい。
栄養が全然足りてなくて、体が動かなくなってしまったんだって。
だから、まずはゆっくり体を治そうって言ってくれた。
僕が退院できるまで、それから一年以上もかかった。
パパとママは、僕を置いて行ったせいでお巡りさんに捕まったんだって。
育児放棄、という言葉の意味を教えてもらった時、僕は本当にパパとママから嫌われていたんだと突き付けられたようでとても心が痛かった。
悲しくて苦しくて、寝る時まで涙が止まらなかった。
そんな僕に、要がまた一緒に暮らそうって言ってくれた。
要も一人ぼっちになってしまったばかりで寂しいんだって。
要の子供になって、っていう言葉に僕が頷けないでいたら、一緒にいてくれるだけでもいいからって。
僕は大人になったら、悲しいとか寂しいなんて気持ちはなくなるものだと思ってた。
強くてカッコいい、弱音とは無縁の大きな存在――それが大人だと思ってた。
だから、寂しいから一緒に暮らしてくれたら嬉しいって言う要の言葉にびっくりして、気づいたら頷いていた。
退院しても帰る場所がもうないから、っていうのもあったんだと思う。
「……もう、四年も経つのか……」
正直、要と暮らし始めてからは寂しいと思うことはなかった。
要は僕をどんな時でも受け入れてくれた。
要が本当のパパなら良いのに、と思ったくらいだ。
そんな要に、どうしても言えていないことがある。
僕はパパとママの現在の居場所を知っているってこと。
二年近く配達人として活動していく中で、たまたま僕と、パパとママのことを知っているお婆ちゃんの霊が教えてくれたんだ。
たぶん、要にとっては僕に知られたくないことだと思うから、まだ言えていない。でも……。
僕はふと、夏樹のことが頭に浮かんだ。
実の家族から憎まれ続けて生きてきた夏樹。姉弟みたい、と感じたのは嘘ではない。
要と出会っていなかったら、僕は夏樹になっていたんじゃないかって感じたくらい僕と夏樹はそっくりで。
そんな夏樹は僕が竜樹さんの想いを届けたことで、ようやく本当の家族に戻れた。
「今度は、僕が向き合う番だ」
居場所は知っている。行けない距離じゃない。でも……。
――もし、会うことを拒絶されたら?
拒絶されることは怖いけど、今まで通りだ。
要が僕を受け入れてくれている。またここに帰ってきて、要と一緒に暮らせばいい。
――もし、冬樹さんのように今までの事を謝って一緒に暮らそうと言ってくれたら?
そうなったら良いな。何もかもやり直して、要みたいにいっぱいハグしてくれたりしたら嬉しい。
あれ? でもそうしたら要は? 今度は僕が要を置いて行くことになっちゃうんじゃない?
要は、一人が寂しいから一緒に暮らしてって言った。
僕が出ていったら、要はまた一人ぼっちになっちゃう?
――そもそも、要は二人と僕に会ってほしくないって思ってる。それなのに、会いに行っちゃって良いの?
良くはないよね。怒るどころじゃなく、嫌われるかも?
「うう、どうしよう……?」
期待と不安でぐるぐるする。
パパとママが恋しい気持ちと、要と一緒にいたいっていう気持ち。
何だか出口のない迷路に迷い込んでしまったような気分だ。
「明日、会いに行ってみよう」
一人でぐるぐる考えていても答えは出なそう。
なら、さっき決めた通り、向き合ってみればいい。
二人に会いに行ってみて、二人の反応を見て、それからまた考えよう。
少なくとも、二人に会えれば、このちくちくする気持ち……僕の本当の望みとやらもわかるかもしれない。
竜樹さんの言葉がちくちくと胸を刺す。
『そろそろ、君自身の苦しみを解決したらどうだい?』
ちくちく。ちくちく。
『本当は、こうありたいって望みはあるんだろう?』
ちくちく。ちくちく。
「……ああ、もう。竜樹さんがあんなこと言うから」
思い出しちゃったじゃないか。
七歳の時に出ていったきりの両親のこと。
忘れなきゃ。僕は要と生きていくって決めたんだもの。
「…………あれ……何で……?」
頬を伝う雫に、僕はまだパパとママのことを諦めきれていないのだと思い知らされる。
僕がパパとママに置いて行かれてからもう四年も経っているのに。
今から四年前。病院で目覚めた僕は起きたり眠ったりを繰り返していて、とても長い夢を見ているようだった。
要の話だと、僕はほとんど人形のようで、話しかけてもほとんど反応がなかったらしい。
正直、その頃の事はほとんど覚えていない。
でも、僕の手を握って「一緒に生きて」と言ってくれていたというのは覚えている。
要は僕がはっきりと反応を返すまで、毎日毎日同じように僕の手を握ってくれていた。
僕の意識がはっきりとしてからは、要の話を僕が理解できるまで同じように何度も話をしてくれた。
僕の事。パパとママの事。要の事。
要によると、あの家から僕を連れ出したのは要で、もう少し来るのが遅かったら僕は死んでしまっていたらしい。
栄養が全然足りてなくて、体が動かなくなってしまったんだって。
だから、まずはゆっくり体を治そうって言ってくれた。
僕が退院できるまで、それから一年以上もかかった。
パパとママは、僕を置いて行ったせいでお巡りさんに捕まったんだって。
育児放棄、という言葉の意味を教えてもらった時、僕は本当にパパとママから嫌われていたんだと突き付けられたようでとても心が痛かった。
悲しくて苦しくて、寝る時まで涙が止まらなかった。
そんな僕に、要がまた一緒に暮らそうって言ってくれた。
要も一人ぼっちになってしまったばかりで寂しいんだって。
要の子供になって、っていう言葉に僕が頷けないでいたら、一緒にいてくれるだけでもいいからって。
僕は大人になったら、悲しいとか寂しいなんて気持ちはなくなるものだと思ってた。
強くてカッコいい、弱音とは無縁の大きな存在――それが大人だと思ってた。
だから、寂しいから一緒に暮らしてくれたら嬉しいって言う要の言葉にびっくりして、気づいたら頷いていた。
退院しても帰る場所がもうないから、っていうのもあったんだと思う。
「……もう、四年も経つのか……」
正直、要と暮らし始めてからは寂しいと思うことはなかった。
要は僕をどんな時でも受け入れてくれた。
要が本当のパパなら良いのに、と思ったくらいだ。
そんな要に、どうしても言えていないことがある。
僕はパパとママの現在の居場所を知っているってこと。
二年近く配達人として活動していく中で、たまたま僕と、パパとママのことを知っているお婆ちゃんの霊が教えてくれたんだ。
たぶん、要にとっては僕に知られたくないことだと思うから、まだ言えていない。でも……。
僕はふと、夏樹のことが頭に浮かんだ。
実の家族から憎まれ続けて生きてきた夏樹。姉弟みたい、と感じたのは嘘ではない。
要と出会っていなかったら、僕は夏樹になっていたんじゃないかって感じたくらい僕と夏樹はそっくりで。
そんな夏樹は僕が竜樹さんの想いを届けたことで、ようやく本当の家族に戻れた。
「今度は、僕が向き合う番だ」
居場所は知っている。行けない距離じゃない。でも……。
――もし、会うことを拒絶されたら?
拒絶されることは怖いけど、今まで通りだ。
要が僕を受け入れてくれている。またここに帰ってきて、要と一緒に暮らせばいい。
――もし、冬樹さんのように今までの事を謝って一緒に暮らそうと言ってくれたら?
そうなったら良いな。何もかもやり直して、要みたいにいっぱいハグしてくれたりしたら嬉しい。
あれ? でもそうしたら要は? 今度は僕が要を置いて行くことになっちゃうんじゃない?
要は、一人が寂しいから一緒に暮らしてって言った。
僕が出ていったら、要はまた一人ぼっちになっちゃう?
――そもそも、要は二人と僕に会ってほしくないって思ってる。それなのに、会いに行っちゃって良いの?
良くはないよね。怒るどころじゃなく、嫌われるかも?
「うう、どうしよう……?」
期待と不安でぐるぐるする。
パパとママが恋しい気持ちと、要と一緒にいたいっていう気持ち。
何だか出口のない迷路に迷い込んでしまったような気分だ。
「明日、会いに行ってみよう」
一人でぐるぐる考えていても答えは出なそう。
なら、さっき決めた通り、向き合ってみればいい。
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